2015年4月マ日
ひとのコレクションを見るのは楽しい。『本の雑誌』の巻頭企画「本棚が見たい!」もいいし、『レコードコレクターズ』誌で大鷹俊一氏がやっていた「レコード・コレクター紳士録」も毎号楽しみだった。
友人がこのたび何年かにわたって書い続けてきた『レコードコレクターズ』を処分するというので、わがまま言って2月号だけ5冊ほど買い取らせてもらった。なぜ「2月号だけ」なのか?
『レコードコレクターズ』では、毎年2月号に「私の収穫」という記事が載る。これは、レココレ誌の執筆陣たちが前年に入手した自慢の1枚を紹介する記事なのだ。執筆陣は和久井光司さん、安田謙一さん、湯浅学さん、といった名だたるコレクターばかりで、その蒐集ジャンルは多岐にわたる。だから、収穫といってもぼくが興味のあるものとは限らないのだが、それでも入手の過程とともに語られるレア盤の魅力は、知識のないぼくでも十分に楽しめるものだ。
そして、いつかこの「私の収穫」だけを切り抜いてスクラップしたいなあと思っていた。それが今回5冊まとまって手に入った。いい機会かもしれない。そろそろ本格的に2月号収集を始めようかと思う。
2015年4月ニ日
先月、買い取りしておきながら値付けをサボっていたゲーム雑誌とパソコン雑誌を大量に店頭へ出したら、早速それらを求めるお客様が殺到してくれた。あれよあれよという間に売れていく。ゲーム雑誌、パソコン雑誌の威力、恐るべし。連日売り上げが1万円を越えている。「たったそれっぽっち!?」と思われるかもしれないが、マニタ書房は売り上げがゼロの日なんて当たり前なのだ。そんな閑古鳥の鳴く店でこの賑わいはすごいことなのである。
ただ、このところのゲーム雑誌&パソコン雑誌の大放出で、お客様の中にはマニタ書房をそっち方面の専門店だと思っている方がいるかもしれない。これは、あくまでもいまだけのこと。本来、マニタ書房は「特殊古書店」を名乗っているところで、刺青の消し方の本だとか、マサイ族の戦士と結婚した日本人女性の手記とか、心霊写真集とか、そういうよくわかんないジャンルの本が主力商品なのですよ。
2015年4月タ日
毎日せっせと古本を売って得たお金を、中古レコードに注ぎ込んでるぼくは、キャバクラで稼いだお金をホストクラブに貢いでいる女の子と似ていなくもない。
2015年4月シ日
ふと思うこと。町田忍さん、久須美雅士さん、清水りょうこさん、石川浩司さんといった缶飲料コレクターあるいは研究家の皆さんは、ある日突然、自分の蒐集したドリンク缶を見ていて、ギューってツブしたくなったりしないものだろうか。
吉田戦車の『伝染るんです』に「今日はとりかえしのつかないことをしよう」といってジジイがビデオデッキの中に納豆をぶちまけるネタがあった。実際にあんなことはするはずないが、でもその気分はよくわかる。あれがギャグとして成立するということは、誰しも心の中に、あれと似たような衝動を秘めているのだと思う。
破壊欲というのか、自滅願望というのか。ぼくは先端恐怖症のくせに、刃物や尖ったものを見ると、どうしてもその刃先に触れてみたくなる。もちろん自分を傷つけることはしないのだが、つい触ってしまう。台無しにしたい欲望というのが、自分の心の奥底には確実にある。それがときどき顔をもたげてくる。
あるとき、何かのスイッチが入ったかのように音楽から一切の興味を失って、手持ちのCDをすべて処分したことがある。かなりの量を持っていたので一度に全部は無理だったから、毎日100枚ずつくらいを紙袋に入れて会社に持って行き、終業後にディスクユニオンに寄って売り払った。毎日数千円から、ときには万単位の現金を手にすることができた。その快感は凄まじかった。「ぼくはもう蒐集欲からは解き放たれたのだ!」と長年自分を苦しませてきた(と同時に楽しませてもきた)物を集める衝動から自由になり、一気に生きるのが楽になった。
ところが、それから数年後にiPodが登場すると、これはウォークマン以来の音楽の聴き方の革命だ! と興奮し、売り払ったはずのCDを猛烈な勢いでまた買い戻し始めた。まったく無駄の多い人生である。
その後、とつぜん猛獣に人が喰われる映画の世界に開眼し、自ら命名した「人喰い映画」のDVDを集め始め、人喰い人種に関する本も集め、それが高じてマニタ書房を始めてしまったわけだ。
その背景には、あのCDを売り払ったときに味わった快感があるのは否めない。ぼくが純粋なコレクターで、溜め込むことに快感を感じるだけの人間だったら、古本屋などやれないだろう。
2015年4月ヨ日
喜国雅彦さんが『本棚探偵最後の挨拶』で、第68回推理作家協会賞「評論その他の部門賞」を受賞された。実におめでたいことである。この本にはマニタ書房もチラリと登場する。我が店のことが書かれている本が受賞したことは、ぼくにとっても嬉しい出来事だ。
今回の推協賞には、喜国さんの他にも、北原尚彦さん、葉真中顕さん、杉江松恋さんといった友人たちが4人も候補に入っていたので、きっと誰かは受賞するだろうと思っていた。許されるなら4人全員に受賞してほしかったけれど、さすがにそうはいかない。でも、みんな実力ある書き手ばかりなので、きっとまた次があるだろう。

