第7湯目「蓬莱湯/新宿区22番」

店番しながらツイッターをつらつらと見ていたら、ときどき顔を出す新宿御苑のバー「浮かぶ」のママが、今日のお通しはレバーペーストだとつぶやいていた。

ごくり……。

レバーペーストいいな。薄めに切ったバゲットに軽く赤茶色のペーストをのせてパクリといって、冷たーいビールで流し込む。もちろんそのときの自分はカンペキ風呂上がり状態で、ビンビンに食道の温度が上がっている。そこを猛スピードで冷え冷えビールが駆け下りていくわけだ。となると、「浮かぶ」に近い銭湯、もしくは、多少離れていても湯冷めをしない程度の距離にあるところ……。

と、こんな感じで算出された今回の計画は、四谷三丁目にある「蓬萊湯」から徒歩で新宿御苑前の「浮かぶ」へ移動というコースだ。蓬萊湯が新宿御苑寄りにあり、浮かぶは四谷三丁目寄りにあるので、この2地点を徒歩で移動すると、実質5分足らず行ける。これなら湯冷めもしない!

エレベーターの[開く]ボタンは左で、[閉じる]ボタンは右と決まっている、って知ってた? 100パーセントではないけど、かなりの確率でそうなっている。だから押すときにボタンに描かれたマークを見ないでも、閉めたいなら右を押せばいい。こういう風に、身体で覚えておけるインターフェースは楽でいいんだよね。

ところが! 銭湯の男湯と女湯は、これがルール化されてないんだ。右側が男湯の店に数回続けて行ったあと、唐突に左が男湯の銭湯に行ったりすると、うっかり女湯にはいっちゃいそうになるんだよねー。これは精神衛生上、非常によろしくない。暖簾(男湯は青、女湯は赤)をよく見りゃ済むことではあるんだけど、ボロい銭湯になると色褪せてよくわかんなくなってたり、風に煽られて見えにくいことだってある。あと、温泉旅館なんかでは日替わりで男湯と女湯をチェンジしたりするじゃん、ああいうことも影響を与えてるのかもしれないねー。

そんなわけで、うっかり女湯の暖簾をくぐりそうになって「わたたっ!」とたたらを踏みながら入場した蓬莱湯は、素晴らしく年季のはいった国宝みたいな銭湯だった。

まず、脱衣所の天井が高い! これ重要ね。そしてロッカーの扉が木! デコラとか張ってないの。長年の使用感ですり減ってガタピシするけど、それがまたいい! そんで、浴場がこれまた古い。薬湯とかジェットとかサウナとか、そういう小賢しいオマケ風呂が一切なくて、浴槽はふたつだけ。熱いの、と、ヌルいの! このわかりやすい昭和感がたまらなく落ち着く。壁画はお世辞にもうまいと言えるほどのもんではないけど、味のあるいい絵だったな。石川県の見附島というところ。現地を訪ねてみたくなる。

ところで、こういう銭湯のデータってさ、写真に撮るわけにいかないし、全裸でメモとってるのもバカみたいだから、湯につかりながら必死に暗記するわけね。記憶力の弱さにはとても自信のあるおれだけど、こうして銭湯めぐりをしていると記憶力の鍛錬にもいいなあ、なんてことを思いましたね。

風呂から上がり、巡礼スタンプも捺してもらって、手ぬぐい振り回しながら(そうすると歩いてるうちに乾く)裏通りを進むこと5分で「浮かぶ」に到着。おいしいつまみと酒、ママの笑顔と常連たちとのバカ話でこの日も充実した一日を終えたのだった。