足柄上郡・松田、丸嶋の餃子ラーメン

普通の人は、「餃子ラーメン」と言われたら、ラーメンの上に焼き餃子が3つか4つ乗っかっているのを想像することだろう。するよね? でも、ぼくはそういう想像はしなかった。なぜか? その理由はこのあと説明します。

小田原周辺のブックオフを訪ねてまわるツアーを計画中、ルートの途中にうまそうなラーメン屋がないか検索していたら、松田にある「丸嶋」という名前のラーメン屋がひっかかった。ここは餃子ラーメンというのが名物だという。その名前を見た瞬間、絵が浮かんだ。そして「食べたい!」と強く思った。実際、食べログにアップされている画像を確認してみると、予想した通りのビジュアルだった。

ぼくは食べログに書かれたレビューなど一切信用しない(食に関しては他人の評価というのは無意味なものである)が、写真だけは見りゃわかる。ああ、これは、あれだな、と。

いまから28年前、「ファミコン通信」誌で仕事をしていた頃。青山にある編集部まで原稿を届けたあと、よく青山通りの「ラーメン餃子専科 天下一」で、とつげきラーメンというのを食べて帰っていた。当時の大好物だった。注文すると、店員さんが厨房に向かって「トツメン一丁〜!」と言うのも好きだった。

鶏ガラ出汁のスープに薄口醤油味で、具は餃子の具。回文みたいだね。つまり“餃子”そのものではなく、餃子の中身(刻んだニラ、キャベツ、ひき肉)をぶちまけてあるのだ。それを溶き卵でとじてある。その名前がとつげきラーメン。意味はわからないが、味はすこぶるうまい。いや、一般的にどうかは知らないが、若き日のぼくにとってはこれが最高のご馳走だったのだ。

残念ながら、青山の「天下一」はいつのまにか閉店してしまった。他の支店はまだいくつか残っているが、メニューからとつげきラーメンは消えている。有名なラーメンデータベースを見ると、新橋店のメニューにとつげきラーメンが記載されている(2013年10月20日時点)が、これは情報が古い。実際にはもうやってない。自分で行って確かめたのだから本当だ。

と、このように幻になっていたとつげきラーメン……と、ほぼ同じビジュアルのものが、松田の丸嶋では食べられるようなのだ。だとするなら、行ってみるしかないじゃないか。

平日の午後1時半、客はぼく一人だけの店内で食べた餃子ラーメンは、しみじみとうまかった。こちらは卵とじにはなっていないし、もやしもどっさり入っていたけれど、でも、あのファミ通編集部に通っていた懐かしい日々を思い出させてくれる味ではあった。ああ、クルマで3時間もかけて松田まで突撃してよかった。