中古盤屋で語る自分史 その2

【2】廃盤ブーム到来

当時スタートしたばかりの『タモリ倶楽部』を見ていたら、「廃盤アワー」というコーナーで廃盤歌謡曲専門店の「えとせとらレコード」という店が紹介されていた。

「廃盤アワー」というのは、放送作家の佐々木勝俊*1氏による企画で、番組中に佐々木氏が懐かしの廃盤レコードを紹介しては、タモさんと一緒に曲を聴きながらげらげら笑うという他愛もないものだった。このコーナーのおかげで“廃盤”という価値観が一般視聴者にも認知されるようになり、廃盤歌謡曲を集めるのが密かなブームになり始めた。

この店ならば『白い蝶のサンバ』があるかもしれない! と思ったおれは、翌日さっそく会社の帰りに寄ってみることにした。中古レコードだから必ず在庫があるとは限らないけど、入手する手掛かりくらいはつかめるだろうと思っていた。

で、店を訪れ、ドアを開け、店内を見回したら、いきなり壁に『白い蝶のサンバ』が掛けてあった。これは驚いたな。運命的なものを感じた。1300円だったけど、速攻で買った。サラリーマンなのでそのくらいの金はあったし、どうしても聴きたい曲としてこれ1枚を買うだけなんだから、ちっとも高いと思わなかった。このあと廃盤歌謡曲にズッパマリして、1000円単位のレコードを何枚も何枚も買うようになって、家計を圧迫していくようになるんだけどね。

ちょうど、おれが廃盤歌謡曲の深みにはまるのと同時進行で、世間的にも廃盤歌謡ブームが起こりはじめる。その背景には当然『タモリ倶楽部』の影響があるわけだけど、それ以上に「えとせとらレコード」の存在も大きかった。えとせとらはタモリ倶楽部だけでなく、様々な雑誌の記事に珍しい廃盤歌謡のジャケット提供を行なうことで、廃盤ブームを広げていった。

えとせとらレコードの新井精太郎社長は元質屋さんで、たいへんな音楽マニアでもあった。そんな社長が質流れ品市場でくすぶっていた歌謡曲の廃盤に目をつけ、専門店を作り、テレビや雑誌と連動することで廃盤ブームを演出したわけだ。
しかし、このことが結果的に歌謡曲市場を高騰させてしまったという側面もある。それまでは500円でも売れない小林麻美の『初恋のメロディー』が、ブームの真っ最中は1万円ぐらいでホイホイ売れたりしたもんな。

ちなみに、新井社長は質屋という商売を経てから中古レコード店を始めたんだけど、実はその前から社長のお兄さんは蒲田で中古盤屋をやっていたりもした。店名はハッキリ覚えてないけど、「新井レコード」とかそんな感じ。何回か行ったことがあるけど、電気代を節約するためか店内照明が40Wぐらいの裸電球1個しかなくて、ものすごく薄暗い店だった。もちろん、いまはもうその店はない。

*1:ちなみに『タモリ倶楽部』のテーマソング「ショート・ショーツ/ロイヤル・ティーンズ」を選曲したのも佐々木勝俊氏だ。