第10湯目「日の出湯/江東区6番」

住吉の「日の出湯」に行ってきた。

よくわかんないけど玄関の雰囲気が大正っぽい。実際、中に入ると、こじんまりした洗い場の奥にデーンと大浴槽があるだけ。そのシンプルさが、昔の風呂ー! っていう感じでいい。

大浴槽はふたつに仕切られていて、右側2/3くらいがメインの浴槽でジェット付き。左側には座風呂。そして浴槽の背後には、男湯と女湯ブチ抜きでひときわ巨大な壁画が控えている。ちょうど男湯と女湯の境目あたりにデデーンと富士山が描かれていて、その麓には湖。本栖湖なのか、精進湖なのか、はたまたオンタリオ湖なのか。まあ何湖でもいいんだけど、湯船から壁画を見上げると、湖に浸かって富士山を眺めているような気分になれるのだ。

風呂を出て、ホンの1〜2分歩くと住吉の名店「山城屋酒場」がある。

ここへ来る理由はひとつしかない。名物“とんから”を食べるのだ。トンの唐揚げ、とんからね。これが風呂あがりのビールもしくは酎ハイに合う合うー! 最高ー!

と、最高なのはここまでだった。

カウンターに座ったとき、おれの右隣りに推定40歳前後のアニキがいて、この人がさらに隣りのご老人と話をしてたのね。最初、二人連れかと思ったんだけど、なんとなく耳に入ってくる会話と、それとなく観察した様子から、二人は他人同士なのがわかった。ようするに、初めてこの店を訪れたアニキが、ひとりじゃ淋しいもんだから、たまたま隣りにいたご老人をつかまえてムリヤリ話相手にしているわけ。ご老人の様子をそっと伺うと、明らかに迷惑そう。そりゃそうだよ。こういう店にひとりで来る客は“ひとり飲み”を楽しみたいんだから。

おれもよくひとり飲みをしてると、さびしそうに思われるのか無駄に元気なひとり客に話しかけられるんだよね。世の中にはひとりで静かに飲むのが好きな人がいる、ということが理解できないヤツが多すぎるよ!

で、ここでご老人が会計をした。このさびしがりのアニキから逃れるには店を出るしかない、と判断したんだろう。それは懸命な判断と言えるんだけど、まさか、アニキの方は居残るつもりじゃないだろうな。そして話相手の矛先をこっちに向けられたりしたら……。

しばし退屈そうに飲んでるアニキ。うわ、熱燗、追加した。目が泳いでる。おれは素知らぬ振りを決め、右半身サイドへびんびんに「話かけんなよオーラ」を出す。だが、酔ったアニキにはそんなもの通用しなかった。

「それ、スマホっすか?」

うわー、最悪ー!

イベント会場なんかで自分のことをある程度知ってくれている人に話しかけられるのは全然かまわないんだけど、飲み屋とかでこちらのことをまったく知らない他人に話しかけられるの、ホントに苦手なんだ。そういう人ってすぐに職業を聞くじゃん? たかだか飲み屋で隣り合ったくらいでズカズカ他人のプライバシーに踏み込んでこないでほしいよ。とくに、おれみたいなおもしろ職業(フリーライターだったり、ゲームデザイナーだったり、古本屋だったり)すると、それを聞いた瞬間、相手の目がキラーン☆と輝く。それが、すごくめんどくさい!

幸い職業は聞かれなかったけど、アニキはおれが手にしてるiPhone(この状況をツイートで実況してた)を話のきっかけに選んできた。そんな手に乗るか、と思ったおれは「ええまあ」としか答えない。「お住まいはこのへんなんすか?」とか、「この店にはよく来ます?」とか、何を聞かれても「いやー」とか「滅多に……」とか適当にごまかす。

あまりにもおれがつっけんどんなので、途中、ちょっと険悪な雰囲気になったりもしたけど、こういうバカは(はっきり言うけどバカだ!)おだてるとすぐ機嫌がよくなるので、まあ適当に相手の喜びそうな話題でくすぐってやって、最終的には握手をして別れたぜ。

オトナって、疲れるなあ。