松戸・開進のコブクロ生

「もつやき男」なんてカテゴリを作っておきながら、あんまり“焼き”は食べずに、“煮込み”とか“もつ生”ばっかり食ってるおれなのだった。だって好きなんだも〜ん。
今日ご紹介するのは、我が地元、松戸駅前の裏通りにひっそりとある「開進」というお店。地元の酔っぱらいには有名な店なんだけど、となりのピンサロの電飾看板のカゲに隠れてあんまり目立たない。でも、そのおかげでチャラい若者とかは滅多に来ないから、おっさんには居心地がいい。店内は焼き場に1人、厨房に1人、ホールに2人で合計4人のおねえさん(いわゆる飲み屋の世界で言うところの“おねえさん”)だけで切り盛りされていて、もつもお酒もみんなそのおねえさん方が用意してくれる。
いろいろ普通のおつまみもたくさんあって、お値段は200円からとリーズナブル。だけど、この店のメインはやっぱりもつ焼き。もつは「ハツ、カシラ、タン、ガツ、レバ、コブクロ、アブラ」などがあって、タレ焼きか、塩焼きを選ぶ。1本110円というのは、下町もつ焼き業界では決して安い方ではないが、それでも糞不味いチェーンの焼き鳥居酒屋なんかに比べたら、夢のような味と値段だと思う。
もつ焼きはもちろん美味しいけれども、しかし、ここへ来たらやはり“生”を食べたい。生で食べさせてもらえるのは「レバ、ガツ、コブクロ、アブラ」の4種類だけとなっている。おそらく鮮度の関係だろう。この中では、個人的にはアブラがいちばんうまいと思う。他のお客さんもそう思っているのか、あるいは仕入れの量が少ないのかはわからないけど、アブラは開店後すぐになくなってしまう。おれも3回ぐらいしか食べたことない。
もつ焼き屋のカウンターで“内蔵肉を接写してる一人客”って、そうとう気持ちわるいんではないか思うけど、勇気を出して撮ってきたよ。見てちょうだい、このプリップリした輝きを!

これに醤油&にんにくタレをちょいちょいと付けて食うと、夢心地なんだなー。ふつうの店のアブラはほとんどがいわゆる“脂身”だ。そういうのは最初の1串はうまいけど、所詮は脂肪のカタマリなので食べているうちにイヤんなっちゃう(ならない店もたまにある)。でも、この店のアブラは写真を見てもわかるように、単なる脂身とは違って胃だか腸だかの内壁部分なので、コッテリしつつも歯ごたえがあってうまいのだ。マグロで言うところの大トロみたいなもんだね。それがたった110円で食べられるなんて!(写真では1本しか写ってないけど、注文は2本以上で頼んます)

新宿ション横・宝来家のコブクロ刺し

テアトル新宿で3時10分の回の『3時10分、決断のとき』を観た。こりゃ、ウワサ通りの大傑作。
小さな牧場主のオヤジ(クリスチャン・ベール)は、借金返済のために、町で捕らえられた強盗団のボス(ラッセル・クロウ)を遠くの駅まで護送するというミッションに立候補する。南北戦争のときには腕利きの狙撃兵としてならしたチャンベールだが、そのときの負傷が原因で、いまは義足の世話になっている。西部開拓時代において、身体に障害があるような男は、どうしたって一人前としてはみてもらえない。理不尽なことだけどそういう時代なんだからしょうがない。だからこそ、借金を返すため、そして息子に恥じない男になるために、生き延びる可能性のほとんどない戦いに、自ら飛び込んでいくのだ。
正義も、悪党も、どっちも素晴らしく輝いていて、ほとんど文句の付けようがない男泣きの大傑作だったわけだが、唯一欠点を挙げるとすれば、主演のチャンベールがハンサムすぎることだろうなあ。これは、カタワモノで、みんなから(家族からも)見下されているような冴えないオヤジが、戦いの中でだんだんと輝いていき、最後にはまぶしいほどの星になる物語だと思うんだけど、チャンベールはわりと最初から普通にかっこいいんだよね。集客上の理由かもしれないけど、この役はもう少し情けない顔した俳優に演ってほしかったな。ウィリアム・H・メイシーとかどうだろう。
でも、それはそれとして大好きな映画なので95点つけちゃおう。
で、映画を観たあと、のど乾いたのでしょんべん横町でもつ焼き食っていくことにする。

