キャッチ&リリース!

10月28日のオープンに向けて、毎日毎日、古本の山と格闘しております。仕入れてきた本に、前の店の値段が鉛筆書きされていればそれを消しゴムで丁寧に消し、ブックオフの値札シールが貼ってあればジッポーオイルできれいに剥がす。ホコリやタバコのヤニで汚れた表紙カバーは、キッチン清掃用の除菌ペーパータオルで拭い、レア度の高い本には、透明ビニールでカバーをかける。

よく、古本屋で本にパラフィン紙が掛けてあったりするでしょ? いかにも古本屋っぽくっていいと思う人もいるだろうけど、おれはあれ嫌いなんだよね。パラフィン紙を掛けると、どんなに汚れている本もキレイに見えてしまう。でも、買って帰ってパラフィン紙を取り除いてみると、カバーは染みだらけで、おまけにあちこち破れていたりする。そういうのって、お客さんに対して誠実じゃないと思うんだ。

なので、おれは半透明のパラフィン紙ではなく、全透明のビニールでカバーすることにした。


▲右がパラフィン紙、左が透明ビニール。

透明ビニールのブックカバーは市販品もあるんだけど、これはやや割高につく。自分のコレクションを保護するだけならいいけど、業務用で山ほど必要としている人にはコストがかかりすぎるからね。

【ブッカー君】新書サイズ 透明ブックカバー5pack(1pack:10枚入り)

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そんなわけで、浅草橋のシモジマ(包装用品専門店)で透明ビニールをロールごと買ってきた。それを適当なサイズに切って一冊ずつカバーしていく。めんどくせー! でも、たのしー! だって、こういう生活がしたかったんだもんな。

清掃が済んだ本は、最終ページの端っこに鉛筆で値段を書いておく。これがいちばんラクでいい。値付けには明確な根拠なんてものはなく、あくまでも自分の勘だ。自分が客だったら(仕入れじゃなくて)この本にいくらまで出せるか、それを脳内でシミュレートして決める。そういう意味で、うちの店は市場の相場とは無関係に、おれが好きな本はやや高め、ということが言えるかもしれない。

値付けまで済んだ本は、店内のメインステージである巨大本棚に並べていく。アイドル、エロ、お金持ち、心霊、奇人変人、黒人、ご長寿、自然災害、大家族、日本兵、発明、裸族、人喰い、野球、ヤクザ、UFO……といった普通の書店ではあり得ない“とみさわセレクト”としか言いようのないジャンルは、すべて学童用の下敷きを切って作った仕切り板で分類されている。この、ジャンルごとに並べていく行為もまた、自分にとって至福の時間だ。

「店を始める」と言うと、友人知人からは「せっかくコレクションしたものを手放すのは辛くない?」って聞かれる。心配してくれてありがとう。でも、全然平気なんだ。だって、おれはコレクターだから。いや、より正確に言うなら、おれは“純粋な”コレクターだから。

たとえばカメラが大好きで、いろんな名器をコツコツと集めて愛用している人がいる。そういう人は、カメラコレクターじゃないんだよ。“カメラを愛してる人”なのね。アロハシャツが好きで、気に入った柄を見つけるたびに買い込んで、その日の気分に合わせて着て歩く。そういう人もアロハコレクターじゃなくて“アロハを愛している人”だ。

じゃあ、集めたものを使ったりしないで、大切に保管している人がコレクターなのかというと、それも違う。そういう人だってやっぱりその対象物を愛してる人だ。使うか使わないかは関係ない。

一方おれは古本が大好きで、あちこちの古本屋とか古書市に出掛けていっては、自分のアンテナにビビビと来る本を探し出して集めてきた。だから、人からは古本コレクターだと思われているだろう。それは間違っていない。でも、手に入れた古本を愛しているかと言うと、「別に……」なんだよな。

おれは古本を探すために出掛けることが好きで、古本の山の中からいい本を掘り出す瞬間が好きで、それを分類するのが好きで、棚に並べたりするのが好きなだけなんだ。そこまで味わったら、あとは手放してもいいんだ。集めたものへの愛着はないの。そういう意味で、集める過程だけが好きな自分こそが“純粋なコレクター”だと思っている。

ま、若い頃はまだこういう考えにまでたどり着けていなかったから、集めたものへの愛着があるような錯覚はしていたんだ。でも、いまはハッキリとそうでないことがわかったから、手放すことに躊躇いはない。むしろ、本を手放すことで幾許かのお金になり、その資金でまた本を探す楽しみを味わえるなら、最高じゃないか。これが、古書店開業を決断するに至った、いちばんの理由。

オープンまであと三ヶ月。もう少しばかり待っててください。