29 ばむと幻のチンタマとアーカイブック

2014年7月マ日

 ふと、疑問が頭に浮かぶ。「夏は暑く、どうしても汗ばむ」などと言うときの「ばむ」ってなんだろうか? と。

 たとえば四季の変化で「春めく」と言えば、その「めく」は動カ五、すなわち動詞カ行の五段活用ということになる。では「汗ばむ」はというと、動マ五──動詞マ行の五段活用だと言うことまではわかる。でも、ぼくが知りたいのはそんなことじゃない。

 春めくの「めく」は、「すっかり秋めいてきましたねえ」というように、秋にも適用することができる。しかし、同じ四季でも「夏めく」「冬めく」とは言わない。そこにぼくは不満があるのだが、それはいまは追求しないでおく。

 季節以外にも、「煌(きら)めく」や「仄(ほの)めく」や「騒(ざわ)めく」など、「めく」はたくさんのバリエーションがある。なのに、汗ばむの「ばむ」には他の活用例が見当たらないのだ!

「近頃すっかり夏ばんできましたねえ」とは言わない。「すっかり暑ばんだので、汗を流しに風呂ばみますか」とも言わない。「神保町の古書会館で古本を掘りばんだり」もしない。

 ……と、そんな話を平日の昼間の酒場でしていたら、相棒が「黄ばむがあるでやんす!」と叫んだ。おお、それがあったか。しかし「汗ばんでシャツが黄ばむ」だなんて、イヤな用法ばかりだねえ。

 それに、同じ色の名前でも、青ばむ、赤ばむ、群青ばむとは言わないのはなぜなんだ! 黄色だけ優遇か! ぼくは気色ばんで詰め寄るのだった。

 

2014年7月ニ日

 ひと足先に献本していただいた『本の雑誌 2014年8月 ヤカンがぶ飲み特大号 No.374』を読んでいる。この号は第一特集が「ブックオフでお宝探し!」で、ぼくがアクセル全開で協力させてもらっている。ブックオフマニアたちのどうかしている様子が堪能できるので、ぜひ買っていただきたい。

www.webdoku.jp

 

2014年7月タ日

 マニタ書房のビルが入っている1階の時計屋は、よくご主人が店先でタバコを吸っている。いま、Tシャツ・ラブサミットへ向かうために外へ出たら、一服しているご主人と目が合った。「お出かけですか~」なんて言われたもんだから、つい反射的に「レレレのレ~」と返事しそうになったが、彼とはそういう関係じゃないのだと我に返り、どうにか思い留まった。

 

2014年7月シ日

 本日もマニタ書房を開けた。しかーし! 用事があるので、あと2時間後には閉めてしまうのだ。恐怖の2時間営業である。君たちは入店できるか!?

 どうなってるんだ! やる気あンのか! ほとんど休みじゃねーか! とお怒りの皆さん、抑えて抑えて。明日は17:15にはオープンできるでしょう。夜も21:00頃までやりたい……気持ちはあるんですが、この陽気ですからね。少し早めに閉めてビール飲みに行っちゃうかも。

(※開業から2年目のこの頃までは、まだ営業意欲が低かったのである)

 

2014年7月ヨ日

 本日発売の『屋上野球 vol.2』には、とみさわの連載「古本三角ベース」第2回が掲載されている。この連載の話が来たのは「ナビブラ神保町」で「古本珍生相談」の連載が決まったのとほぼ同時のタイミングで、こりゃ忙しくなるぞー! と思ったけれど、『屋上野球』は月刊どころか季刊ですらなく、年2回刊だから、全然ヒマなのだった。

 ちなみに、「古本珍生相談」は略称が「フルチン」になるようにタイトルを付けた。なので『屋上野球』での連載も珍本と野球を絡めた内容にして、うまいこと「チンタマ」とかそういう感じにならないものかと無い知恵を絞ってみたが、うまくいかなかった。毎日そんなことばかり考えて暮らしている52歳です。

屋上野球 Vol.2

屋上野球 Vol.2

  • 編集室 屋上
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2014年7月ボ日

 過日、まついなつきさんがご友人とマニタ書房を来訪。noteにそのときの感想を書いてくださった。

note.com

 一部引用する。

「マニタ書房」に集められている本たちは、現在は大人になったわたしたちが子どもの頃に、図書館や本屋や親や親せきの書棚の前で、え、これなんだろう?と好奇心が赴くままに手に取った、お勉強のためでも、ひまつうぶし(ママ)のためでもない、子ども向けに書かれているわけでもない、少し背伸びして、大人の世界(戦争、人種差別、セックス、コンプレックスなどなど)、またはこの世界の真理や謎(UFO本や未確認生物本、心霊本などなど)に近づく!という興奮のための本。

 そう、ぼくがマニタ書房に並べているのは、まさしく「この世界の真理や謎に近づくという興奮のための本」だ。初訪問にしてマニタの神髄を読み取ってしまう眼力に、心底敬服した。

 

2014年7月ウ日

 世におかしな本はたくさんあり、それらを言い表す言葉も様々だ。トンデモ本、アホアホ本、フールブック……。ぼくも自分の集めている変な本に、いいネーミングをしたいなとは常々思っている。

 どんなバカな内容の本でも、ぼくはそれを愛しているので、それらを「バカ本」とは言いたくない。コラムで取り上げたりするときには暫定的に「珍本」と言ってるけれど、それも実はピンとこなことが多い。

 友人の噺家の三遊亭楽市が、「咄のマクラの中で、道楽者というと聞こえが悪いから趣味人と言うんだ、というのを教わったことがあります。なんでも言いようですね」と言っていた。

 なるほどねえ。語感的には道楽者の方が、より江戸の風を感じるので、自分を指すときは自虐的な意味も含めて道楽者でいい気がするが、他者を呼ぶときは趣味人の方がたしかにセンスがいい。

 ムカエマカスハガ、へんじく……みうらじゅんさんの考えるネーミングは、常に対象を揶揄するニュアンスが含まれているけれど、なぜかイヤな気持ちにならないのは、やっぱりご本人の人柄だったり、作風のせいなんだろうな。あの人の領域にはなかなかたどり着けない。

 珍本とは別に、ぼくは何かを集めた本、特定の情報を追求した本が好きで、見つけるとすぐに買う癖がある。それらの本のことは「何かをアーカイブした本」ということから「アーカイブック」と呼ぶことにしよう。