南千住・大林酒場の牛もつ煮込み

チェーンの居酒屋ならともかく、ちょっと気の利いた飲み屋となると、土日祝日は休んでしまう店が多い。けれど店が休みだからって、呑ん兵衛どもの肝臓まで休みになるわけではない。したがって、そういう曜日には呑ん兵衛難民が数多く出現することになる。自分も間違いなく、そうした難民の一人だ。

先週の日曜日。愛用の『東京飲み歩き手帳/浜田信郎』(ぴあ刊)で調べると、南千住の「丸千葉」という店が水曜定休、すなわち日曜でもやっているとあった。山谷のドヤ街におそれをなすような年齢でもないので、南千住の駅で降り、泪橋を抜けて目指す丸千葉まで歩いていった。

10分ほどで到着。店内からはにぎやかな喧騒が聞こえてきたが、一人くらいならなんとかなるだろうと硝子戸をあけると、満席だった。人差し指を1本立てて、店員さんに目線で問いかけるが、残念そうに首を振られた。
それじゃあ仕方がない。
軽く肩を落として「やれやれ」みたいな小芝居をしつつ、駅に向かって引き返す。といっても、そのまま真っすぐ帰るわけではない。途中でもう一軒、いい案配にくすんだ飲み屋があったので、そちらに顔を出してみることにした。

暖簾と看板には大林とあったが、あとで調べてみたら正式名称は「大林酒場」という名前のようだった。

なかに入ると、でかいカウンターにテーブルがいくつか。カウンターには4〜5人の客がついている。テーブルは空席。BGMはなく、店内の隅におかれたテレビの音が小さめに鳴っているだけだ。飲食時に音楽は無用、と思っているおれなので、この布陣は好ましい。願わくばテレビもいらないが、まあ、これは仕方あるまい。
店内は天井がやけに高く、それがとても気持ちいい。使い古された表現だが“昭和で止まってる”というやつだ。その様子をぜひともお見せしたいところだが、携帯禁止、撮影禁止の店なので、写真はナシ。まあ、ちょっと検索すれば、バシバシ写真を載せてしまってるブログもあるので、それを見るといい。

カウンターの中では小柄な大将が一人で酒の仕度をしたり、つまみを運んだりしている。厨房はその奥にあるようで、チラリと覗けたお顔から察するに、女将さんが一人で調理しているようだった。
大将に焼酎ハイボールを頼むと、大きめのグラスに焼酎を半分ほど入れてくれ、大将自ら炭酸の栓を抜いてグラスに注いでくれた。入店したときにひとっ言も挨拶がないので、かなりの難敵! と思ったが、この大将、無口なだけでじつは気のいいオヤジかもしれない。

つまみは肉どうふ。皿に盛られた絹ごし豆腐がきれいな飴色に煮染まっていて、味もよく染みていてうまい。自分の食うものなんだからとこっそり写真を撮ったりはしたけど、やはりここには載せない。
牛もつ煮込みは、肉どうふとカブるので自分では頼まなかったが、隣りの客のを見たところ、これもうまそう。細長い楕円形の浅い皿に軽く盛られていた。これって、「大坪屋」と同じ盛り方だな。南千住スタイルなのかもしれない。

東京飲み歩き手帳

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