せんべろ古本ツアー

安田理央さんと柳下毅一郎さんという人間的にかなりアレな二人が、昼間から飲める店をハシゴしながら古本屋めぐりをするという駄目人間極まりない企みをしていて、おもしろそうだからおれも一枚噛ませろ〜、と後乗りで参加したつもりだったのだが、どうやら計画の発端は「つくたま古本ハンティング」だった模様。おれか!

本日のコースは、赤羽をスタート地点として川口、蕨を通って浦和がゴール。なぜこのコースかというと、ここいらは安田さんの地元で、飲み屋もそうだけどなんといっても古本屋に土地勘があるからだ。古本屋の位置はネットで調べるよりも地元の人に聞くのがいちばんだからね。
ともかく、平日の昼間、というか朝10時、赤羽の立ち飲み「喜多屋」に3人が集合。ここはハイボール180円、つまみも串焼きが1本110円〜という格安値段で、1000円も使えばべろべろに酔える、いわゆる「せんべろ」と呼ばれるアル中御用達の飲み屋なのだ。せんべろってのは、「センベロ」なのか「せんべろ」なのか、どっちの表記が正しいのか迷うところではあるが、ググってみると「センベロ」が約7万件、「せんべろ」が13万件なので、大衆に迎合して我がブログでは平仮名表記にしておく。
で、朝10時に喜多屋を訪問してみれば、すでにおやじの先客が2人と、若者のグループ5人ほどが来ていて、いい感じにメートルが上がっていたね。我々も生ビールにハイボール、煮込み、マグロブツ、ぼんじり串焼き、味付けガツとか食ってお一人様900円。安上がりなスタートだ。
まずは「ブックオフ赤羽駅東口店」。いきなりメジャーな古書チェーンでずっこけるかもしれないが、スタート地点にいちばん近い古本屋がここだったんだからしょうがないじゃない。それにおれがブックオフ大好きなのは万人が認めるところでもあるし。ここでは以下の4冊を購入。

  • カメレオンジェイル/成合雄彦
  • 頭をもっと良くする101の方法/ドクター中松
  • 有名人の墓巡礼/扶桑社ムック
  • ソープバスケット/日本フラワー技芸協会編

成合雄彦というのは、『スラムダンク』や『バガボンド』でお馴染み、井上雄彦さんのデビュー作での名前ね。彼が手塚賞を獲ったときのパーティーにはおれもジャンプの執筆陣のはしくれとして出席していたんだ。だから、なんとなく親近感がある。デビュー作とはいってもそこはジャンプなので、発行部数はたくさんあるから、古本的にはレアでもなんでもない。でも、見つけるとつい買っちゃうんだなあ。

続いては東京北部から埼玉県にかけて多数の支店網を持つ「山遊堂赤羽店(本店?)」に向かうが、なんと3日前に閉店したばかりであった。これは残念!
しかも、支店案内の看板を見ると、続々と支店を閉じていってるみたい。まあ、雑誌がどんどん廃刊になり、書籍の初版刷り部数が縮小され、出版社の社員がリストラされ、個人経営の新刊書店も潰れていってる時代だ。出版界の最下流にある古書店が消えていくのは無理もない話だろう。
看板の塗り潰された支店名が淋しさを醸し出しているが……、じつはチェックリストを塗り潰していくことに異常な快感を覚える体質のおれは、この看板を見て秘かにグッときていたのだった。

と、ここで横断歩道を渡ろうとしたら、向こうから覆面パトカーがやってくる。交差点でギュワーンとUターンしたかと思ったら、すぐ目の前でキキッと停まったよ。さらにもう一台もやって来て、やっぱりギュワーンと停まったよ。
なんだなんだと現場の空き地に近づいてみると、警察官はいっぱい集まっているわ、黄色いテープは張り巡らされているわ、刑事さんっぽいのもチラホラいるわ、鑑識班は白手袋ハメて準備してるわで、あきらかに殺人現場っぽい。いや、死んでないにしても、1人や2人は重傷を負っていること間違いなし。何これ。何の因果? 古本屋めぐりツアーの最中にこんな出来事に遭遇するかねえ。
もうちょっと見物していたかったけど、1人はカバンの中にハレンチな本が入ってるし、1人は殺人研究家だし、目をつけられるとマズいので早々に退散した。

続いて向かったのが「平岩書店」。この店はおもしろくて、店頭には「1冊100円、3冊200円、6冊300円、10冊400円、15冊500円」という持ってけドロボー価格の雑本が山積みで、店内にはほぼエロ本しかないという、両極端な商品構成なのだ。
いくら雑本好きのおれでも、ここで無理して6冊も買ったりすると荷物がいきなり重くなってあとあと苦労することが予想されたので、3冊だけにとどめておいた。

