星になった覆面歌手

いまちょっと超絶的に忙しいので、簡単に更新できそうな覆面レコードネタを続ける(オモシロ本の紹介ネタは書くのに時間がかかるのよ)。

まずはこのジャケットを見ていただきたい。


『ぶっちぎり NO文句/XQS』(1983年/東芝EMI

XQS(エクスキューズ)と名乗るこの歌手との出会いは、レコード屋でこの盤を見つけるよりも前に、テレビで唄っているところを見たのが先だった。たしか深夜だったな。『オールナイト・フジ』かなんか見終わって、いい加減テレビ消して寝るか……と思った頃にいきなり出てきた。ものすごくインパクトがあった。

音楽的には(ジャケットの人物写真からもわかるように)ロカビリーを基本にしているんだけど、でも、どちらかというと低音を利かせたディドリー・ビートで、そこにエルビス風のヒーカップ唱法でボーカルを乗せている。

なんだこれ!? と思った。カッコよすぎて鳥肌が立ったね。

だが、しかし、音楽はカッコいいのに、出てきて唄ってる歌手は覆面なのだ。アイマスクではない。ベージュ色の紙袋をかぶって、眼のところに穴を空けただけという、非常にやっつけ感のある覆面だった。

視聴者ナメてんのか!

おまけに上半身は真っ黒い背広で、下半身は真っ黒いタイツ。ピッチピチのタイツ。そんで足元は革靴。これで華麗なステップを踏みながら、ぜんぜん音楽と合っていないダンスを踊っていた。

そしてトドメの歌手名が「エクスキューズ」。

まったく意味がわからない。これはいったいなんのエクスキューズ(言い訳)なのかと。せっかくカッコいい音楽をやってるのに、こんな意味不明な衣装で、どうエクスキューズ(勘弁)しろというのかと!

レコードジャケットをよく見ると、「みんなみんな知っている。だけど誰だかわからない。だ、誰だ!」なんて書いてある。こういうのうれしくなっちゃうね。やっぱり覆面歌手はこういう具合に正体不明であることを強くアピールしてくれなくちゃね。じゃなきゃ、わざわざ覆面でデビューした意味がない。

……ところが、こればっかりはすぐにわかっちゃったんだな。

まず、唄声を聴いた瞬間に「おや?」と思った。さっきも書いたけど、エルビス風のヒーカップ唱法(語尾をしゃくり上げるロカビリーならではの唄い方)を見事に使いこなせる日本人歌手なんてそんなに多くないし、なにしろ声に特徴がありすぎた。

そして、名前の中に入っている「Q」の文字。これが何を意味するのか? もちろん謎の歌手だから「Question」という意味も含まれてるとは思う。でも、声から正体を推測できたぼくは、「Q」にはもっとストレートな意味があることがわかった。

というわけで、もう知ってるひとは知ってるので、いまさらXQSの正体は秘密でもなんでもないのだけど、もったいぶってここには書かないでおこう。ググればすぐわかるから。

そのかわり、このレコジャケをPhotoshopで階調を反転したものを載せておこう。


▲もうわかるかな? 小さすぎて無理かな?


▲じゃあアップで。彼がロカビリー歌手として売っていた頃の写真なんだよ。40代以上のひとならわかるよね?

彼は残念なことに、このレコードを発売したわりとすぐあとに、悲しい事故で亡くなっている。いくら覆面歌手が好きなぼくでも、この曲が遺作になったんじゃ可哀想すぎるなあ、と思ったが、調べてみたらそのあとにもう一曲出していたので、そうはならないで済んだようだ。

よかったよかった……のだろうか?