映画館の暗がりでガッツポーズのコレクター

クリント・イーストウッドの『チェンジリング』を観にいってきた。監督としてのイーストウッド作品は、あつかうテーマがいちいち重くて、観ると鬱な気持ちになるから、映画に底抜けの娯楽を求めているおれとしてはそんなに好きではないんだけど、しかし、かなりの確率で傑作を撮ることもわかっており、いま、映画館で傑作を上映しているのがわかっていながらそれをスルーできるのは映画ファンとは言わない。だからちゃんとお金払って観にいく。観にいってきたんだよ!

どんよりした気持ちになって劇場を出ました。

それはさておき、映画へのコレクター的アプローチ、という話をしよう。
おれの場合、映画にまつわるコレクションは、2つだけ取り組んでいる。ひとつはいまさら説明するまでもないと思うが「人喰い映画祭」である。腹ペコモンスターが人間を食べる映画のDVDをひたすら見てはその感想をブログにアップする、というもの。昔からそういう映画が好きだったので、最初はコレクションという意識ではなかったんだけど、なんだかやってるうちに熱くなってきて「ブログで採り上げる映画は基本的に全部DVDを自腹で買う!」なんて宣言して、自分自身を厄介なところに追い込んでしまっている。

そしてもうひとつが、このブログでは初公開となる「長い灰コレクション」である。
これに最初に気がついたのは、レンタルビデオで『新幹線大爆破』を見ていたときだった。高倉健が事件の行く末を思案しながら煙草を吸っている場面で、考えに夢中になるあまり、指にはさんだまま吸うのを忘れた煙草の灰が長くなっている、というカットがあった。


新幹線大爆破(00:09:20)

これを見たときに「あれ?」という既視感があったのだ。こういう演出を以前どこかでも見たぞ、と。

少し考えてすぐに思い出した。『エイリアン2』だった。


▲エイリアン2(00:21:00)

見た人ならわかるよね。開拓者からの連絡が途絶えた惑星アケロンまで一緒に調査しに行ってくれと頼まれたリプリーが、あんなおっかないとこ二度といきたくねー、と悩んでいるシーン。その時間経過をあらわす小道具として、指にはさんだ煙草の灰が使われていたのだ。

どんなに変わったものでも、コレクションというのは、ひとつだけでは発生しない。同じジャンル、同じテーマ、同じ特徴のものが複数あってこそ、コレクションという趣味は生まれる。『新幹線大爆破』でひらめき、『エイリアン2』で確信を得た瞬間、自分の中に「このシーンを集めよう」というコレクション心が生まれたのだ。


チェンジリング』が傑作なのは間違いないけれど、映画に対して娯楽しか求めていないおれには、それほどおもしろい映画とは思えなかった。でも、収穫がひとつあった。

劇場で写真を撮るわけにいかないからジャストのタイミングの画像は見せられないけれど、ネットで拾ったこの場面の数分後くらい。マイケル・ケリー扮するイバラ刑事が、とある少年の自白に耳を傾けるところ。その衝撃的な内容に煙草を吸うのも忘れて聞き入り、やがて長く伸びきった煙草の灰がポロリと落ちるのだ。

映画館の暗がりで観客の皆さんが衝撃に打ち震えているそのとき、「やった! 長い灰コレクション、また1件ゲット!」と、よろこんでいるおれがいましたね。

長い灰コレクションはすでにいくつか蒐集してあるので、半顔みたいにこれからぼちぼち紹介していきます。