レコード越しの戦後史、難関だった最後の1枚を入手

 水道橋博士が編集長を務めるメールマガジンメルマ旬報』(月3回発行、月額500円)で、8月から「レコード越しの戦後史」という連載を始めた。これは昭和20年の終戦から、天皇崩御する昭和64年までを追いかけたものだが、もちろんぼくが書くのだから当たり前の戦後史になるわけがない。タイトルに「レコード越しの」とあるように、戦後の日本を彩った様々なトピック(出来事や事件)を、それにまつわるレコードと共に読み解いていくという試みである。

 全体の構成はすでに出来ていて、取り上げるトピックはおよそ100項目ほどある。連載では、すでに終戦=『リンゴの唄』、復員=『かえり船』、還らぬ息子=『岸壁の母』、街娼=『星の流れに』が掲載されている。あとはひたすら書き進めていくだけなのだが、なにしろ戦後史なんて書くのは初めてのことで、とにかくたくさんの資料を読み込む必要があった。準備を始めたのは去年の夏からで、約1年のあいだ昭和史関連の本を40〜50冊ほど読んだだろうか。

 そうして、取り上げるべきトピックを決めたら、それに関連するレコードを探していく。「出稼ぎ労働者といえば……『ヨイトマケの唄』だ!」というように、すぐにレコードが連想できるものはいいが、そうでないものの方が大半で、これは大変な作業である。該当するレコードがない場合は、そのトピックを候補から外さなければならない。歴史を侮辱しているような気もするが、ぼくにとってこの企画はレコードありきなので、こればかりは仕方ない。

 三浦和義ロス疑惑事件は、戦後事件史の中でもかなり有名な出来事だったので、最初から候補に入れていたのだが、いくら探してもそれに関連するレコードがないため、泣く泣く候補から外すことにした。ところが、何かの本を読んでいたら、漫才コンビのザ・ぼんちが歌った『恋のぼんちシート』が、アフタヌーンショーでの川崎敬三と山本耕一のやりとり(それはおもに三浦和義事件のレポートでのこと)を歌詞に盛り込んだものであることを知り、一気に問題が解決した。

 ザ・ぼんちのレコードは80万枚も売れたので、入手はたやすい。中古レコード店の100円均一ボックスをのぞけば、かなりの確率で入っている。しかし、そういうものばかりではない。ある出来事に対して、それに該当するレコードの存在が確認できても、自分の手に入らなければ取り上げるわけにはいかないからだ。そこは、物書きというより、ぼくのコレクターとしての矜持である。この1年間は、資料の読み込みも大変だったが、掲載予定のレコードをかき集める作業にも、ずいぶん時間(とお金)を費やした。

 さて、ここからが本題である。

「レコード越しの戦後史」の最終章で取り上げるトピックで、どうしても入手できない曲が1枚だけあった。最終章ということは、昭和も終わり間際のことだから、世間はもうアナログからCD時代に変わりつつある時期だ。そのため、ぼくが探しているその曲も、8センチの短冊CDで発売されていた。しかし、例によってぼくのやることには「アナログ7インチ(シングル盤)に限る」という謎の縛りがある。だから、「レコード越しの戦後史」に掲載するジャケット画像は、すべてアナログ7インチで統一したい。いくらその曲が重要なものであっても、8センチの短冊ジャケットだったら載せたくない。我ながらめんどくさい性格である。

 そして、ここがコレクターの恐ろしいところなのだが、必死に調べたところ、探しているその曲にはアナログ盤もわずかながら存在することがわかった。昭和の末期あたりは、まだラジオ局などはアナログのターンテーブルが現役で使われており、レコードを作る側は、放送でオンエアさせてもらいやすくするために、プロモ用にはCDではなく、わざわざアナログ盤をプレスして配るという習慣があったのだ。だから、なんとしてでもそれを入手したかった。だけど、どマイナー盤のプロモ用7インチなんて、探したからってすぐに出会えるものではない。

 ならば、せめて短冊CDだけでも入手しておこうか。「全部アナログ7インチで統一」の野望は成就できないが、その曲は最終章を構成する要素のひとつとして、どうしても欠かせない。だから、アナログ盤と並行して短冊CDも探していたのだけど、やっぱり出てこない。プロモ用7インチ、短冊CD、いずれにしろマイナーな曲は絶対数が少ないので、出会いはスローモーションなのである。

