05 仕切板とブックオフ巡りと純粋なコレクター

2012年7月マ日

 古本屋になったらやりたかったことのひとつに「仕切板の製作」がある。店内の在庫をジャンルごとに分類して、お客さんにそれと認識してもらうための板だ。とくに、我がマニタ書房は分類が特殊なことをセールスポイントにしようと思っているので、どんなジャンルを設けるかを考えることは、非常にワクワクする行為だ。

 本棚の仕切り板にプロ仕様のものがあるのかどうかはわからないが、プラ板か何かで代用することはできるだろう。そういうときは、渋谷の東急ハンズへ行けばいい。

 最初に模型用品を扱うフロアへ行き、プラ板を見てみたが、ちょっとお高い。最終的に何枚必要になるかわからないが、10枚や20枚では済まないはず。これをすべてプラ板で賄おうとすると経費がかさむ。

 そこで、ふと思いついて文具のフロアへ行ってみた。そう、プラスチックの下敷きだ。これだってプラ板の一種なのだ。厚みもちょうどいい。この下敷きを半分に切って2枚にすれば、想定している寸法(うちの本棚に挿して4センチほど前に飛び出る)に、ぴったりのサイズであることがわかった。飛び出た部分にジャンル名を書くのだ。

 とりあえず、白い下敷きを20枚購入する。これで40のジャンルを作ることができる。いずれ足りなくなったら、また下敷きを追加購入すればいい。

 店に戻って、さっそく作業を始めよう。

コツコツと運び込んだ本を棚に並べていく。古書マニアにとってたまらん瞬間。

 カッターで下敷きのセンターにスジを入れ、パキッと割る。お客様が怪我をしないようカドも落として、紙やすりで滑らかにする。この程度の作業は、元プラモ少年にはなんの苦労もない。出来上がった仕切板には、ラッカー塗料でジャンル名を書いていく。

「アイドル」「オカルト」「音楽」「格闘技」「ゲーム」……この辺はどこの本屋にもあるジャンルかもしれない。

日本兵」「ハウツー本」「ヤクザ」「UFO」……ちょっとあまり見たことがないジャンルが出てきた。

「極端配偶者」「刑罰」「秘境と裸族」「人喰い」……さすがにこんなジャンルを設けている本屋はないだろう。

 最初「秘境と裸族」は、「秘境」と「裸族」で別ジャンルにしてみたのだが、いざそれに合わせて在庫を振り分けていくと、どうも座りが悪い。富士の樹海に関する本(秘境)とピグミー族の本(裸族)を一緒にするのはおかしいと思って分けていたわけだが、そうした例は思ったほど多くはなく、最終的には合体させることにした。結果的に「秘境と裸族」は語感もいいし、マニタ書房の見所ポイントになる(ような気がする)だろう。

 

2012年7月ニ日

 時間はかかったが、古物商の申請は無事に通ったと連絡が来たので、神田警察署まで許可証を受け取りに行く。店から歩いて行けるのは本当にありがたい。

 受付で要件を告げると、例によって生活安全課へ案内される。廊下の椅子に座って順番待ちをしていると、目の前を捕縄されたおネエさんが通り過ぎていった。そうなのだ、ぼくは古物商の申請でここに来ているが、本来、生活安全課というところは違法風俗の捜査や賭博の摘発などを担当する部署なのだ。

 と、ぼんやり考えているうち、無事に古物商の営業許可証が発行された。これで、今日からぼくは古物商である。

大きさはクレジットカードをひとまわり大きくしたくらい。

 この許可証さえあれば、古本はもちろん、それに類する古物を買い取ることができる。もう少し運転免許証に近いものを予想していたが、ビニール製でペナペナだ。

 中に記載されている項目も、交付番号と日付とぼくの住所氏名くらいで素っ気ない。9,000円も払ったのにこれかー。

 ひとつおもしろいのは「行商」を(する・しない)のチェック欄があることだ。ぼくの場合は、何かの古本市に出店する可能性を考えて、それが行商に値するかどうかはわからないが、いちおう(する)にしておいた。

 

2012年7月タ日

 古本屋をやろうと決めた日から、度々ブックオフ巡りを実行している。そして、次に行きたいのは札幌ブックオフ巡りツアーだ。調べたところ、札幌市内にはブックオフの支店が23店舗あるようだ。これを何日かに分けてレンタカーで回る。移動の合間には、うまい味噌ラーメンやスープカレーを食う。夜はジンギスカンで生ビールだ。どう考えても楽しいに決まってる。

