ダンディ進化論

コーヒーという言葉の語源は、アラビア語の酒または飲みものを意味するガーウェーから、トルコ語のガーヴェーを経てコーヒーとなったものといわれている。

と、小粋なマメ知識から始まるこの本は、仏文学者であり、劇作家であり、脚本家であり、博報堂取締役であり、雑学博士であり、ダンディ評論家であり、梅田望夫のパパでもある、梅田晴夫のエッセイ集『紳士の美学』(1977/青也書店)だ。

『紳士の美学/梅田晴夫』(1977年/青也書店)
ネット界隈では息子の方が圧倒的に有名なので、ここでは「梅田さん」ではなく、あえて「晴夫さん」と、いや、親しみを込めて「は・る・お」と呼ばせてもらうが、とにかく晴夫のエッセイは粋だ。いままでロータスの車種ぐらいでしか耳にしたことのないエスプリが、そこにある。コーヒーについて語ったそばから煙草やパイプについて語り、和製英語を論じたかと思えば香水についての深い造詣も匂わせる。ともかく、世に漂うダンディ物件、粋なアイテム、紳士が身に付けるにふさわしい事柄なら、なんでも自由自在に語ってくれちゃうのだ。
振り返ると、おれにとっての晴夫はまず“万年筆のひと”として認識したのが最初だった。いまから二十数年前、おれは5年勤めた設計の会社を辞めてフリーライターになったんだけども、たしか2年ほどしてから、ふと、物書きの世界に飛び込んだ記念の品が欲しくなって、神田の金ペン堂へ行って1本の万年筆を買った。プラチナ万年筆の#3776 ギャザードというモデルだ。

軸が太くて、本体に施されたギャザーが滑り止めにもなり、非常に使いやすい逸品だった。そして後年になって知ったのだが、じつはこの万年筆を設計・プロデュースしたのが、梅田晴夫そのひとだったのである。
万 年 筆 を プ ロ デ ュ ー ス す る って、かっこいいじゃねえかコンチクショー! いったいどんな素敵な野郎がそういう仕事をしてらっしゃるのかしら? というと、こんな顔なのだった。

こりゃかなわんね。前言撤回。とても晴夫なんて呼び捨てにはできない。むしろパパって呼びたい。ねえ望夫。