第3湯目「浅間湯/練馬区17番」

自分のめぐり趣味は、いまのところ「ブックオフ」「ラーメン屋」「シブい酒場」そして「銭湯」と、4つになった。今回はその4つをすべて試みてみる。ココロミテミル。なんかヘンだ。

まずはブックオフ。全国制覇もいいけど、とりあえず手近なところで都内の支店だけでも制覇したい。そこで、まだ訪ねていない支店のうち「池袋要町店」を踏破することにした。マニタ書房のある神保町から都営新宿線で市ヶ谷へ出て、有楽町線に乗り換えて6つめが要町駅。わりと行きやすい。そこでブックオフの用事を済ませたら、ふたたび駅に戻って2駅先の小竹向原へ。ここには、若い頃ときどき来ていた「一番ラーメン」という店がある。いつも友達と飲んでベロンベロンになってから食べに来ていたので、具体的な味は覚えていない。ただ、翌朝二日酔いの頭に「ゆんべ食ったラーメン、うまかったなぁ」という記憶だけがあるのだ。その味を、25年ぶりに確かめにきた。

25年経ってもちゃんと店をやっていてくれるのはありがたかったが、行列がしんどかった! この日はものすごく冷え込む晩で、しかも自分の前にカップル3組と5人家族が順番待ちをしていた。つまり11人待ちだ。おれは12番目。でもこの店10人くらいしか入れないんだよ。ってことは、いまラーメン食ってる客が一巡してもまだ入れないの。

歯と膝をガチガチ鳴らしながら待つこと30分。ようやく熱々のラーメンにありつけました。ここは豚骨+油ギトギト系のラーメンだけど、なぜか好きなんだな。25年ぶりに食べてみて、「あー、この味この味!」とか、「チャーシューこんなだったっけ?」とか、「照明、もっと暗くなかった?」とか、いろんな感情が入り交じって結局なんだかよくわからない。まあ、うまいですけど。何年経ってもたいして成長していない自分に笑ってしまう。

ラーメン食ってすっかり身体も温まり……と、そう簡単にはいかない。寒空の下で30分も行列させられ、芯まで冷えきった身体はラーメンぐらいで復活するはずがないのだ。さて、そこで登場するのが銭湯ですよ。店を出てから江古田方面へテクテク歩くこと15分。「浅間湯」に着きました。

こうして店頭の写真をよく見ると狸がいるね。あまりの寒さに、写真撮るなりすぐに飛び込んじゃったから気がつかなかったよ。屋号は浅間湯と書いて「あさまゆ」かと思ったら「せんげんゆ」と読むんだそうな。由来は知らん。そういうことを調べたりもしない。おれは銭湯マニアじゃなくて、ただ88ヶ所の銭湯を踏破して記念バッジが欲しいだけの人だからね。

というわけで、銭湯の描写をすっ飛ばして一気に酒場へ話は飛ぶ。

江古田には、先ほどのラーメン屋と同様、25年前によく通っていた大衆酒場がある。「H」という名のその店は、八丈島料理が名物ということになっているが、そこはそんなに重要じゃない。実際、おれが25年前に通っていたときはソース焼きそばで飲んだりしてたしな。当時は初老のご夫婦が切り盛りしていて、中学生くらいの娘がいた。おれたちがお座敷に上がって飲んでると、その奥にある勉強部屋に行くため、娘がちょいちょいうしろを通る。ストーブの前では猫がぐんにゃりとなって寝ている。そういう環境が好きだった。

お世辞にも繁盛している店、という感じではなかったな。あれから25年も経ってることだし、おそらく店はもうなくなってるだろうと、正直なところ思っていた。ところが、角を曲がるとちゃんと店はそこにあった。引き戸を開けると、おばあちゃんが出迎えてくれた。あの頃の奥さんだ。その横に中年の女性と、三人の小さな女の子がいる。これはひょっとして……。

酎ハイと〆鯖を頼んで、飲みながら少しずつ話を聞いてみると、やはりそうだった。あのときの娘さんが結婚して、子供を生んでいた。店のおやじさんは昨年の末に亡くなったらしい。猫はとっくに死んじゃった。だからいまはおばあちゃんが店を切り盛りしている。おばあちゃん一人にするわけにいかないので、娘が孫たちと同居してくれているという。やさしい娘と、かわいい孫たちに囲まれて、ママさんはとても幸せそうだ。25年という時間はいろんなものを変えてしまうけど、店の匂いはそのままだった。

帰りしな、「また25年後においで」とママが言う。そんときゃおれは喜寿だし、たぶんママは生きてない。