死の蔵書

ジャケ買い、という言葉がある。

本来はレコードコレクター用語だ。通常、レコードというものは、それに収録されている音楽を好きか嫌いかで選ばれる。ジャケットは、あくまでもその音楽の魅力を飾りつけるための衣装でしかない。

そもそもアメリカのレコード(シングル盤)にはジャケットすら付いてない。なぜなら、シングル盤というのはジュークボックスなどのオートチェンジャー機でかけることを前提として生まれたものだからだ。それが一般販売されるようになり、奇麗なおべべを着せてもらえるようになった。おべべの裏には見ながら唄えるように歌詞も印刷された。その結果、コレクターを生んだ。

レコードコレクターというやつは厄介なもので、中身の音楽とは無関係に、ジャケットのよさだけでレコードを買ったりする。それがジャケ買いだ。「ジャケがいいレコードは中身の音楽もいい」とはよく言われることで、ジャケ買いというのはあながち無茶な行為ではないのだが、ジャケ買いでいい音楽を引き当てるには、それなりの音楽知識とコレクターとしての経験が必要になるだろう。

さて、古書の世界にも、ジャケ買いという考え方はあるのだろうか。まぁ、あんまりきいたことはないね。表紙が気に入ったから買う、ということはあるにせよ、それでもやっぱり購入の決め手は「中身を読みたいかどうか」だ。書物とはそういうものだ。

特定のジャンルの古書マニア(たとえばSFとか探偵小説とか)は、中身は同じ作品でも表紙の絵が違っているといった理由で買ったりすることがあるが、それはジャケ買いとは言わない。本当のジャケ買いは、中身なんかどうでもいい(読む必要すらない)のだ。ただその表紙のインパクトを手に入れたくて買うのである。本棚に差しておいて、友達が遊びに来たときに何気なく引き抜いてびっくりする。そんなことのために買うのである。

この本は、とある古書市で見つけた。

背表紙に「死」という文字が大きく書かれていて、不吉な予感がするとともに、いいジャケである予感もして、引き抜いてみたらこんな表紙だったわけである。もちろん、購入後2年ほど経つが、まだ中身は読んでいない。おそらく一生読まないだろう。それでも、ずっと手元に置いておきたい気持ちにさせる。古書のジャケ買いとはそういうものだ。

そして、同時に思い出したのはスタッズ・ターケルのことだった。こちらはそろそろ読んでみようかと思っている。

死について!―あらゆる年齢・職業の人たち63人が堰を切ったように語った。

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