早稲田、メルシーのやさいそば

朝、家で家族と一緒に朝めしを食べ、昼過ぎ、どこかの古本市、もしくは未踏のブックオフを覗きにいく。そういう生活をこの3年ぐらい繰り返している。昼めしは出掛けていった現地で食べることが多い。自分は古本道楽の一方で、ラーメン道楽でもあるので、目的地周辺にうまいラーメン屋がありはしないかと、出掛ける前にネットで検索する。

早稲田には古本目当てで何度も行っていて、やはり古本探索のついでにラーメンを食う。早稲田は学生街だけあって、たしかにうまいラーメン屋はたくさんあるが、自分好みの味を掘り当てた、という経験はない。世間一般の“うまい”と、自分の“好み”とは違うからだ。

早稲田大学の構内で定期的に開催されている、「早稲田青空古本祭」に行ってきた。当然、大学周辺でよさそうなラーメン屋を事前に検索する。なんのヒネリもなく、「早稲田/ラーメン」で検索して、かなり上位にヒットしたのが「メルシー」だった。ラーメン屋らしからぬ店名である。食べログを見る。もちろんレビューなんかどうでもいい。必要なのはアップされているラーメンの写真だ。それを見て、自分の口に合いそうか、そうでないかを判断する。

写真は食べにいって自分で撮ったものだけど、食べログでもこの「やさいそば」の写真が多く上がっているから、店の一番人気のメニューなのだろう。どう見ても、自分の好みじゃないと思った。野菜が嫌いということはないが、こと醤油ラーメンにおいては、あんまりゴチャゴチャ具がのっているのは好きじゃないのだ。醤油ラーメンはやっぱりスープと麺が見えていてほしい。

それでも、どことなくこのラーメンに興味がわいた。理由はわからない。野菜の炒め方がうまそうに見えたのだろうか。あるいは、流し読みしたレビューの中に何か心に引っかかる記述があったのか。最寄り駅の「早稲田」から、目的地である大学の入り口へ向かうルートの途中に店があるというアクセスのよさも決め手になったかもしれない。

空いていたテーブル席に座り、「やさいそば」を注文して出来上がるのを待つ。待っているあいだに、早稲田の学生とおぼしき若者が向かいに相席する。その若者が、早口でおばちゃんに「ヤサダイコイカタネギマシ」と謎の呪文を唱えた。おもしろいので、iPhoneツイッターにそのことをつぶやいた。

やがて、やってきた「やさいそば」を食べる。うん、これはうまい。麺のコシが、強過ぎず、弱すぎず、ジャンクなうまさだ。なんとなく香ばしさも感じさせるこのスープは、秩父で食べた「珍達そば」にも似ているような気がする。これはもしや……とテーブルのラー油をちょっと多めにかけてみた。すると、いっそう味が似てきた。これはうれしいな。「珍達そば」は片道2時間ぐらいかけないと食べにいけないが、早稲田ならそこまではかからないし、各種の用事で来る機会も多い。

向かいに座っている若者は、「ヤサダイコイカタネギマシ」をわっしわっしと食べている。

勘定を済ませ、神保町へ帰る。事務所に着いてツイッターをひらいたら、見知らぬアカウントから「それ私です!!」とリプライが来ていた。なんと、さっき向かいに座っていた若者だった。おもしろいので返事をかえし、二言三言、交流してみた。その結果、「ヤサダイコイカタネギマシ」とは、「ヤサ(やさいそば)、ダイ(大盛り)、コイ(味濃いめ)、カタ(麺硬め)、ネギマシ(ねぎ増量)」ということだというのがわかった。

若者──通称ヤサダイくんは、毎日のようにメルシーでお昼を食べているという。自分の生活圏内においしい店があるのって、幸せなことだと思う。今度また早稲田界隈で見かけたら、そんときは声かけてね。いっしょにメルシーでラーメン食べよう。