2013年5月マ日
切実に店員さんが欲しいなあと思う。
店の営業は店員さんに任せて、自分は「セドリ」という名の買い付け旅行だけをして暮らす。それで店の維持費と自分の生活費を賄う。その合間に行うライター仕事による収入は余録として貯蓄に回す。そんな調和水槽的サイクルができたら最高なのだが、どう考えてもマニタ書房のコンセプトでは不可能だ。
開業以来、一冊も売れていない「極端配偶者」「大家族」「特殊辞典」「珍健康法」といった不人気コーナーをリストラして、もっと動きのいい商品を充実させるべきなのだろうけれど、そうなったらマニタ書房がマニタ書房ではなくなる。
そもそも、マニタ書房はお金のために始めた店ではない。日がな一日、店の帳場にほげら~っと座っていて、たいして儲かりもしないけれど、ごく一部の人に愛されることでなんとなく続いている、そんな店の主人になりたくて始めたことなのだ。
その行き着く先がどうなるかは助川助三を見ればわかりそうなもんだが、もう引き返せないのである。
2013年5月ニ日
「買い付け」と言えばかっこいいのに、「セドリ」と言われると、なんだかヒト聞きが悪い。やってることに何ら変わりはないのに。
「買い付け」には、目利きが海外の蚤の市でアンティーク家具などを仕入れてくるイメージがある。一方「セドリ」には、ロクに古本の知識もない者がスマホとビーム端末を片手にブックオフでバーコードを読み取っているイメージがある。そりゃあどっちがモテるかと言ったら答えるまでもない。でも、セドリは古書業界に昔からある言葉なので、ぼくは臆せず使っていこうと思う。
2013年5月タ日
友人のミュージシャンが大麻所持で逮捕されたというニュースにショックを受ける。メジャーデビューも果たし、さあこれからガンガン行くぞというときに何をやっているのだ。まあ、それも含めての彼という人間なので、逮捕されたくらいで今後の付き合いを変えるつもりもない。まずは自分のやらかしたことにきちんと向き合い、素直に罰を受け、もういちどやり直してくれることを願わずにはおれない。
2013年5月シ日
今日はお台場のカルカルにてトークイベント「ヘンな本ナイト」がある。いろいろと準備をして会場入りしたのだが、開演直前に盟友である成澤大輔の訃報が届き、全身から力が抜ける。数年前から闘病していることは耳にしていたが、ついにその日がやってきてしまった。
成澤が死んだという実感がなく、心ここに在らずの状態でイベントを終えて帰路に着く。しかし、電車を待つ有楽町駅のホームでベンチに座ったまま動けなくなり、しばらく泣いた。
2013年5月ヨ日
今月号の『本の雑誌』に、岡山の巨大古書店「万歩書店」についての座談会(岡崎武志さん、北原尚彦さん、ご一緒)が掲載されている。
古本亡者なら一度は行っておかなきゃならない万歩書店に、ぼくは今年の1月に岡山~倉敷ツアーで行っている。とにかく店の規模がデカく、1時間やそこらの滞在では到底すべての本を見ることなどできない。いくらレンタカーで来ているとはいえ、欲しい本を全部買っていたら大変なことになるので、厳選に厳選を重ねて本店で9冊、エンタメ店で2冊、倉敷店で4冊だけ買い込んだ。
いまはマニアに荒らされていい本が減ったらしいが、いち早くこの店に通っていた吉田豪氏によると「以前はこんなものではなかった」ということだ。古書販売は分母のデカさこそ正義であるからして、こうした大型古書店は貴重である。
2013年5月ボ日
このところ続いていた怒涛の出張買取が終わった。喜久盛酒造の藤村社長、デザイナーの植地毅さん、ゲームフリークの杉森建さん(こちらは郵送で)という、明らかに濃厚なコレクションをお持ちであろう方々の蔵書を買い取らせていただいたのだ。全部で段ボールにして7箱。うちのような小さい店にとってはかなりの量だ。査定額も皆さん満足していただけたようで、ありがたい限り。
マニタ書房は、店主が「これは!」と思った本しか買い取らないわがまま経営ではあるが、そのかわり、いい本は相場以上の高値で買い取るようにしている。それでいて店に並べるときは相場より一割ぐらい安い価格にしているので、それじゃあ儲かるわけないよ。
一般の方は、古本屋の看板に「高価買取」とあると、その店の店頭に並んでいる本の価格を思い浮かべるだろう。つまり、その店で3,000円の値札がついているのと同じ本を持ってきたら、3,000円はあり得ないにしても、2,000円くらいで買い取ってもらえるのではないか、と。
でも、さすがにそれは無理な相談だ。せいぜいが200~300円。査定の高いところでも500円がいいところ。
日常の消耗品や食材と違って、古本は仕入れてもすぐに右から左へ売れるわけではない。いつ売れるかわからないということは、その日が来るまで店舗の家賃がズシズシかかってくるし、光熱費や人件費もかかる。それを見越して、買取り金額はギリギリまで下げざるをえない。
ブックオフに本を持ち込んだことのある人ならわかると思うが、あそこはだいたい買い取り金額が1冊あたり10円とか100円でしょう。激安だけど、店舗規模や人件費を考えたら当然そうなる。古本屋としては何も間違っていない。
ただ、マニタ書房のような個人店がブックオフのような大型古書店と同じことをやっていたのでは太刀打ちできないので、様々な場面においてシステムを極端化して個性を出すしかない。だから買取りできる本を厳選するかわりに、本当にいい本であれば最低でも100円、あるいは500円でも1000円でも値付けをして買い取るわけだ。
今日、いちばん高く買い取ったのはオウム事件のときに話題をさらった横山弁護士の『大馬鹿者』で、600円の値をつけた。自分のコレクションに加えるためなら2,000円は出してもいい本だが、店の仕入れとしてそんな値段でセドったら売値は6,000円くらいつけなければ利益が出ない。
しかし、マニタ書房をそんな店にはしたくないので、1800円~2000円ぐらいで店頭に置くことをイメージして、600円という買い取り価格を提示させていただいた。自分用としてすでに一冊持っているので、ようやく店頭に並べることができた。