 いちおう、その音源自体は正式なルートでダウンロード販売されているので、押さえとして買っておいた。これによって、盤の現物は持っていないけれど、著作者にお金は支払ったので、ネット上にあるジャケット画像を連載のために使用することは、道義的にも許されるだろう。7インチのジャケットじゃないのが癪ではあるけれど。

 さて、なぜこんなことをグダグダと書いてきたかというと、実は今日、やっとその現物を手に入れたからだ。短冊CDを? いやいや、プロモ用のアナログ7インチを! シングルレコードを! 穴のあいたドーナツ盤を!

 謎の達成感で、なんだかもう最終章まで書き終えたような気分ですね。

 この曲が、どういう文脈で登場するのかは、いずれ書かれるであろう最終章を読んでのお楽しみ。

池袋の定食屋で居酒をたのしむ

 昨日は、安田理央さんの「これから飲める人」って呼びかけに反応して、急遽、池袋で飲むことになった。他に友だち二人も合流して4人で飲むことになったんだけど、最初は安田さんと二人で店を探して歩いた。

 池袋といったら西口の「大都会」か「ふくろ」を真っ先に思い浮かべるが、あれらは昼から軽く飲むのに適している店であって、一日の仕事を終えた夜にわざわざ訪ねる感じの店でもない。安いのは嬉しいことだけど、ちょっとせわしないんだな。

 それで、とりあえず東口の美久仁小路なら間違いなかろうと、二人して向かってみた。実際、ここにはいい店が揃っている。しかし、ぶらぶら歩きながら各店を覗くも、どうも決め手に欠ける。なんというかね、店としてちゃんとしすぎているのだ。

 ちゃんとしてることの何が悪いのか! と、世間の皆さんはおっしゃるでしょうけれども、でも、ぼくたちめんどくさいオヤジだからさ、理想とする酒場にも、常人には理解できないこだわりポイントがいろいろあったりするわけよ。

 そんなときに見つけたのが、美久仁小路を東側へ抜けたところにある「お食事処 さつき」だった。ここは正式な業態としては定食屋ということになるのだろうけど、店頭のお品書きや店の雰囲気から“飲める感”がひしひしと伝わってくる。これが重要。

 定食屋だけれど、メニューにはいかにも酒のつまみが並び、酒の種類も豊富だ。酎ハイを頼んだら、絶妙に焼酎の濃いやつが出てきた。酎ハイというのは中の焼酎が濃ければいいってもんではないが、薄いよりは百倍いい。

 つまみは鳥の唐揚げ、刺身の盛り合わせ、塩昆布キャベツ、山芋の千切り、ザーサイなどを注文。男4人の酒宴にしては少なめだったのが申しわけないところだが、店の人はそれを非難するどころか、むしろ頼んでもいないサラダや小鉢をどんどん持ってきてくれて、しまいには味噌汁まで出してくれた。この故郷の母ちゃん的サービス攻撃は都会に疲れたおっさんたちの涙腺を刺激する。

 いい酒場を求めるのは簡単だ。それらしい店名で、それらしい暖簾で、それらしい外観で、それらしい内装の店を選べばいい。そんな店は盛り場に行けばいくらでもある。でも、ぼくらが求めているのはそういうことじゃない。ぼくらは「居酒屋」を探してるのではなくて、日常の中に潜む「居酒」を探しているのだ*1

 この居酒(いざけ)という言葉、今後ぼくにとっての重要なキーワードとなる気がしている。

*1:行きがかり上「ぼくら」と書いてしまったが、安田さんをはじめ同行した友人たちが同じことを考えているかどうかはわからない。

オールタイム・ベスト10

 もっとマメにブログを更新しなければと思いつつ、日々の仕事や飲酒に追われて、ついついサボっておりました。なにしろフリーライター業の他に古本屋もやっているし、天気がよければ昼飲みにも出かけなきゃいけないから、忙しくてしゃあない。どうしたって、ブログの更新は後回しになってしまいますわな。

 先日、洋泉社から映画秘宝exとして『オールタイム・ベスト10 究極決定版』というMOOKが発売されました。表紙には「超豪華150名の映画狂が爆選!」とある。そんな彼ら、彼女らが選んだ生涯ベスト10の映画を集計して、1位から30位までを巻頭に掲載してあるのだが、これが如実に「映画秘宝」のテイストをあらわしていておもしろい。