赤羽は他にもう一軒「紅谷書店」というところにも行ってみたけど、ここもやっていなかった。午前中からの古本屋めぐりだと、「まだ営業時間じゃない」のか、「店休日」なのか、「潰れた」のか、どれだかわかんないという難点があるね。ま、先は長いので次へ向かおう。次は電車に乗って赤羽から川口へ行くのだ。
川口でもまずは「ブックオフ川口駅東口店」へ。しかし、ここでは何も収穫はなし。その後も「古本ひまわり」、「ひまわり書房」と回ってみるが、ともに閉店してしまっている様子。どうもうまい具合にいかないね。川口はさっさとあきらめて西川口へ移動する。

西川口はフーゾクの町で、となれば安田さんの出番である。もちろん3人して昼からソープに行くわけではなくて、町を熟知している安田さんの案内で濃い味わいの古本屋をめぐるのだ。まずは「宇佐美書店」へ。
店の外観の写真を撮っていたら、二階の出窓で涼んでいたオヤジが話しかけてきたりして笑った。まるで古本に飢えている我々に二階からお蔦が声をかけてきて、これぞ「古本刀土俵入り〜」みたいな。
うまいこと言ってる場合ではないのだ。とにかく一歩店内に足を踏み入れてみると、中は本の山なのだ。いちおう本棚はあるにはあるけど、その前にドカドカ本が積み上げてあって、全体積のうち半分も見ることができない。掘ったらいろいろおもしろそうな本がありそうなのになあ。うっかり本の山にぶつかって崩したりしたら、連鎖反応で店内中の本が雪崩をおこして古本ピタゴラスイッチが始まってしまいそうだ。

危険なのでおれは早々に店を出る。それでも果敢にチャレンジしている安田さんを外からパチリ(←表現が古い)。
今回のツアー計画でもけっこう参考にさせてもらったブログに「古本屋ツアー・イン・ジャパン」というのがあって、ほとんど毎日のように日本全国の古本屋を訪問しては、詳細なレポートを書いている。この人の素晴らしいところは、どんな店でも一度訪問したら可能なかぎり1冊は買っていくことなんだよね。これはなかなかできることじゃない。だって、本当に何にも買うものがない店ってあるからなあ。おれにとってはこの店がまさにそうだった。
で、ここでもちゃんと1冊買っていた安田さんはエラいと思った。
さて、魔窟を脱出して次に向かったのは「創文堂書店」。こちらは程よい感じに埃をかぶった普通の古本屋。ここでは1冊のみだけど、かなりおれのツボにくるジャンルの本を発見。

ようするにテレビゲーム時代以前の攻略本だ。ゲームのアイデアを考えることは、そのゲームの攻略法を考えることだ、とおれは師匠から教わったんだけど、テレビゲームの攻略本を作るには、それ以前の時代の遊びの攻略法を参考にするといいのではないかと考えて、ゲーム攻略本をいっぱい作っていた当時、ルービッックキューブの攻略記事をいろいろスクラップしていたんだ。
このあと、安田さんの案内で西川口のソープ街などを見物して(入ってませんよ)、ようやく2回目の休憩をとることになった。本当は有名な焼き鳥屋があるそうなんだけど、あいにくその店は立ち飲みなんだな。散々歩き回って足が棒になってる我々にはつらい。そこで、ランチ営業もやってる「一徳茶屋」で生ビールだ。
ここで柳下さんがUstream中継を試みたが、W杯(ワカパイ)の影響か、Twitterが落ち気味でうまくいかず。まあいいやとカキフライとか食いながら古本を愛でる我々なのだった。

ふたたびほろ酔いになった我々が向かったのは「アオイ書店」というところ。ここは、ご覧のように店舗外壁が丸々本棚という強烈な外観でもって、道ゆく人に迫ってくる。今回は安田さん(柳下さんだっけ?)の案内で“そういう店がある”と覚悟しつつ行ったから驚きは薄かったけど、何も知らないで普通に町を歩いていて、だしぬけにこの外観と遭遇していたら腰を抜かしていただろうなー。神保町にも「矢口書店」や「@ワンダー」っていう壁面本棚で有名な古本屋はあるけど、この闇雲な賑やかさではアオイ書店が圧倒的に勝ち。
で、鼻息も荒く店内に入ってみたんだけど、中はエロと漫画が中心で、おれの欲しがるような本はなかった。はい、次〜。
次に訪れたのは「ブックオフ西川口駅東口店」。やっぱりブックオフは落ち着くなあ。いつものように105円コーナーをひと通りチェックして、2冊購入。

