集めるも八卦、集めないも八卦

自分がひとを好きになる基準というのがよくわからない。いや、自分の中ではあまり迷うことなく、見た瞬間に「あっ、こういうひと好き!」と決めて、そのひとの書いた本を買ったりするわけだが、じゃあ、その好きになるときと、そうでないときの境目は? と問われると、途端に答えに詰まってしまう。
たとえば、渡辺電機さんのこの記事とか読むと、自分の中で泰葉&小朝の評価が急上昇して、彼らの本も欲しくなったりするんだが、かといって、そういうスキャンダラスなひとが好きなわけでもない。そもそも芸能人全般が好きじゃないしね(昔はそんなことなかったのだが)。
芸能人ほど有名ではなく、かといってまったくの無名でもない、その微妙にマイナーメジャーな存在に興味をひかれる、ということはあるかもしれない。セーラー服おじさんとか、タイガーマスクの新聞配達とか、女装のキャンディさんとか、マンドク屋の東方力丸とか、魔ゼルな規犬とか、あれとか、これとか……。いまここに名前を挙げたそのひとが好きということではなくて、そういう日本各地で人々に知られたり知られなかったりしながら蠢いている曖昧な人達、が好きなんだな。
さて、そんな中から胸を張ってこの人は好き! と言えるのが、「新宿の母」こと栗原すみ子さんである。彼女の自伝漫画をコンビニで見つけたときは、迷わず買った。

自伝漫画というのは大好きなジャンルなので、見つけるとつい買っちゃう。まして新宿の母だったらなおさらだ。自分はあいにく男なのでお母さんに占ってもらったことはないが(新宿の母は女性しか占いません)、できることなら一度はお母さんに占ってもらいたいなーと思っている。このまま古本とかバカレコードとかに埋もれる生活をしていてわたしは幸福になれるのでしょうか。
自伝といっても、漫画版はかなり端折って書かれているので、お母さんの人物像をちゃんと知ろうと思ったなら、活字の自伝も読んだ方がいい。そこには、占い師として生きるうえでの苦悩と悦びがたっぷり書かれている。

とくに素晴らしいのは、大きくなった息子が恋人を家に連れてきたときの一節。

ただ私の仕事が占い師でしょう。相手の娘さんの生年月日を聞いたとたん、息子との相性がぱっと頭に浮かんじゃうんです。結果は大凶です。

結果は大凶! なんと因果なご商売であることか。だが、そこで「あんな女ダメよ。いますぐ別れなさい」と拒絶するようでは、テレビによく出ているインチキ占い師と変わらない。相手を恫喝し平常心を失わせて大金をむしり取る詐欺師と変わらない。
新宿母さんはそうじゃない。母さんのいいところは、相手を否定しないのだ。自分の占いよりも、その女性を選んだ息子の心を信じて、相手をやさしく包んで受け入れてやる。これこそが、彼女が単なる占い師ではなく、新宿の“母”と呼ばれる由縁であろう。
新宿の母のこと好きすぎて、おれCDまで買っちゃったよ。