パソコンなんて無かったほうがよかったろう論

仕事柄もあるし、もちろん個人的な興味もあって、パソコンについて書かれた本を読む機会は多い。いまはパソコンがあって当たり前の世の中になったから、書店にいけば驚くほどたくさんのパソコン関連書籍が並んでいる。パソコンに対して否定的な本などというのは、まず見ることはない。
が、一部のマニアとそれ系業界のひとたちのものだったパソコンが、一般のひとたちのあいだへひろがり始めた1995年前後には、パソコンを悪魔の機械だとして否定する言説が、多少なりともあったのだ。
悪魔の機械、というのは大袈裟かもしれないが、パソコンなんていらねー! って主張しているひとの本を1冊紹介する。

『これでもあなたはパソコンを買うのか/野澤豊』(1995年/新泉社)
この著者の論旨はこうだ。

  • パソコン時代なんて本当にくんのか?
  • 操作は簡単ってゆうけど取説ブ厚すぎじゃね?
  • 本体だけ買ったって何にもできないじゃん!
  • アプリだの周辺機器だのマスコミは煽りすぎ!
  • おまいら本当に必要かどうか考え直してみ?

そんなわけあるかー! ってツっこもうと思ってたんだけど、なんか書いてるうちに「けっこう当たってるよなあ」なんて思い始めた。いやいやいや、そんなことはないよ!パソコンはやっぱ必要だよ!
このひとの論旨は、一見明確なんだけど、よく読むとやっぱりどこかおかしい。たとえば、雑誌に載っているパソコン選びの記事についての意見がこんな感じなのだ。

わたしが知っているかぎり、あの手の記事はパソコンを購入することが前提となって書かれたものなのだ。あれではパソコンを「買う」という選択肢しかない。どんなに低く見積もっても「パソコンを買いたい」と思っている人の半分は、「あなたはパソコンを買わなくとも良い」という結論が出るはずなのに、なぜだろう?

なぜだろう? って、読者は買いたいからだし、メーカー側は売りたいからに決まってるじゃないか!
macについて触れた箇所もいいね。macがどういう出自のマシンかを説明するのに、こんなことを書いている。

もともとマッキントッシュアップルコンピュータ社が、パソコンの知識がまったくなく、なおかつ英語力がない人でも簡単に親しめるパソコンとして売り出したものだ。

もしかして……このひと、macが国産のパソコンだと思ってる?
結局のところ、この著者の主張としては、パソコンが社会に浸透することで仕事は減るどころか逆に増え、パソコンについていけない「中高年の中間管理職は大量に職を失い」、「巷には職のない老人が満ちあふれ」、「20世紀の景気がよかった頃に建造された巨大建築物が各所に無惨な姿を晒」すことになるだろう。だからパソコンなんか無いほうがいい! と、そういうことなのだ。あながち冗談でもないっつーか、けっこう当たってるのがこわいネ。