テレンス・リーは、「非常に危険ですトレカ」がオマケに付いてくる本で、見つけ次第に買っているもの。今回のトレカはすでに持っているものだったけど、ダブりも交換要員なので問題ない。むしろこんなものを交換してくれる同好の士がいるのか? ということの方が問題だ。
それより、ここでの大発見は『黒い事件簿』の方である。古本マニアを長いことやってると、いろいろ変なものが挟まっている本に出会うことがある。2ちゃんねるのスレにも「古本に挟まっていた物」なんてのがあったりする。こういうものは、集めようと思って集められるものではないんだな。ほとんどが偶然の出会いでしかない。そりゃ、古本屋で並んでいる本を片っ端からめくっていけば出会える確率は高められるだろうけど、そんなこと出来るわけがない。気になるタイトルの本を手に取って、パラパラめくってみたら、偶然、何かが挟まっていたという状況を待つしかないのだ。
そして、久しぶりに西川口でそれが発生した。

いいでしょう、これ。
茶色っぽい紙が何なのかはよくわからないけど、「VELFARRE」って印刷してあるから、おそらくディスコのドリンクチケットか、あるいは店内だけで流通する模擬紙幣なのだろう。それを半分にちぎったものに、女の子の名前と携帯番号が書かれている。ナンパしたんだね。おまけにポラで撮った写真まで挟まっていたよ。さすがにモザイクかけさせていただいたけど、いかにもバブリーなビジネスマン(たぶん地上げ屋)と、肩バッドがズギューンと入ったボディコンスーツのおねえさんが微笑んでいたよ。大・収・穫・!
いつもなら前後編に分けるところを、なんとなく勢いで一挙まるごとレポートしている今回のツアーも、そろそろ終わりに近づいてきた。

次に向かったのは、蕨のとくに名を秘す「古書N」だ。店に着いたときは、なんとも思わなかったんだよ。ご覧のように店頭のワゴンも小汚いゴミ本しかないしね。まるで期待できないと思ってたんだ。
ところが、一歩店内に入ってみて驚いた。右手の棚には犯罪研究に関するレアな古書がズラリ、左手の棚には性風俗研究に関するレアな古書がビッシリ、そして中央には芸能系、モンド系のバカ本がどっさり。ものの見事に今回のツアーメンバー3人の嗜好に合わせた商品構成になっていたのだ。店内に入ると同時に3人がそれぞれの方向へきれいに散開したのには笑うしかなかったな。
古本マニアってやつは、自分の持っているいい本が置いてある店はいい店だと思う性質がある。例えばこの店にはおれが大事にしている「変装の技術」とか「熊撃ち一代」とか「私の父は食人種」とかが揃えてあって、心の中で(おお〜、わかってるねえ)と思った。
とはいえ、さすがにいい本を揃えているだけあって、値付けもしっかりされていた。欲しいなあと思った本にはたいてい500円以上の値段がついてるんだ。一般的に希少価値の高い本なら1000円、2000円だってプレミアのうちに入らないのかもしれないけど、おれが集めてるのはそういうものとは違うからねえ。
なんとかかんとか選び抜いて買ったのは以下の3冊。

  • 五つ子くん その神秘な誕生と周産期医学/外西寿彦(450円)
  • 耐火カプセル 首都圏を大震災から守る革命的新兵器/沢田哲夫(800円)
  • なわとび健康法/なわとび世界チャンピオン 鈴木勝己(500円)

この中ではなんといっても「なわとび健康法」の発見がうれしかったねえ。珍スポーツジャンルはなかなかコレクションが増えないからねえ。
このあと、「旭書房」「森のしずく」と見て歩いたが、自分はとくに買うものはなかった。そして蕨をあとにして、次なる目的地の浦和へ。
浦和には、おれが素敵過ぎる三島由紀夫本を買った「武蔵野書店」がある。なので当然再訪してみる。が、そうそういつも素敵な発見があるわけもなく、今回は何も収穫がなかった。そういうものだ。
そして、いよいよ最終目的地の「浦和古書センター」に向かうのだが……。

お休みでした。
森の奥でこちらを見つめるオランウータンみたいなお婆ちゃんに会いたかったけど、休みじゃしょうがない。ていうか休みすぎだよ! 平日三連荘で休んでいるとなると、店休日を知らずに出掛けていった客が開店に出会える確率はこのうえなく低い。この店休日プレートも、どことなく「森をなめるな人間どもよ」って言われてる気がするよ。
さーて、炎天下のもと、散々歩き回ったツアーは終わり。ゆっくり足が伸ばせる店を求めて偶然発見したおでんの名店「お多幸浦和店」のお座敷で、Ust中継しながら戦利品の見せっこをした我々なのだった。
おれが最終的に買ったのは、13冊だった。いくら使ったかは覚えてないけど、最後の店以外はほとんどが100円の本ばっかりなので、意外に散在はしてないはず。飲み代の方が高かったかもしれない。いずれにしろ何のトラブルもなく、三者三様に収穫もあって、非常に楽しかった。

安田さんのレポート「古本トリオ 京浜東北線ツアー
柳下さんのレポート「古本&せんべろツアー