川沿いのタイトロープ

2020年08月15日

  ぼくの住む町に、1本の小さな川が流れている。いまはほとんど在宅で仕事をしているが、神保町まで通勤していたときは、毎朝、その川沿いの道を歩いて駅まで向かっていた。

 少し前、その川縁に柵ができた。

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これがその柵

 等間隔に並ぶポールと、それを貫くように貼られたロープ。なんとも頼りなさげな柵である。川沿いの道から下の川へはそれほど高低差があるわけではないので、落ちたところでたいした危険はないから、この程度の柵でも用を成すのだろう。

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柵ができる前の状態

 元はこのようにコンクリの縁があるだけだった。この上に腰掛けて休んでいる人をたびたび見かけていたし、ぼくも疲れた帰り路ではそうすることがあった。

 柵は、このコンクリの土台にドリルで円形の穴を穿ち、そこに硬質プラスチック製のポールを打ち立てて作られた。毎日の通勤でその工作の過程を見ていたぼくは、開けられた穴にはてっきり金属製のガードレールのようなものが取り付けられるのだと思ったが、実際にはプラスチックで、なおかつ柵部分がナイロンのロープだったので拍子抜けした。なんだか頼りない……。

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ウッディなポール

 ポールは、一見すると丸太のように見えるが、これはそのように模して造形されたプラスチック製である。そして、そのプラ丸太を貫通するように開けられている横穴に、ナイロンのロープが通されている。

 これを見たときに、ぼくは嫌な予感がした。事故の予感、ではない。

 絶対、子供がいたずらする! という予感だ。

 金属のガードレールだったら、それに挑戦しようとする子供は普通いない。だが、相手が柔軟性のあるロープとなれば、話は別だ。コンクリの台座部分に乗り、ロープをつかみ、ぐいぐいと引っ張ってみたくなる。どこまで伸びる? ぼくとロープの力試しだ! 坊やダメだよ、そんなことをしたらロープが伸びてしまう。うるせえ、ぐいーんぐいーん。

 実際にそれをしている場面を目撃したことはないが、誰かがロープを引っ張って遊んだことは間違いない。案の定、数ヶ月後にはロープは緩み、たるんできてしまった。もしかしたら犯人は子供ではなく、大人の可能性もあるだろう。この道は街灯が少なく、夜になるとかなり薄暗い。酔っ払いがちょっかいを出すには、この柵はちょうどいい獲物だ。

 

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たるみを解消するための方法

 1本のポールごとにロープが固定されているのなら、被害はそれほど大きくならなかっただろう。だが、ロープはすべてのポールを貫通する長い1本のみ(上下段合わせれば2本)が張られている。

 つまり、ロープにたるみが生ずれば、その被害は柵全体に及ぶ。少しのたるみが出ただけならば、上の写真のようにくるりと1回転させてポールに引っ掛けてやれば、たるみを解消することはできる。これはかなりみっともないことだけれど、ロープ全体を張り替えるコストを考えれば、一時的な解決方法としては、まあ納得できる。

 ところが、この方法は上段のロープだから可能なのだ。もし下段のロープがたるんでしまったら、いったいどうすればいいのか……。

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冗談じゃないよ!

 最初に、この柵の構造を設計した奴、この仕事に向いてないと思う。ここの川でツラを洗って出直してきたほうがいい。

 

 さて、ロープがたるむだけなら、まだ良しとしよう。この構造がさらに問題を含んでいるのは、ロープを通す穴のエッジがシャープな状態になっていることだ。ちゃんと面取りすればいいのに、その工程が省略されている。これもコスト削減の結果だろうか。

 そんな穴を通っているロープを、押したり引いたり繰り返したら、どんなことになってしまうか。シャープな穴の角をロープがぎしぎし通過する。そうなると伸びるだけでは済まないことは、誰にだって想像できることと思う。

 ナイロンのロープというのは、それ1本が太いナイロンで出来ているわけではない。細いナイロンの繊維をより合わせて、太いロープを構成しているのだ。したがって、穴の角でこすれたロープの細い繊維は、簡単に切れてしまう。1本、2本、3本、4本。プツプツプツっと切れた繊維は、やがてロープとしての役目を果たせなくなっていく……。

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ヤバい、ヤバい、ヤバい

 結果、ロープはブチ切れた。この柵を管理しているところ(松戸市役所すぐやる課かな?)は、まだこのロープを張り替えるつもりはないようだ。柵のあちこちでこんな応急処置がされたまま、なんとか柵としての姿を保ち続けている。

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まるでプロレスのコーナーポスト