 このMOOKでは、ぼくも「人喰い映画傑作選」という原稿を書いているので、ぜひ読んでほしいのだけど、そのコラムはあくまでも「人喰い映画」というジャンル限定で10作を選んだものであって、ぼくのオールタイム・ベスト10とはなっていない。それで、ぼくの個人的なオールタイム・ベスト10はこのブログで発表しておこうと思った次第。

 というわけで、遅ればせながら以下に並べておきます。ぼくがコトあるごとに見返す、生涯この10本。

■1位『ツイスター』(1996)

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 最初は、CGで描かれた竜巻の迫力に圧倒されただけで、そのうち(CG慣れしてきたら)飽きるかもしれないなー、と思っていたけど全然飽きない。20年経ってもウシが飛ぶところとか最高。ぼくが映画に求める快楽が全部ある。人からどんだけ笑われても、この映画を愛す。

■2位『ガキ帝国』(1981)

 監督に対しては色々思うところもあるが、この映画のガキどもの輝きはいまも変わらない。ラスト、昔の喧嘩友達だったポパイが機動隊員になっているのを見かけたリュウ趙方豪)が、つい懐かしくて声をかけたところ、ポパイは「逮捕したろか?」と冗談交じりに権力を振りかざす。カッとなったリュウは思わずポパイをぶん殴ってしまい、おかげで機動隊員たちに追いかけ回される羽目に。ぼくはこの場面を見返すたびに、自分はいまどっちにいるか、を確認するのだ。

■3位『宇宙戦争』(2005)

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 長いあいだ怪獣映画の魅力がわからなかったぼくに、その楽しさを教えてくれた作品。

■4位『エイリアン』(1979)

 映画公開前に、待ちきれなくて買ってしまったノベライズ・コミックスを読んで、エイリアンの造形からストーリー展開、そしてラストのオチまで全部知ってしまってもなお、劇場で見た“それ”に震えあがった。シリーズ全部好きだけど、やっぱりこの1作目が最高。

■5位『プレデター』(1987)

 プレデターはサンマとか食べるの上手そうよね。

■6位『座頭市』(1989)

座頭市(デジタルリマスター版) [DVD]

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 勝新本人の監督による座頭市。時代劇というよりウエスタン寄りの演出が気持ちいい。冒頭、牢屋の場面で市が床にこぼした味噌汁をかがんで口つけて吸うところが好き。あとはぶった切った鼻が柱にへばりついてヒヨヒヨ〜と落ちていくところ。勝新監督はディテールの描写が本当にうまい。

■7位『ジョーズ』(1975)

 いまさら言うまでもなくモンスター映画の大傑作。これがなかったら、ぼくは人喰い映画を研究しようなんて思わなかったかもしれない。海上で夜明かしをするとき、主演の3人がサメにやられた傷自慢をするシーンが大好き。

■8位『マイク・ザ・ウィザード』(1989)

 何かを作っていて、自分の才能に自信を失いそうになったとき、いつも見返す映画。ラスト10分、劇中映画として流れるショートフィルム『The Wizard of Speed and Time』は、涙なくしては見られない。ジトロフが仕込んだ秘密のメッセージを見つけるためにコマ送りは必須。

■9位『狂い咲きサンダーロード』(1980)

 暴走族のネーミングが「魔墓狼死」っていう時点で全面降伏。「やってやろうじゃねぇの!」と「でもやるんだよ!」があれば生きていける。

■10位『一杯のかけそば』(1992)

一杯のかけそば [VHS]

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 ぼくにとって渡瀬恒彦といえば、これ。笑いごとじゃない。本当に素晴らしいんだ。まさかのアニメオープニングからのタラちゃん。タラちゃんからのピン子。過去に人を殺してそうな蕎麦屋の恒彦。革ジャン着てるだけで“ROCK”と呼ばれる青年。この映画がどれだけ最高かは、今後も機会あるたびに語っていきたい。

板橋区・大山、丸鶴の特製タンタン麺

 一般的に担々麺というと、ひき肉とラー油とゴマ。とくにスリゴマたっぷりの四川風ラーメンを連想すると思う。そしてクタッと火の通った青梗菜。あれが一般的な坦々麺のイメージだ。

