これもまたひとつの覆面歌手 その1

覆面歌手研究をしていて、やはりいちばん熱くなれるのは、文字通り〈覆面〉を装着して歌を唄う「正体不明歌手」だ。しかし、中古盤屋めぐりをしていると、微妙にそこからズレた覆面歌手にも、たくさん遭遇する。そんな中から、ちょっと味わいのある、いいレコを紹介する。

『オールナイトぱっぱっぱ/長良いずみ&X』(1980年/ミノルフォン
最初は、とりあえずタイトルに惹かれて「ヘンな歌謡曲コレクション」のつもりで買っただけだった。いまから20年ぐらい前の話だね。ジャケに印刷されている名前も「ほう、長良いずみってたしかRCA時代は長良いづみって名乗ってたよなあ」とかそんなところが気になった程度で、1回だけ聴いたらあとはレコード箱にしまい込んでいた。
ところが、それから数年経って覆面歌手というジャンルに興味を持ち始めたときに、あらためて自分のレコ箱を漁ってこれが出てきたときに「なぬ?」となった。
「バックバンドが“X”じゃん!」
……というのはもちろん嘘で、デュエット相手のXさんが「覆面歌手」であることに気づいたわけだ。一般的に覆面歌手といえば、アイマスクのようなものを装着しているひとばかりだろうと、良くも悪くも狭い考えにとらわれていたおれだった。だが、しかし、このレコードをきっかけにして、覆面歌手という世界はもっと自由なものなのではないかと、その可能性がパーッとひらけた感じがしたのだ。