半顔夫婦

電車が来そうだったので、三軒茶屋の駅の階段をやや急ぎ足で降りていたら、何やら気になるものが視界の隅をよぎった。
「あれ? いまの半顔じゃね?」
電車が来そうなので足を止めるわけにもいかず、階段を降りながら考える。
「あんなところになぜ半顔が落ちてんだ?」
急いではいたけどチラッと見ていたので、それが何かはわかっていた。漫画雑誌の表紙だった。たぶん誰かが読み終えて捨てていったんだ。
「あの絵は小山ゆうさんだったな。あずみっていま何に連載されてるんだっけ?」
このためだけに読みもしない雑誌を買うのもなんだし、画像だけならたぶんネットで探せば手に入る。
「ほっといてもいいかー」
が、しかし、この逡巡はコレクションの敵だ。あとでいいや、とか、買おうかどうしようか、とか、家に帰って調べてから、とか、そうやって迷っているうちに手に入れ損なったことは何度もある。
引き返して拾った。ビッグコミックスペリオールだった。


九州で大学の先生をやってる友達からメールが来た。
「半顔をどうぞ」
添付されていたのは香港映画のチラシ画像だった。

これは見たことがない。日本で公開されるかしら。メールの最後に一行。
「あ、授業だ。」
先生なにやってんの。


後日、その友達からまたメール。奥さん(このひとも先生)が以前、翻訳に関わったという本の表紙も半顔であったのを思い出したという。

この半顔夫婦はとてもいい友達だ……。

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