 しかし、ぼくはあれがそんなに好きではない。いや、基本的に辛いラーメンはどれも好きなので、担々麺も嫌いではないが、スリゴマを溶いたスープにちょっと甘いイメージがあって、積極的に食べようという気になれないのだ。わかりますか、このニュアンス。いざ食べてみれば辛いんだけど、食後の印象としてはどうも口の中に甘さが残るの。

 そんなわけで四川風の担々麺をぼくが食べることはほとんどないのだけど、その一方で、タンタンメン(ここはあえてカナで書く)にはそれ以外のバリエーションが非常に多い。四川風とはガラリと変わって、ゴマを使っていないスタミナ麺のようなもの、玉子とじにしたもの(ニュータンタンメン本舗)など、いろいろある。

 板橋区の大山というところにはまるで縁がないので、そんな店があるのは知らなかったが、ある知人から「丸鶴」という町の中華屋さんを教えてもらった。そこの特製タンタン麺がおいしいというのだ。家からはちょっと距離があるけど、古本の仕入れも兼ねて足を伸ばしてみた。11時の開店とほぼ同時に入店し、迷うことなくそれを注文。

 出てきたのがこれだ。まあ、事前に食べログでドンブリ画像は見ているので、「ああこれね」という感じ。

 おそらく鶏ガラでとったであろうスープに、ラー油。のっている具は豚肉、玉ねぎ、ニラ、ニンジン、キクラゲを炒めたもので、ようするにスタミナ焼きだ。てっぺんには「なると」がひと切れ。麺は手打ちのちぢれ麺。このちぢれ麺というものもぼくの好みとは違うんだが(めんどくさくてスマンね)、ここのは悪くなかった。いやむしろ、野菜の甘みが溶け込んだスープとよく絡んで、ずいぶんうまかった。

 どうにも家から遠いので、なかなか再訪はしづらいけれど、こちらへ来る用事があったらぜひまた食べに来たいし、なんならここへ来ることを前提にブックオフ巡りのツアーを組んでもいい。それぐらい魅力的な味だった。

レコードを若返らせる

 USENやラジオなど放送局から流れてきたレコードは、管理を容易にするためジャケットにシールがべったり貼られていることが多い。これらは貼られてからそれほど間があいてなければ、剥がすのもそう難しいことではない。しかし、10年、20年と時間が経ってしまうと経年劣化でシールの糊が硬化して、容易には剥がれなくなってしまう。

 美品でコレクションすることを重視している人は、そもそもこんな放送局落ちのレコードは買わないかもしれない。だけど、状態にこだわらない人や、再生に影響なければいいというDJのような人は、シール付きレコードも買ってしまうだろう。ぼくもちょいちょい買っている。今日、新宿アルタHMVで買ってきたラフィン・ノーズの『SIXTEEN』もシールレコードだった。

 ラフィンがこのメンバーになったときはすでにCD時代なので、基本的に音源はアナログでは残っていない。ところが、そうしたアナログからCDへ切り替わったばかりの時期というのは、ラジオ局へのプロモーション用にわざわざアナログ盤を作ることがあった。DJにかけてもらうためで、コレクターはこうしたものを「プロモオンリー」「DJコピー」などと呼ぶ。

 この曲は1990年に発表されたもので、それはジャケットに貼られたシールを見ても明らかだ。ということは、このシールは26年前から貼られっぱなし。そらもう糊なんかカッチカチになっていて、ちょっとやそっとじゃ剥がせやしない。特殊なテクを駆使すれば剥がせるのだが、うちには同じような状態のレコが山のようにあるので、いちいち剥がしていたら面倒くさくてしゃーない。

 でも、この『SIXTEEN』はラフィンの中でもとくに好きな曲で、それが公式には存在しないアナログ7インチで手に入ったのだから、ちょっとこの見苦しいシールもなんとかしたい。きれいに剥がしてあげて、レコードをよりよい状態に復元してあげたい。よーし、いっちょうやったるか。

 ひとつめのポイントは、まちがってもシンナーを使うな、ということ。シンナーを使えば糊を溶かせるかもしれないが、同時にジャケのインクも溶かしてしまう。ここで使うべきはジッポーオイル。このオイルが、ブックオフの値札を剥がすのに最適であることは、このブログではクドいほど語ってきた。

