山手線で行ける苗場

かつては隆盛を誇った冬の遊びの王者であるスキー(もしくはスノボ)が、いまや衰退しつつある。

ぼくは毎日通勤で小川町から神保町まで歩くのだが、あのスキー用品屋が集中する一帯を見ていても、まったく盛り上がっていない。そして実際に、数年前からゲレンデもガラガラだという。いまの若者は、スキーなどしなくなっているのだ。

そりゃそうだよな、と思う。なにしろスキーってのは金がかかる遊びだ。まず最初に用具とウェアを揃えなきゃならないし、スキー場まで行くにはクルマが必要だ。

「いや、用具はレンタルできるし、移動は電車でいいじゃん」

そう言われれば確かにその通りなんだが、そうした簡易な手段がありながらも「自分の板」や「自分のウェア」が欲しくなるものだし、カーステでユーミンとか聴きながらみんなでワイワイ行きたくなるのが、スキーというものだ。ゲレンデで滑るだけがスキーじゃない。そこに至る状況をも含めたものが“ウィンタースポーツ”なのだと思う。

スキー人気が絶頂を迎えたのは、おそらくホイチョイ映画の『私をスキーに連れてって』が公開された1987年あたりだろうか。あの頃は、バブル景気がぐんぐん加速していた時期ということもあって、大学生でもみんなクルマを持っていた。でも、いまクルマを乗り回している学生なんてどれくらいいるのだろう。

バブル以降、どんどん景気が冷え込んだ。給料は下がり、終身雇用は幻となった。非正規社員がどんどん増えている。消費税は上がる一方。アルバイトはブラック。これじゃ学生はもちろん、サラリーマンだってクルマを持てるわけがない。スキーなんてやってる場合じゃないよな。

で、疑問に思ったわけだ。あの頃の若者がスキーやスノボに夢中になっていた娯楽への情熱を、いまの若者はどこへ向けてるの? と。

ゲームってことはないだろうし、スマホ? パソコン? それは違う気がするなあ。海外旅行は、LCCの普及で行きやすくなったけど、それもちょっと違う。もっとこうバカっぽい情熱が発散できる場所。野外ロックフェスはかなり近い気がしているが、あれはあくまでも受け身の娯楽。スキーのように自分から突っ込んでいく感じに欠けるのだ。

その明確な答えがなかなか見つからなかったんだけど、先日、友人らと話していて、これだ、というのが見つかった。

路上でのハロウィン騒ぎである。

イケてるみんなとワーッと集まってバカ騒ぎできる場所。でも、スキーのようにお金はかからない。ドンキで買った安物のコスプレ衣装で十分だ。そして(ここが大事なところなんだけど)あわよくばヤレるかもしれないという“性の予感”。これは若者を熱狂させるのに必要なスパイスだ。

このことに気づいてから、ハロウィンの夜の渋谷スクランブル交差点は、ぼくには苗場に見えるようになった。円山町にプリンスホテルができるのも時間の問題だ。