本当は思い出横町っていうんだけど、客はみんなションベン横町って言う。少なくともおれはそう。考えてみればヒドい名前だねえ。
で、正確にはしょん横ではなく、もう一本となりの線路際の方のやきとり横町にある宝来家がおれは好きなのだ。もちろん、ここはもつ焼きもみんなおいしいけど、それよりなにより「こぶくろ刺し」がうまいんだな。

一般的には、こぶくろ刺しといったらぶつ切りにした豚の子袋が皿に盛られて、正油ダレが掛かって出てくるものだが、宝来家のはひと味ちがう。通常よりも細かく刻んだ子袋にごま油をかけ、その上にみじん切りのネギをたっぷり乗せ、さらに洋カラシちょこっと足したものが小鉢に入って出てくる。
これに、お好みで正油をかけてわしわし混ぜると、こんなふうになる。

これがうまいー!
ホッピーがないのがタマにキズだけど、中澤裕子がおばちゃんになったようなママさんが可愛いので許す。

北千住・大はしの肉とうふ

2年半のブランクを経て飲酒を再開した。そこにはいろいろな事情があるのだが、まあ深くはツっこまないでいただきたい。ともあれ、飲酒の再開にともなって、以前、とりつかれていた東京の下町もつ焼き屋めぐりがまたできるようになったのは、本当に悦ばしいことだ。

というわけで、昨日は健康保険の事務手続きへ出かけた帰りに、北千住で途中下車をした。考えてみたら、最近、やたらと北千住に来ている。旧知の編集者がフリーライターとみさわ昭仁の活動再開をいろいろと支援してくれていて、北千住というのはそのひとと打ち合わせがてら一緒に飲むのに都合がいい場所なのだ。で、北千住には4時半の開店と同時に全席埋まってしまうような煮込みの名店「大はし」というのがあって、いつかそこにも飲みに行きましょうね、なーんて言ってたんだけど……。

待ちきれなくてひとりで来ちゃったよ!

 ネットで拾った外観写真。

こういう飲み屋の世界では、おれ程度の年齢ではまだまだ若造なので、初めての店に入るときにはちょっと気後れする。どんな感じか店内を覗いてみようにも、入り口は磨りガラスなのでよく見えない。なんか楽しげな騒音だけは聴こえてくる。あと匂い。煮込みの甘辛げな匂いに背中を押されて、思い切って引き戸を開ける。

ほぼ満席。まだ5時だというのに! 平日の!

店内は異常に長いカウンターといくつかのテーブル席で、50人ぐらいは余裕で座れるはずなのに、噂通りすでに満席なのだった。でも、よく見たら1席だけ空いていて、これまた噂通り異常に元気なオヤジさんに「おひとりさん、こっちおいで!」と呼ばれて、奥の煮込み鍋の前あたりに着席。これはいい場所だ。

串カツとかオムレツとか普通のつまみもあるようだけど、やはりここへ来たら「牛にこみ(具はカシラ肉のみ。汁なし)」か「肉とうふ(カシラ肉ちょっとと煮汁が染み込んだ豆腐)」を食べなきゃ話になんない。なので、肉とうふを注文。すると、こういうのが出てくる。

グルメ的な表現をするのが苦手なので単刀直入に書くが、こんなにうまい肉豆腐は初めてだ。これでたったの320円。そりゃ満席にもなるよな。実は最初、慣れない店だから酒を注文するときに戸惑って黒ビールの小瓶なんてスカしたものを頼んでしまったんだが、まあ、これはこれでうまいし、肉豆腐にもよく合う。でも、あまりにもうまいうえに話し相手もいないから黙々と食べて飲んで、すぐにビールが空になってしまった。そこで、よくまわりを見渡して、客の大半が飲んでいるキンミヤ焼酎のウメ割りを自分も頼んでみた。それからもういっちょ肉とうふを追加。これで1310円也。

酒もつまみも十分うまいけど、この店にはもうひとつ人気の要素があって、それはカウンターの中で忙しそうに働くオヤジさんと、セガレのコンビだ。さっきも書いたけどこの二人が異常に元気で、明るいんだな。だから初心者にもとっても優しい。下町系のもつ焼き屋は基本的に地元の常連さんを中心に動いているので、それぞれの店には独特のルールが生まれていたりすることが多い。そこへ余所者が入っていって場違いな注文の仕方をしたりすると、冷ややかな視線で見られたり、場合によっては怒られたりすることがある。その辺の事情はわからないでもないけど、ちょっと切なくなったりもするよな。でも、この「大はし」はオヤジさん&セガレコンビの人当たりの良さのおかげで、とても居心地がよかった。酒も肴も人もいい。そんで懐にもやさしい。もう言うことなし。また来よう。