15 裸で覚える竹熊さんとビッグダディ

2013年5月マ日

 朝から雨降り。こんな日にわざわざ古本屋巡りをする人も少ないだろうから、店は開けずに家でおとなしく原稿でも書いていればいい。だが、池袋の西口公園では今日から古本まつりが始まっている。うちの店にも客は来ないけど、古本まつりの客足も少ないだろう。ということは、売る側ではなくて、買う側の立場になってみると、それはつまり「ライバルが少ない」ということだ。

 現場に着いてみると、古本を満載したワゴンはすべて大型テントとビニールのカーテンで覆われており、商品の本が濡れるようなことはない。でも、やっぱり雨せいで客足が少なく、古本まつりとしての盛り上がりには欠ける。

 このテンションの上がらなさが、背表紙をチェックするぼくのセドリビーム(ハンター視線)に悪影響を与えているのか、どのワゴンを覗いても、いまいち「欲しい!」と思える本が見つからない。せっかく来たんだから何か買って帰らなきゃ、なんて考えが頭の隅をよぎったりもするが、そうやって無理して本を買ってもロクなことにならないのは経験上わかってる。

 いっそ、スッパリ諦めて何も買わずに引き揚げるのもプロの古本屋としては懸命な判断かもしれない。そう考え始めたそのとき。一冊の本のタイトルが目に飛び込んできた。

▲『裸で覚えるゴルフ入門』(1973/土屋書店/弘文エディター編)

 かつて大槻ケンヂが紹介したこともある、ヘンなもの好き界隈では有名な本で、ぼくは初めて現物に遭遇した。

 タイトルからわかるようにゴルフの教則本で、中身も普通にゴルフの入門解説で構成されている。第1章「知識編」から第2章「基本編」、第3章「実技編」、第4章「応用編」と続いていく。それぞれの見出しも、「自分にあうグリップはどれか」とか、「両足とボールの距離」とか、「芝目の性質」とか、「ラフが深い場合」とか、「ぬれたグリーンは曲がらない」とか、いやらしさを感じさせる要素はまったくない。ただし、それぞれの文章に添えられている写真が、いちいち全裸なのだ。 カバーの見返しには、まえがきの抜粋として以下のようなことが書いてある。

 ゴルフのむずかしさは、自分の技術と判断だけが頼りである、という点から出発している。止まっているボールを打つのが、どうしてむずかしいのか、というかもしれないが、実際にやってみるとそれがよくわかるものだ。
 この本は、あくまでも初心者に焦点をあて、とくにヌードを使って形をわかりやすく表現してみた。画期的な試みであるが、ゴルフ入門の一助にしていただきたいと思う。

 

 なるほど、たしかにショットを打つときの筋肉の動きなんかは、裸の方がよりわかりやすい。編集する側にとっても、読者の側にとっても、十分に必然性のある理由だ。ゴルフのためならあたしがひと肌脱ぐわ、である。いやあ、久々にいい本が手に入った。

 

2013年5月ニ日

 竹熊健太郎さんご来店。彼と初めて会ったのは、いまから30年ほど前。ぼくがまだゲームフリークで出版部をやっていた頃のことだ。相原コージさん作のスーパーファミコン用ソフト『イデアの日』の攻略本を作ることになって、前半の攻略記事を我々出版部が、後半の読み物を竹熊さんが執筆することになった。それ以来のご縁である。

 竹熊さんからはちょっとした相談を受け、こちらも前向きに対応することに。その後、要件もそこそこに店内の本棚を興味深そうに眺めておられる。帰りしな、ご自身のデビュー作である『色単』をお買い上げいただいた。

▲いつもながらのいい笑顔。

2013年5月タ日

 乙武洋匡氏が銀座のレストランに「車椅子だから」という理由で入店拒否されたというニュースが流れ、ネットでは賛否が巻き起こっている。ハンディキャップのせいで人間の自由な行動が制限されるのはとても悲しいことだけれど、店が対応できることにも限界はあるわけで、なかなか難しい問題である。

 ぼくの友人や知人にも足腰が不自由な人がおり、マニタ書房に来たがってくれているのだけど、エレベーターのないビルの4階なので、ご来店いただくのが困難であることを心苦しく思っている。

 

2013年5月シ日

 最近、自分の古本打率が素晴らしい。出掛けるたびに“いい本”を掘り出している。これは別に運がいいというわけではなく、ただ単にすごい数の古本を見ているからだ。普通の人が月に1回か、多くても週に1回くらいしか古本屋に行かないところを、ぼくはほぼ毎日行って、しかも何軒もハシゴする。そんだけ打席に立ってればヒットもたくさん打てるわな。

 今日は、自分と相性のいい「新橋駅前古本まつり」に行ってきた。そう、古本市には相性の善し悪しがある。こうした古本市は複数の古本屋が共同で出店しているので、その中に自分の蒐集傾向に合う本を多く扱う店が入っているかどうかで相性が変わってくる。新橋駅前「古本まつり」は相性がいい。新宿サブナードの「古本浪漫洲」はどうも合わない。同じ新宿でも西口地下の「新宿古本まつり」はいい。高田馬場BIG BOXの「古書感謝市」も規模は小さいながら相性がいい。逆に池袋西武リブロの「古本まつり」は規模はデカいのにどうも相性が悪い。難しいものだ。

 というわけで、本日訪問の「新橋駅前古本まつり」は、さすがの相性のよさで今回も収穫はそれなりにあったが、とくに嬉しかったのがこれ。

ビッグダディが盛岡で開業した接骨院のチラシ!

 店を宣伝したくてバラ撒いているチラシの住所にモザイクかける必要があるのか疑問だが、地元で配るのと、インターネット上に公開するのとは意味が違うだろうから、いちおうモザイクかけておいた。

 しかし、古本屋というのは売れそうなものなら何でも売るねえ。ま、これにわざわざお金を払って買うぼくもどうかしてるんだけれど。

 画像だとわかりにくいかもしれないが、このチラシ、おそらくビッグダディが手描き&ワープロ打ちして切り貼りした版下を、白黒コピーで複製したものだ。ということは、これが本物かどうかを問うことには意味がない。そもそもがコピーなんだから。

 もっと言えば、ぼくがこれをさらにコピーして、大量の複製を作って無限に売り続けることもできるわけ。もちろん、そんなことはしないし、原本(といってもコピーだけど)をマニタ書房で売り物にすることもない。あくまでも自分のコレクションである。

 ところで、このチラシを見るとビッグダディがけっこう真面目に長時間働いていることに気づく。盛岡屋、マニタ書房よりよっぽど営業してるな!

 

2013年5月ヨ日

 本の価値をちゃんと勉強して、しっかり値付けをしてる店が、客にとっていい古本屋かというと、そういうわけでもないところが悩ましい。だって、客からすればレアな本が無造作に100円で売られていたりするのが最高の古本屋なわけで。

 いい本を仕入れることができたら、しっかり値付けして利益を出したいという気持ちと、いい本を安く発見して喜んで欲しいという気持ちのせめぎ合い。古本マニアから古本屋になったぼくは、日々そんなことを考えている。