新ジャンル“ラーメンエロス”

ラーメンは、食べるのも大好きだけど、それよりも、古本屋でラーメン本を見つけると無条件で買ってしまう。といっても、ここで言う「ラーメン本」というのは美味しいラーメンのガイドブックではなくて、ラーメン屋さんが出版した本、だ。どういう理由かはわからないが、ラーメン職人が書いた本って不思議とおもしろくて、ハズレがないんだよね。

佐野実、魂のラーメン道

佐野実、魂のラーメン道

1冊目は、テレビにもよく出ていて有名な『佐野実、魂のラーメン道/佐野実』(2001年 竹書房)。アイドルでもないのに本の題名に自分の名前が盛り込まれてるって、よく考えたらすごいことだよな。

この人は、昔から見た目と喋り方がどうもピッチャーくさい気がして、でもなんでそんな風に思ってしまうのかよくわからず、不思議と気になる存在だった。ところが、この本を読んでみたら、高校時代に野球部で投手をやっていて、元巨人の小俣進と同期だった、なんてことが書かれていて驚いた。ピッチャーくさいも何も、どストライクじゃないか! いやー、世の中「もしや?」と思ったことには、必ず答えがあるもんだ。

ラーメン中村屋の髄道(DASHIDO)―若きカリスマの味づくり人づくり

ラーメン中村屋の髄道(DASHIDO)―若きカリスマの味づくり人づくり

そしてもう1冊は中村屋、中村栄利の『ラーメン中村屋の髄道』。この人は若いのに革新的なラーメン作りで話題を読んで、一気に名を上げたことで有名だね。

本書の中では自分を……というか、ラーメン職人全体を“クリエイター”と呼んでいて、その臆面のなさに赤面させられてしまう。でもまあ、この若さゆえの熱い志と、天より高いプライドが、清々しくもあるんだけど。

この2冊を並べてみるとよくわかるが、ラーメン屋というのは、すぐに腕を組んでしまう生き物らしい。これもまた非常におもしろい研究テーマなんだが、その話をするとどんどん話題が逸れていってしまうので、その件はまた今度するとして、話を元にもどす。

おれはラーメン本を集めていく過程で、ものすごい本を見つけたのだ。

まずは表紙を見ていただこう。真っ赤っかの表紙に、釈迦如来かなんかの仏画がバーンと描いてある。


『ラーメン説法 天外天の秘密/清水円導』(熊本日日新聞情報文化センター)

これを自分はどこで買ったのか、正確なところはもう覚えていない。全180頁モノクロ印刷で、ペーパーバック風の粗雑な造りをしているわりには、定価が1,429円(税別)もする。たしか荻窪古書店で500円ぐらいだったのではないか。いくらなんでも定価じゃ買わないわな。

副題に「天外天の秘密」とあるが、この天外天というのは熊本にあるラーメン屋で、ネットで検索してみるとけっこう評判の店らしい。そしてこの『ラーメン説法』という本は、そんな天外天の創業者である円導先生が、いかに自分の開発したラーメンが素晴らしいものなのかを、聞き役のモエちゃん相手にエロ坊主感覚満点で語った本なのだ。
 ちょっと引用してみよう。これがとにかく狂ってる。

(註:政治の話に脱線する円導先生をモエちゃんがさえぎって)
モエ 先生! そんな事は政治家に任せて……、ラーメンの話に戻そうよ!
円導 それでは軌道修正をして、ラーメンの血抜き作業なんですが…。
モエ 先生、どうして骨は血抜きをしないといけないの??
円導 エエーッ!! モエちゃん知らなかったの?? モエちゃんは月に1回女の血抜き作業をやってたんじゃないの?
モエ バーカ!! あれは違うでしょう。

このモエちゃんってのは先生の脳内にいる巨乳弟子じゃないかと思うんだが、それにしてもツッコミが「バーカ」って、すごいキャラクター設定だよな。

モエ どうして若い豚の肉はピンク色で、大きくなりすぎた成豚の肉は濃いバラの花の色なんだろう? それにだんだん黒ずんできたりして?
円導 それは筋肉の中にアデノシン3−燐酸が蓄積されていく事と関係がありそうなんです。
モエ そういえば、人間の“アソコ”も若い子はピンク色だけど、円導先生ぐらいの年齢になると黒ずんでいるもんね!

モエちゃん、先生の見たのかよ!

とまあ、最初から最後までこんな有り様で、円導先生だけじゃなく、モエちゃんからも下ネタジョーク(しかもかなり下品)が連発される。読者はラーメンの解説本にそんなことまでは求めていないと思うんだが、この過剰なサービス精神はいったいなんだろう。

 ともかく、古本探しをしていて、見つけた瞬間これほどまでに多幸感に包まれた経験はかつてない。
 皆さんにもこの幸福な気持ちをお裾分けしたいので、いちばんお気に入りのページをスキャンして載せておこう(引用するには長すぎるのだ)。

何回「金玉」って書けば気が済むんだ!