手の震えは健康食品で治る! のか?

いまはゲームのシナリオライターという具体的にどんなことをしているのか一般の人にはわかりにくい商売をやってるおれだけど、その昔、20代の頃はヤマハのバイクの整備士向けマニュアルの分解組立図のイラストを描くという、さらによくわからない仕事をしていた。フリーではなくて、そういう機械の取り説を専門に制作している会社に所属していたわけだけど、そんときの課長が慢性的に手の震える人で、指示書とかもらうと、そこに書かれている文字は泥酔したミミズが帰る家を見失って途方に暮れているような状態で、ぷるっぷるに震えていてロクに読めなかったりした。図面を引くときはさすがに定規を当ててるから震えることはないんだけど、たまにフリーハンドで描いたりするとえらいことになる。「とみさわくん、こないだ追加されたキャブレターのニードルはね、ここにこうしてこんな感じで描いといてよ」と言ってわたされたスケッチを見ると、そこにはキャブレターではなくて鳥山石燕の妖怪ぶるぶるが描かれていたりする。

あと、その課長はものすっごい脂性でもあって、使ってる文具や製図台なんかの鉄製のパーツがことごとく錆びていたのもいい思い出だ。若ハゲで脂性だったY課長、元気にしているだろうか。“あぶらだこ”なんてあだ名つけてゴメン。
脱線しました。今日は「手のふるえ」についての話。

『恥ずかしい手のふるえ これで解決!/総合医療研究会 編』
以前、おならの本も採り上げたけど、出モノ腫レモノ所キラワズ、こうしたひとに言えない悩みをなんとかしたいというニーズに応えるために、病気の攻略本というのが世の中にはけっこうあるのだね。これは、タイトルがまんま示している通り、手の震えに困っている人のための本。
で、手の震えというのはどんなふうにして治すのかなー、と本書を実際に読んでみると、奇妙なことに気づかされる。文中で何人もの患者の体験談が出てくるのだけど、それが皆、揃いも揃って「健康食品で治りました」と言ってるのだ。
ははーん。
ピンときましたね。これはきっと最後のページあたりに購入方法でも書いてあって、読者にインチキ健康食品を売りつけるつもりなんだろう、と。
ところが……。
不思議なことにそれがないのだった。本文では、なにかというと「健康食品で治った!」「ダメ元で飲んだら治りました! 健康食品のおかげ!」「健康食品、ちょうすげえ!」と絶賛しているのに、それがどんな名前の健康食品なのか、幾らなのか、どこで買えるのか、何ひとつとして書かれていない。結局、本を読み終えても手の震えは治るのか治らないのか、健康食品がいったいなんだったのか、何ひとつわからないままなのだった。いったいこの本はなんだったのだろうか*1

*1:あえてリンクはしないけど、版元のサイトに行ってみると、業務内容のところに「健康食品の販売」とあるからそれなりの仕組みがあるには違いない。深く追求はしません。