小日向文世って巨乳女優だと思ってたよ

北野武のバイオレンス映画。
一作目の『その男凶暴につき』は公開日に見に行って、とても満足したのだけど、だからといって北野映画の熱狂的信者になるわけでもなく、以後の作品は気が向いたらレンタル屋で借りて見る、という程度の付き合いだった。

どの作品もおもしろいとは思うけど、でも、それ以上深入りしていかなかったのは、やはり北野映画にはエンターテインメント成分が決定的に欠けていたからだ。欠けているというよりも、意図的に削ぎ落としているという方が正しいのかもしれないが。

北野武による監督15作目『アウトレイジ』は、徹底したバイオレンス・エンターテインメント映画に仕上がっていた。最初に各登場人物の死に方を想定し、そこから逆算して物語を組み立てていったと監督が語っているように、謀略と裏切りの果てにたどり着く各人の運命は、七色の血飛沫が飛び交う殺戮の博覧会のようだ。

あいかわらず物語はシンプル極まりないが、だからこそ、純粋にやくざたちの暴れっぷり、死にっぷりを楽しむことが出来る。北野映画のもうひとつの特徴であるナルシシズムが薄められていたのもいい。飛び交うやくざたちのセリフも、下品で、粗野で、意味がないところがいい。おいコラ、このヤロー、バカヤローの応酬で、映画界の“コラコラ問答”として末永く語り継がれるレベルだ。

後半の大殺戮のなかでは目立たないけれど、大友組の組員役で新田純一が出ていたのも見逃せない。車の運転手として待機しているところをあっさり撃ち殺されている。以前、ビートたけしに番組中で「借金返せこのヤロー」なんて言われていたが、ちゃんと返済できたようで、今回お呼びが掛かった模様。たとえチョイ役でも、やくざ映画に出て撃ち殺してもらえるというのは“いい役”だよな。映画の中には義理も人情もないが、こんなところに人情が垣間見えるのがおもしろい。

今作でいちばんの功労者は、なんといっても石橋蓮司だろう。物語的にはいちばん悲惨な役回りでありながら、もっとも笑いを誘うおいしい役割りでもある。北村総一朗三浦友和國村隼加瀬亮など、あまりやくざ的でない俳優に極悪やくざを演じさせ、それなりに成功させている一方で、普段は悪人役の多い石橋蓮司が笑いどころを一手に背負っているのはまったく痛快だ。
兄貴分の國村にしのぎのピンハネを要求されて辛抱たまらず発する「ンもぉぉぉ!!」のセリフ芸、山王会の本家へ詫びを入れにいき、組長が現れると同時にぺこりんッと床に頭をこすりつける土下座芸、歯医者で悲惨な拷問にあい、その後にごっつい拘束具を顔にはめて登場するレクター芸などなど、アウトレイジならぬアウト蓮司を見るためだけに劇場へいっても損はしない。

國村隼の背広の襟が二枚仕立てになっているのは、國村演ずる池本組長の性質を見立てた遊びとして、衣装担当の黒澤和子さんが仕掛けたそうだ。とてもいい仕事だと思う。『エイリアン2』でバートが着ていた背広の襟が半分だけ立っていたり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』で未来のサラリーマンがネクタイを2本締めていたり、そういう“映画の中に出てくるヘンな背広”が好きなおれとしては、このジャンルも収集したらおもしろいかな、などと考えてしまった。

衣装といえば、忘れられないのが山王会のジャージだ。本家に住み込みで修業中の若者がジャージ姿なのは当然として、大親分の北村総一朗も、ことあるごとにジャージで現れるってのがリアルでいい。親分クラスになると逆に子分の前でジャージ姿でくつろいでみせて貫禄を出すんだよな。

下克上の果てに山王会のトップに座ったある人物が、ラストショットでそれまでのスーツを脱いでちゃっかり親分ジャージを着ているのがケッサクだった。散々ひとを殺しておいて、お前それいっぺん着てみたかっただけだろう! みたいな。
映画を見終わってロビーに出て、売店であのジャージのレプリカ売ってたら即買いするところだった。