すごいものを見た! もうひとつの『ウォッチメン』

なーんて興味を引きそうなタイトルで釣っといて申し訳ないが、ホントは『ウォッチメン』とは全然関係なくて、天才面打師(能面を彫るひと)が、単なるヒノキの材木の塊(かたまり)から能面をノミでがしがし彫り出していく様を記録したドキュメンタリー映画なのである。すでにDVDになってるんだけど、発売記念で劇場公開するとのことで、渋谷アップリンクXへ観に行ってきた。そのタイトルが『面打 men-uchi』。『ウォッチメン』と似てる……よねえ?
http://www.uplink.co.jp/x/log/002981.php
ま、そんなことはともかく、内容は本当にすごいものだった。7歳から面を彫り始めたという新井達矢さんは、13歳にしてすでに天才的な作品を仕上げていたそうで、この映画に収録された2006年の時点でもまだ22歳。ときどきフレームに映り込む顔には、まだ幼さが残っている。でも、ノミを持つ手にはまったく迷いがなくて、どんなベテランにも負けない確かさで面を彫り上げていくんだな。これは見ていて本当にうっとりする。
それに、BGMやナレーションや字幕といった映画的演出を一切排除して、面の制作行程だけをひたすら追い続けるという三宅流(ながる)監督の手法が非常に効果的でもあった。たしかにこの映画には音楽なんか必要ないもんな。ノミが木を削る音だけがBGMなんだ。
そういえば、おれって子供の頃から友達がノートに落書きとかしてるところを見るのが大好きでさあ、放っとくといつまでもずーっと見とれてたんだよね。鉛筆の先から絵が生まれていくのを見るのも好きだけど、鉛筆の芯が紙の上でコリコリと音をたてるのも大好きだったんだ。そういう人間にとって、この映画は麻薬的な快楽に満ちてるよ。同じような趣味のひとは絶対見たほうがいい。DVD買うべき。

上映終了後には三宅監督とゲストとのトークショーがあった。ゲストは、主役の新井さんや能楽師や音楽担当者など、その日によって替わるらしいんだけど、おれが見た昨日は石田某さんという方で、おそらく三宅監督の旧友なのかもしれない。あまりちゃんと紹介されなかったので、よくわかんなかったんだ。
で、ここからだね、なんというか、トークショーの場が非常に謎の空間となっていたんだな。どこまで書いていいのかわかんないけど、見たまんまを正直に書くよ。
簡単な紹介のあと、いきなり「じゃあ見ていただきましょう」とか言われて場内暗転。え? 何? なんかもう1本映画見せてくれるの? ラッキー、とか思っていると、『部屋/形態』というアングラ臭いタイトルが出る。どうやらゲストの石田さんの作品らしい。ところがこれが、部屋の壁にペンキでぐねぐねと描かれたキモい模様がアニメーションしていく抽象作品なんだな。面打ちとはまったく関係がない。ようするに、旧友の作品の劇場公開にかこつけて、自分の前衛作品も便乗上映させちゃってるわけ。まあ友達どうし納得のうえでやってるのかもしれないけど、こっちは面打ちの映画を観に来ただけだからなあ。
で、客電が点いて明るくなったら、明らかに場内の空気が替わってるわけ。おれはもちろん、他のお客さんもみんな困惑してる(という雰囲気がビンビンに伝わってくる)。でも、石田さんはその空気などおかまいなしで、自己の観念的映画論を壊れた蛇口のように話し始めるんだ。断片しかメモってないのでどんなことを話していたのか正確には再現できないけど、とにかく「正方形が好きだ」ってことは何度も主張してた。意味はわからない。「映画っていうのは長方形だしね」とかも言ってたな。
ゲストに呼んじゃった三宅監督もさすがに責任を感じたのか、必死に話題を『面打 men-uchi』に戻そうとするんだけど、話の主導権が石田さんに移るとやっぱり観念的な話になっちゃうんだ。で、散々しゃべってやっと『面打 men-uchi』の話をしたかと思ったら、ここで問題発言。
「でも、これはドキュメンタリーとしては失敗作だよね」
この瞬間、客席が完全に凍りつきましたね。おれ、ほぼ最前列に座ってたから思わず下向いちゃったよ。三宅監督と目が合ってる状態で、他にどうリアクションしろっていうんだ!
そのあとも石田さんは、「この映画、説明が一切ないから面の制作工程がよくわからないよね」とか「これはNHKのドキュメンタリーとして出したら4分の1ぐらいに切られますよ」とか「途中でピントがずれるシーンがあるけど、そこがいいよね」とか、おもしろ発言の大連発。もしかしたら「二人は友達」というおれの推測は間違いだったのかもしれんね。
とにかく、いろんな意味でおもしろすぎる上映会なのだった。『面打 men-uchi』は素晴らしい作品なので、皆さんもぜひ見よう!