上場するから金をくれ!

皆さんご存知のように、自分は一般の古書コレクターが求めているような貴重本には興味がない。そういう本は古書市なんかでは特別な存在として、棚挿しではなく、面出し(表紙をお客様のほうへ向けて展示)されていることが多い。でも、そういうのには目もくれず、おれが漁るのはあくまでも棚やワゴンの中だけだ。そういうところには、古書マニア的にはクズ本と判断されるような本ばかりが埋もれている。でも、そんなクズ本の背表紙を必死に目で追っていると、ときどきキラリと光るタイトルと出会うことがある。

安達祐実になれる

おやおやおや? と思ったね。これはキタかな? と思ったよ。

でも、安心するのはまだ早い。タイトルがおもしろそうでも、棚から引き抜いて表紙を見たらまるで魅力的じゃなかったり、あるいは表紙がそこそこ魅力的でも、中身はすごくつまらない切り口の本だった、ということはよくあるのだ。その善し悪しの基準は一言ではいえないけれど、毎日毎日ものすごい数の古本を見ていると、そういうのがだんだんわかるようになってくる。

で、この本を棚から引き抜いたら、こんな表紙だった。

これは中身的にもいい予感しかない!

著者の佐竹大心さんのことは、失礼ながら知らなかった。プロフィールによると、それまで勤務していた銀行を辞めてフリーの芸能ライターになったという、おれと同様に「人生を台無しにしている人」のようだ。

それよりも、気になるのはイラストだ。まつなが陽一さんというイラストレータ―による安達祐実の似顔絵がドーン。一目で安達祐実だとわかるので、絵師としての腕は確かだ。目の歪み具合に針すなお遺伝子を感じるが、弟子筋にでもあたるのだろうか。

さて、この表紙を目にした瞬間に、この本がどういう素性のものかわかった。だって、芸能人のことを書いた本なのにその人物の写真が表紙に使われていないんだもん。つまり、これは“安達祐実の人気に便乗して勝手に出しちゃった系の本”ということだ。そういう本、大好物。

気になる内容はというと、安達祐実の魅力を紹介しつつ、「子役とはどうあるべきか」を語り、「子役の仕事のいろいろ」を解説し、「オーディションの必勝法」を伝授し、最後には「子役のための養成機関」や「事務所の一覧」まで掲載していて、なるほど、これはまさしく「安達祐実になれる本」だ。というか、「うちの子を安達祐実にする本」だね。

そういえば、ずいぶん昔に中森明夫が「キミの彼女を川島なお美にする方法」ってコラムを書いていたっけな。中森氏はおもしろコラムをいっぱい書いてるけど、小説しか単行本にしてないから、過去のコラムを読むことができないんだよね。勿体ない。