野球カードをめぐる刑事とギャングの攻防戦

『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』を見てきた。

しょうもない邦題からもおわかりの通り、刑事コメディである。好きなジャンルではあるけれど、無理して劇場まで行くこともないかなーと思っていたところ、物語の中に重要なアイテムとして「野球カード」が出てくるというのを知り、俄然、見にいく気になった。日本では数えるほどしかいない“野球カードライター”としては、やっぱりこういうのは劇場で見ておかないとね。

主人公はNY市警のジム・モンロー(ブルース・ウィリス)とポール・ホッジス(トレイシー・モーガン)という二人の刑事。この手の映画の定番で、二人とも上司の言うことなどきかず、相棒と軽口を叩きながら、平気で不法侵入をして、バンバン銃をぶっ放し、犯人を逮捕しまくる。

物語の主軸は、地元のギャング団をいかにして壊滅させるか、ということなんだが、それと並行して、ブルース・ウィリスの娘(別れた女房が引き取っている)が結婚するので、そのための資金を貧乏警官のブルースがいかにして調達するか、というサイドストーリーが盛り込まれている。

この資金調達のキモとなるのが、野球カードなのだ。

ブルースは、子供の頃に親父からプレゼントされた1枚の野球カードを大切にしていた。それは、1952年にTopps社から発行されたブルックリン・ドジャースの外野手、アンディ・パフコのものだ。

この1952年というのは、ベースボールカードの歴史が始まった年、と言われている。それ以前からベースボールカード自体は存在していたが、1952年にTopps社が発行したカードは、次のような点において現在のホビーとしてのスポーツカードのスタイルを確立したのだ。

1)全セットを一度に発売するのではなく、前期版、後期版に2分割して時期をずらして発行した(こうすることで、シーズン中の選手の移籍などに対応できる)。
2)横2.5×縦3.5インチというスポーツカードの標準サイズを初めて採用した。
3)ほぼ全選手を網羅して、裏面に選手のスタッツ(成績表)を印刷して発行された(これによって、スポーツカードが選手名鑑の役割りを果たすようになった)。

そして、記念すべき「1952 Topps Baseball Cards」のうち、栄えあるカード番号#1が、アンディ・パフコのものなのだ。ブルースは、愛しい娘の結婚資金を捻出するために、この宝物を売りに出すことを決意する。たかが野球カード1枚がどれほど結婚資金の足しになるのかと、侮るなかれ。貴重なカードがオークションに出されて数百万、数千万で落札された、なんて話はいくらでもあるからね。

このパフコのカードについては、劇中では「8万ドルするんだ!」と言っていた。日本円に換算して700万円弱ぐらいかな。これなら結婚資金には十分すぎるくらいだ。でも、本当はそんなに高くはないんだよね。試しに、いまぼくの手元にある2008年版の米国野球カードのブライスガイドを見てみると、完璧な美品なら5千ドルってことになっている。

いまはスポーツカードの市場自体が縮小傾向にあるし、最新版のプライスガイドならさらに値下がりしている可能性が高い。だから実際に売りに出しても、5千ドルどころか3千ドルでも厳しいかもしれないな。けど、まあ、それじゃ話が盛り上がらないし、映画の中の嘘としては許せる範囲のものだろう。

で、ブルース・ウィリスがこのカードを馴染みのカードショップに持ち込むわけだが、買取り額の交渉をしているところにタイミング悪く強盗がやって来て、このカードもついでに持っていかれてしまうのだ。それを必死に追いかけるブルースと相棒のボンクラ。犯人は何者なのか、事件はどう決着するのか、ギャング団はどうなるのか、そんなことよりカードの行方が気になって仕方ないブルース(とおれ)なのだが、その結末は……言わない。

野球カード云々は抜きにしても、刑事コメディとしてきちんとおもしろく作られている秀作だった。この映画がヒットして、野球カードの人気がまた盛り上がってくれるといいな。

常識を破壊! これが正しいスポーツカードの集め方

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追記:id:samurai_kung_fuさんのブクマコメントで気になって調べたけど、監督のケビン・スミスって、集めていたコミックスを売ったお金でデビュー作を撮ったりしてるんだ! なるほどそういう体験がこの映画の野球カードにつながったりもしてるんだな。