 今回相手にするのは20年以上経って硬化した糊だ。そんな奴に対しても、ジッポーオイルは頼もしい。ジッポーオイルはすぐに揮発するので、少しばかりたらしたところで意味がない。火気に注意して、貼り付けられたシールにたっぷり染み込ませる。

 これによって、硬化していた糊もほんの少しだけ軟化する。とはいえ、それを爪で剥がせるほど世の中は甘くない。ここで登場するのが、先日の公開チラシ飲みトークでも紹介した八戸駅吉田屋「小唄寿司」についていた三味線バチである。ぼくはこれを紙やすりで研いで、値札のシール剥がしに活用している。

 このバチを、ジッポーオイルでゆるくなりかけたシールの下に差し込み、絶妙な力加減で剥がしていくのだ。無理に、一回で剥がしきろうとしてはいけない。糊なんて残っていい、印刷に傷がつかなければ。値札なんて破れてもいい、ジャケットさえ破れなければ。

 ゆっくりゆっくり時間をかけ、とりあえず値札だけを除去する。あとには削りそこなった硬い糊が残るだろう。これにまたオイルをかけ、指でゆっくりこすって、やわらくなった表面部分だけを、バチでこそぎ取る。ジャケットに傷をつけないよう、細心の注意を払って。

 そうしてまたオイルをかけ、指でこすって糊を柔らかくする。延々とそれを繰り返す。最終的には、ジャケの表面に糊の痕跡がかすかに残るだけになるだろう。そうしたら、丸めたティッシュにオイルを染み込ませて、最後の拭き取りをする。これで、26年間こびりついていた垢が完璧に除去され、レコードは16歳に若返った。

発表!アーカイブック2016

2016年も終わりだねえ。今年もたくさんの著名人が亡くなりまして、とくに自分に限って言えば、憧れのスターはもちろん、友人や知人も何人かあの世に行ってしまった。悲しいことだけれど、齢を重ねるということは、そうした別れの機会が加速するということだ。「2016年はもう終わりかよ!」って文句が言えるのは自分が生きている証拠だから、まあ、いま生きていることを喜ぼう。

さて、前回提唱したアーカイブックという言葉。これは「何らかのコレクションをまとめた書物」、あるいは「何らかの蒐集家がコレクションについて書いた書物」のことで、そういうもんばかり買ったり読んだりしてるぼくが、それらの年間ベストを毎年発表していくという活動(ただの趣味だけど)で、いよいよ2016年度ベスト・オブ・アーカイブックの発表です。

……と、その前にここで自分がこれまでに書いてきた本をちょっと並べてみる。

底抜け!大リーグカードの世界―「珍プレイ&超絶プレイ」コレクション
人喰い映画祭 【満腹版】 ~腹八分目じゃ物足りない人のためのモンスター映画ガイド~
人生のサバイバルを生き抜く映画の言葉
無限の本棚

見事にアーカイブックばかりなのねん。つまり、ぼくは自分自身がアーカイブックな人生を歩んでいるということ。これが何かを意味しているかといえば、とくに何も意味はない。このベスト・オブ・アーカイブックは、ただ自分が楽しいからやっている。それでいいのだ。

というわけで10位から発表!

■10位『中国遊園地大図鑑 北部編』

中国遊園地大図鑑 北部編 (中国珍スポ探検隊)

中国遊園地大図鑑 北部編 (中国珍スポ探検隊)

出版をやめたら死ぬ靴を履いた男・ハマザキカクがプロデュースする過剰な図鑑は、2016年も恐ろしい勢いで出版点数を重ねていった。なかでも話題を呼んだのが、この『中国遊園地大図鑑 北部編』。かの国の著作権意識がヤバイのは皆知っていたが、まさかここまでとは。

■9位『デスメタル インドネシア

デスメタルインドネシア: 世界2位のブルータルデスメタル大国 (世界過激音楽)

デスメタルインドネシア: 世界2位のブルータルデスメタル大国 (世界過激音楽)

これもまたハマザキカクの手による過剰図鑑の1冊(正しくは「世界過激音楽シリーズ」という)。昨年はアフリカにもデスメタルがあることを知らしめたが、今度はインドネシアである。しかもアフリカを大幅に上回る350ページ超という重厚さ。大統領までもがデスメタラーってどういうことなのか。