 問題は、どうやって行くかだ。空路で行くか、鉄路で行くか。

 様々なルートを調べてみたところ、茨城の大洗から苫小牧までフェリーで行くという方法があることに気がついた。茨城なら自宅からも行きやすい。マイカーに乗ったまま北海道まで行ければ、現地でレンタカーを借りることもないし、仕入れた本を宅配便で送る必要もない。かなりの経費の節約になるだろう。

 これしかない! と勇んで料金を調べてみて、愕然とした。フェリーに乗用車を載せてもらう料金って、予想していた以上に高いのな。乗用車と人間一人で合計6~7万円くらいする。もちろん、マイカーを北海道まで運んでしまったら、帰りもフェリーで帰ってくるしかない。つまり、交通費だけで14万近くかかってしまうのだ。ありえない……。

 それと、時間もかかり過ぎることがわかった。老いた母と小学生の娘を置いてそう長いこと家を留守にはできない。せいぜい5日間がいいところだ。

 

 最初に考えてみたプランは、以下の3つ。

 

 A案「行きも帰りも海路」

 大洗~苫小牧をフェリーにして、札幌でのブックオフ巡りに3日を費やす。すでに計算したように、この方法だと往復で約140,000円かかる。

 

 B案「行きは陸路、帰りは海路」

 常磐道東北道をたどりつつ3日ほどかけて車で北上(高速代が約15,000円)。津軽海峡だけフェリーを使い(約24,000円)、札幌で1日ブックオフめぐりをしたら、5日目に苫小牧からフェリーで一気に大洗まで帰って来る(約70,000円)。往復を合計すると約110,000円。

 

 C案「行きも帰りも空路」

 我が家は成田空港にも行きやすい。そこで、成田~新千歳をLCCで往復(約12,000円)する。現地ではレンタカーを3日間借りる(約20,000円)。合計すれば32,000円。さすがはLCC、これがいちばん安上がりのルートだ。ただし、この場合は大量に発送することになる宅配便代がプラスされる。でも、箱ひとつ1500円だとして10箱送ったところでせいぜい15,000円だから、上記の2案よりずっと安いのだ。

 

 本心を言えば、一ヶ月くらいかけて千葉から札幌までのブックオフを点々と巡りながら往復してみたいし、もっと言えば丸一年かけて日本中のブックオフを回りたいが、そういうわけにもいかないのだ。

 

2012年7月シ日

 古本屋を始めるのだと言うと、「せっかくコレクションしたものを手放すのは辛くない?」と聞かれることがある。心配してくれてありがとう。でも、全然平気なんだよね。なぜなら、ぼくはコレクターだから。より正確に言うなら、ぼくは“純粋な”コレクターだからだ。

 たとえばカメラが大好きで、年代物の名機を手元に置いてその形状の違いを愛でたりする人がいる。そういう人はカメラのコレクターではない。カメラを愛している人だ。アロハシャツが好きで、気に入った柄を見つけるたびに買い込んで、その日の気分に合わせて着て歩く人。そういう人もアロハコレクターではなくて、アロハを愛している人だ。

 じゃあ、集めたものを使ったりしないで、大切に保管している人がコレクターなのかというと、それも違う。そういう人だってやっぱりその対象物を愛してる人だ。使うか使わないかは関係ない。

 一方、ぼくは古本が大好きで、あちこちの古本屋とか古書市に出掛けていっては、自分のアンテナにビビビと来る本を探し出して集めることをする。だから、他人からは古本コレクターだと思われているだろう。それは間違っていない。でも、手に入れた古本を愛しているかと言うと、とくにそんなことはないんだ。

 ぼくは古本を探すために出掛けることが好きで、古本の山の中からいい本を掘り出す瞬間が好きで、それを分類するのが好きで、棚に並べたりするのが好きだけど、そこまでの過程を味わったら、あとは手放してもいいの。集めたものへの愛着はあんまりないんだよね。ただ、集める過程だけが好きな自分こそ「純粋なコレクター」ではないのかと、ぼくはわりと真剣に思っているんだけど、ここはなかなか理解されにくい。

 若い頃は、まだこういう考えにまでたどり着けていなかったから、集めたものへの愛着があるような錯覚はしていた。でも、いまはハッキリとそうでないことがわかったので、手放すことに躊躇いはない。むしろ、本を手放すことで幾許かのお金になり、その資金でまた本を探しに行ける(=探す楽しみを味わえる)なら、最高じゃないか。これが、古書店の開業を決断するに至った、最大の理由だ。