意外なとこからTHE MOVIE

あのね、世間一般の常識として映画のタイトルに「THE MOVIE」って付いてたら、それは原作があるってことだよね。『踊る大走査線 THE MOVIE』なんかが有名だと思うけど、大ヒットしたテレビドラマが映画化されると、まず間違いなく“THE MOVIE”って付く。この場合、元となったテレビドラマが“原作”ということになるわけだね。ところが、そういう映画っていうのはMOVIEとは名ばかりで、所詮はテレビドラマに毛が生えた程度のものだから、映画だと思って観に行くとそんなにおもしろくない。というか、だいたいつまらない。なのでおれはまず観に行かない。
ところが、3月14日(土)封切りの『イケメンバンク THE MOVIE』は、ちょっと見逃すわけにはいかなかったので、わざわざシネマート六本木まで行ってきた。5人のイケメンがひとりの女の子を巡ってドタバタする純愛ラブストーリーなんて、いつもなら絶っっっ対に観るはずがないジャンルの映画なんだけど、いったい何がおれを突き動かしたのでしょうか。
この映画、原作が貯金箱なんだよ!
言ってる意味わかりますか。お金を入れると貯蓄ができて、やがて欲しいものが買えたりなんかする貯金箱。それが原作の映画ですよ。意味わかんねえ。自分でも狂人の妄想みたいだなあと思うんだけど、本当なんだからしょうがない。その昔、まだTHE MOVIEなんて言葉がなかった時代に、『一杯のかけそば』の劇場版をちゃんと映画館まで観に行ってるおれだから、貯金箱が映画化されたらそりゃもちろん観に行くに決まってるわなあ。

イケメンバンク桃色ハッピーラブ

イケメンバンク桃色ハッピーラブ

まあそんなような次第で『イケメンバンク THE MOVIE』を観てきたわけだが、事前の期待値がドン底だったせいか、これが意外なことにおもしろかったんだな。
主人公の金底梨太郎(かねぞこなしたろう)くんは、漫画家を目指している貧乏青年。この設定はいまのトレンドを押さえてるような気がしないでもない。最初は貯金箱が主人公だったらどうしようかと思ったんだが、さすがにそれはない。でも、シナリオ的に貯金箱が重要なキーとして出てくるのだろう。出てくるよね? ……と思ったら、ぜんぜん出てこなかったので驚いた。いや、物自体はチラッと映るけど、お話にはまったく絡んでこないんだ。普通なら、イケメンバンクじゃないにしても何らかの形で貯金箱、もしくは貯金するという行為を物語に組み込むだろう。それをまったくしてないんだ。このスルーっぷりはたいしたもの。脚本を書いたのは監督自身だが、大変に勇気のある方だとお見受けする。

追記:
書き忘れてたけど、ヒロインは保母さんになりたい女の子で、保母試験(?)のために紙芝居を自作するんだけど、それが口裂け女の話だったりして、幼児に見せる紙芝居なのにナチュラルに首がスパーッ!っていう場面が出てきてすごいんだ。それじゃダメだよ!つって漫画家志望の主人公に直されるんだけど、それでもやっぱり首の切断シーンは盛り込まれている。なんなんだろうこのこだわりは! そういう意味ではこれも切株映画といえるのかもしれんね。

追記の追記:
主人公の金底梨太郎くんは、劇中、常に体の動きがギクシャクしていて、歩くときにはかすかに足も引きずっている。それどころか、しゃべるとちょっと舌足らずというか、ハッキリいって言語障害に近いんだな。つまり、その、なんというか、明らかに身体障害者……というか、もしかしたら知的障害者? とさえ思えるキャラクターなわけ。
誤解しないでちょうだいよ。そういうひとを映画の主役にしちゃいけないと言ってるわけじゃないんだから。ただ、映画の中でそのことに対する説明が何もなかったから、観てるあいだずーっと不思議だったんだよ。おれは、フィクションの中で提示される表現には、すべて作者の意図があるべきだと思ってるんだけど、金底梨太郎くんには、そういう意味での“理由”が読み取れなかったんだな。だから、観ている間中、不思議でならなかったんだ。
ただ、映画全体を通して観たときに、漫画家になりたくて必死にがんばっているのになかなか夢に手が届かない梨太郎くんのもどかしさを、その障害者っぽいキャラ設定が倍増させて、映画全体をとても切なくて、愛おしいものにしていたのも事実なのだ。むしろ、この映画の価値はそこにあると言い切ってもいいんじゃないか。
……なんてことを思いながら映画館を後にしたわけだけど、家に帰ってきて梨太郎くんを演じた柳浩太郎という役者さんをググってみてびっくりした。
柳浩太郎 - Wikipedia
そんな状態で大役をキッチリ演じきった役者さんもたいしたもんだが、彼を起用した人間(監督かなあ)の慧眼には恐れ入ったよ。