マニタ書房の本棚はメディアだ!

マニタ書房を開店して、早くも2ヶ月経った。この店は、店内の本棚に古い本をずらりと並べた文字通りの古本屋ではあるけれど、ただの古本屋ではない。なーんつってエラそうな物言いをしてしまったが、どう“ただの古本屋”と違うのかといえば、それは「特殊」なのだ。マニタ書房は特殊古書店なのだ。

かつて、漫画家の根本敬が登場したとき、そのあまりにも独自すぎる作風に、漫画ファンの間に衝撃が走った。おれもビックリした。そして即座に大ファンになった。やがて、根本敬は自身を“特殊漫画家”と称するようになる。小学生のままの画力で人間の因果を浮き彫りにするかのような作風は、まさしく特殊漫画の名にふさわしい。

果因果因果因

果因果因果因

世界の殺人鬼に詳しい柳下毅一郎は、あまり普通の人が手掛けない本ばかりを翻訳することから、“特殊翻訳家”を自称している。彼も、おそらく特殊漫画の登場に衝撃を受けた一人なのだろう。特殊翻訳家という肩書きが、根本敬からの影響であることは想像に難くない。
新世紀読書大全 書評1990-2010

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で、こうした肩書きが、おれはずーっと羨ましかった。人から肩書きを尋ねられて、「ゲームデザイナーです」と答えるたびに、内心では「おれも“特殊なんとか”って名乗りたいなー」って思ってたんだ。でも、そういうわけにはいかなかった。だって「特殊ゲームデザイナー」と名乗るには、あまりにも自分の関わってきた作品はメジャー過ぎたから。

メジャーなことは別にイヤじゃない。むしろ、あれほどの世界的大ヒット作に関われたことを誇らしいとさえ思う。思うけれど、いまとなっては「……もういいや」という気持ちでもある。ここんトコ、我ながら複雑な心理なのよ。まあ、とにかくそれで、メジャー感というものとはまるで正反対のところにある商売を始めることにした。それが古本屋だ。これまで好きでちょぼちょぼと集めてきたヘンな本専門の古本屋を。

店を始める準備をしているときに、人から「どういうお店なんですか?」と幾度となく訊かれた。しかし、自分の店で取り扱う本のジャンルは一言では答えようがないので、ざっくりと「サブカルな古本屋です」と答えることが多かった。そうすると相手は余計にわかんなくなって、みんな首をかしげていた。そんなとき、ハッと思いついたのが例の肩書きだった。

うちは“特殊古書店”なのだ。そして特殊古書店というのは、店主である自分の特殊な趣味を手掛かりにして編集した“メディア”でもあるのだ。

先日、編集者の赤田祐一さんが来店してくださった。まさか知らないってコトはないよね? 『磯野家の謎』を作って出版界に“謎本”というジャンルを打ち立てたり、角川ホラー大賞で審査員に「不快だ」と言われて受賞を逃していた『バトルロワイヤル』を書籍化して100万部のベストセラーにしたり、私財を投じて『QuickJapan』を創刊したり、とにかく日本のサブカル界にこの人あり、と言われる名編集者だ。

証言構成『ポパイ』の時代―ある雑誌の奇妙な航海

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もちろん、おれも赤田さんの仕事の大ファンで、ずっとその仕事を追っかけてきたけど、あいにく本人と会う機会はなかった。いつか会いたい人の一人だった。そうしたら、ちゃんとマニタ書房というヘンな古本屋が出現したことを嗅ぎ付けて、わざわざ赤田さんの方から店に足を運んでくれた。おれが言うのもなんだけど「さすが」だと思った。そして、ここには深い意味がある。

優れた編集者は、世の中に埋もれているおもしろいものを独自の嗅覚で探し出して、それらを編集して雑誌や書籍、すなわちメディアに載せる。そこに読者は吸い寄せられる。赤田さんが編集するメディアに、おれは吸い寄せられてきたわけだ。

そしておれ自身も、日本中の古書店の棚に埋もれているおもしろい本を集めてきては、それを独自のジャンルに組み替えて、棚に並べている。つまり、マニタ書房の壁面本棚は、おれが編集したメディアなのだ。だから、来店してくれるお客さんは、おれのメディアの読者だ。そこに赤田さんが吸い寄せられてきてくれたということは、なんだか赤田さんとおれとの間でリングがつながった感じがするじゃないか。

ああ、自分は間違ってなかった、と思ったね。

やってない日も多い営業スタイルで、お客様にはいろいろご不便をおかけしている特殊古書店マニタ書房だけど、来年はもっと真面目に店を開けようと思う。新年は1月7日からオープンの予定。別に本を買わなくても、棚を見に来るだけでも歓迎するよ。