■8位『珍盤亭娯楽師匠のレコード大喜利

全国各地のDJ現場はもちろん、今年はTBSラジオ伊集院光とらじおと「アレコード」コーナーでも大活躍した娯楽師匠の珍レコアーカイブック。見たこともないレコに驚かされたり、自分の秘蔵盤が載っていてニンマリしたり、ああこれでまたこのレコの相場が上がる…と焦らされたり、いろいろ忙しい本である。

■7位『東京レコ屋ヒストリー』

東京レコ屋ヒストリー

東京レコ屋ヒストリー

レコード屋の誕生からその盛衰と衰退までを、歯切れのいい文章で謡い上げている壮大なレコ屋絵巻。「レコードを買うという行為はじぶんの意思を買うのといっしょだ」という著者の言葉に深く頷く。

■6位『共産テクノ(ソ連編)』
共産テクノ ソ連編 (共産趣味インターナショナル)

共産テクノ ソ連編 (共産趣味インターナショナル)

意外なところに意外な音楽。こういう本を見ながら気になるアーティスト名をYoutubeで検索して、すぐに聴くことができる。いい時代になった。ちなみに、共産圏+テクノとして忘れてはならないのは『テトリス』だ。あれこそ究極の共産テクノ。

■5位『モダンガールのすスゝメ』

モダンガールのスヽメ

モダンガールのスヽメ

大正百五年(2016年)発行の本書もめでたくランクイン。ご本人はコレクションのつもりはないと思うが、生き方を丸ごと大正時代にゆだねるカヨさんの姿には圧倒される。

■4位『タイポさんぽ(改)』

タイポさんぽ改: 路上の文字観察

タイポさんぽ改: 路上の文字観察

味わい深きタイポグラフィを求めて町の看板を渉猟する。そんな趣味をもつ者は多いが、本書の著者は現役のグラフィックデザイナーでもあり、そのデザインの分析は的確で、視点も確か。続刊の『タイポさんぽ 台湾をゆく』もまたよし。

■3位『痴女の誕生』

痴女の誕生

痴女の誕生

イヤラシイことをしてくれるおねえさんの歴史を詳細に綴った貴重な資料。アダルトビデオの登場以降に話を絞ってあるので、とてもわかりやすい。安田氏の次作は「巨乳史」を追ったものだそうで、これまた読むのが楽しみだ。

■2位『東京レコード散歩』

名うてのレコードアーカイヴァー鈴木啓之が、昭和歌謡を切り口に東京の街々を45回転で歩きまわったお散歩ガイド。出版後、本書をベースにしたコンピレーションCDも3枚同時発売され、その素晴らしすぎる展開は、自分のことのように嬉しかった。

■1位『ブラック アンド ブルー』

2016年度ベスト・オブ・アーカイブックの第1位に輝いたのは、特殊漫画大統領・根本敬先生が古今東西の名盤ジャケットを独自の解釈でリメイクした作品集『ブラック アンド ブルー』。レコジャケ原寸での収録も圧倒的なのだが、ここに掲載されている作品は描いたそばから展示会で売りさばかれているので、本人の手元にほとんど残されていないという事実。「チンポが乾く暇もない」という諺があるが、根本先生の「乾いた絵の具に興味はない」と言わんばかりの前のめりな姿勢に大きな拍手を送りたい。

アーカイブックという分野を振り返ってみると、昨年は本の雑誌社が活躍した年で、今年はパブリブ──すなわちハマザキカク氏が踊り続けた年だったな、という印象がある。タモリ倶楽部にもDOMMUNEにも出てたしな。さて、来年はどんなアーカイブックが出てくるだろうか。そしてぼくが準備中の本(これもアーカイブック的な側面がある)は来年中の発売に間に合うのだろうか……!

アーカイブック2016発表……の前に!

