綾瀬・大松のアブラ塩焼き

その“うまい串”に気がついたのは、3年前の初夏だった。飲み屋で飲んだり食ったりしている最中ではなくて、昼間、仕事しているときに突然、脳内にそのうまさがフラッシュバックした。「そういえば、この前、焼き鳥屋で注文した串焼きセットの中に1本、妙にうまいのがあったなあ」と。
また食べたい、と思ったけれど、ピンポイントで注文しようにもそれがなんなのかがわからない。鶏肉じゃなかったことだけは覚えていたので、なんとなく「ホルモン焼き」だろうと思った。ところが、ネットで「ホルモン焼き」という語句を検索しても、焼き肉屋さんの網の上で焼く「ホルモン焼き」か、あるいは鉄板の上で味噌ダレとともに焼いて食べる大阪の「てっちゃん」ばかりがヒットする。
そうじゃないんだよなー。あれなんだっけなー。と、いま振り返れば笑ってしまうぐらい簡単なことがわからなくて首をひねり続けていたのだが、あるとき不意に昔の記憶がよみがえった。高校んときの友達が骨折で金町の病院に入院していたとき、「となりのベッドのオヤジがアル中でさあ、毎晩抜け出しちゃ駅前までもつ焼き食いに行ってんだよね」と言っていたのを思い出したのだ。
も・つ・や・き!
やっとこの言葉が出てきた。そうだ、焼き鳥盛り合わせの中に混じっていて、おれが「うまい!」と思ったそれは「もつ焼き」だったのだ!
あらためて「もつやき」もしくは「もつ焼き」で検索すると、続々とそういう店の情報が入ってきた。下町の酒場を飲み歩いて、ブログに書いている人たちも発見した。それらを片っ端から読んでいった結果、おもに足立区、葛飾区周辺に、うまいもつ焼きの名店が点在していることがわかった。そうして、いくつかネットで知った名店の中から、自分の通勤経路でもあった綾瀬の「大松」に初めて足を踏み入れたのが、2006年の8月24日だった。これ以後、おれの「もつ焼き名店探訪生活」が始まるのだった。
というわけで、つい先日も、綾瀬在住のコレクター友達と久しぶりに「大松」へ行ったので、そんとき食べたひと串を紹介する。
アブラだ。

このあいだ「ふつうの店のアブラはほとんどがいわゆる“脂身”なので食べているうちにイヤんなっちゃう」なんて書いたばかりで、この大松の脂はモロにそういう脂ギトギト系の串なんだが、それでも不思議とうまいんだな。
問題があるとすれば、それはこの店がどの焼き物もひと皿4串セット(400円)でしか注文を受け付けてくれないことだ。だから、ひとりで飲みに行くと、アブラもひとりで4本食わなきゃならなくなる。こんなの2本で十分だよ!