アーカイブック」という言葉を提唱しようと思う。どういう意味かというと、「何らかのコレクションをまとめた書物」、あるいは「何らかの蒐集家がコレクションについて書いた書物」のことだ。アーカイブ+ブックでアーカイブック。

フリースタイル』という雑誌がある。ほぼ季刊くらいのペースで発行されているこの雑誌に「One, Two, Three!」というコーナーがあって、数人のライター、作家、編集者らが気になるポップカルチャー(小説、漫画、映画、演劇、音楽などなんでもよい)を3つ選んで紹介するというものだ。

フリースタイル34 特集「THE BEST MANGA 2017 このマンガを読め! 」

フリースタイル34 特集「THE BEST MANGA 2017 このマンガを読め! 」

その執筆陣にぼくも加えてもらっているのだが、ぼくはそこへさらに自分なりの縛りを設けてセレクトしている。それが「アーカイブ物かどうか?」ということだ。ま、例外はあるが、できる限り何かを集めた作品を取り上げるよう務めている。なぜそんな面倒臭いことをしているのかといえば、そりゃぼくがコレクター大好き! だからだ。

これは拙著『無限の本棚』のあとがきでも書いたことだが、昔からコレクターが出版した本は手当たり次第に買ってきた。いまでも書店でその手の本を見かけるとつい手に取ってしまう。そして、そういうものが日々自分のデスク周りに積み上がっていく。ならば、この分野の年間ベストを決めるのも楽しそうだな、と思った。そんなことができるのは、ぼくくらいのものだろうとも。

無限の本棚

無限の本棚

さすがにそうしたアーカイブック、もしくはそれ的なものをすべて網羅するのはアンテナ的に限界があるし、経済的にも無理があるので、ぼくの目に止まって購入したものしかエントリーできない。でも、この企画は自分のためにやってることだからそれでいいのだ。「あの本が入ってねえ」とか言われても知らんがな。

というわけで、2016年のベスト・オブ・アーカイブックを発表……する前に、ここで去年(2015年)のアーカイブックを振り返ってみたい。本当はこの企画は去年からスタートしようと思ってたんだよね。でも、いろいろ雑事に追われているうちに年を越しちゃったので、そのまま放ったらかしにしていた。それで、ようやくいまになって重い腰を上げたというわけだ。

もったいぶらずにスパーンと発表する。ベスト・オブ・アーカイブック2015!

  1. 1979年の歌謡曲(スージー鈴木/彩流社/10月20日発売)
  2. 痴女の誕生(安田理央/太田出版/4月1日発売)
  3. 神戸、書いてどうなるのか(安田謙一/ぴあ/12月1日発売)
  4. ニッポン大音頭時代(大石始/河出書房新社/7月24日発売)
  5. デスメタル アフリカ(ハマザキカク/パブリブ/10月1日発売)
  6. 暇なマンガ家が「マンガの描き方本」を読んで考えた「俺がベストセラーを出せない理由」(上野顕太郎/扶桑社/7月31日発売)
  7. ワンコイン古着(中嶋大介/本の雑誌社/11月24日発売)
  8. 古本屋ツアー・イン・首都圏沿線(小山力也/本の雑誌社/10月22日発売)
  9. ヘンな本大全(風来堂、他/洋泉社/3月4日発売)
  10. 本で床は抜けるのか(西牟田靖/本の雑誌社/3月10日発売)

※うっかり『痴女の誕生』を入れちゃったけど、これ2016年でしたね。

1979年の歌謡曲 (フィギュール彩)

1979年の歌謡曲 (フィギュール彩)

音楽に限らず様々なカルチャーはだいたい10年区切りで論じることが多いが、本書では歌謡曲を1979年という年代の変わり目に焦点を当てて切り取ったところが新しい。その企画性に負けることなく、読めば幾つもの発見が得られる。スージー氏の音楽論は、ブログを読んでいても常にハッとさせられ、まったくもって目のウロコ泥棒である。


神戸、書いてどうなるのか

神戸、書いてどうなるのか

ロック漫筆家・安田謙一氏が神戸にまつわる108篇の思いつきを集めた本。5年前に神戸で初めて会ったとき一緒に食べたカレーそばの話から始まり、ラストはぼくとの出会いのエピソードで終わる。つまり、これはぼくにとって特別な本なのだ。


4位以下にも素晴らしいアーカイブックが集まった。『デスメタル アフリカ』が話題を集めたのはまだ記憶に新しい。“古ツアさん”こと古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山力也氏の快進撃もあって、とくにコレクター向け書籍を専門にしているわけでもない本の雑誌社の本が3冊もランクインしたのはおもしろい結果だった。

というわけで、「ベスト・オブ・アーカイブック2016」の発表は、12月29日となる予定。