50 アビーロードとエアロビスタジオと吉野朔実さん

2016年4月マ日

 昨夜、仕事帰りに地元のリサイクルショップを覗いてみると、店頭ワゴンの中に何枚かの中古レコードが並べられていた。ひと通りチェックしてもありきたりのものばかりで、収穫と言えるようなものはなかった。それでも、こういう行為を徒労と思わずに見る習慣をつけるのは大事なことだ。コレクターなら、そして古物商なら尚のこと。

 

2016年4月ニ日

 熱心なビートルズファンの男性が、8年もの年月を費やしてイギリス国内にある全132箇所の「アビイロード」を訪問したというニュースを見た。

 記事によると男性は〈家の近くにビートルズのアルバムとは関係がない“アビイ・ロード”があった〉ことを知り、ならばイギリスにはどれほどの“アビイ・ロード”があるのかが気になり始め、それらをすべて訪ねてまわったのだという。

 まるでエアコレクターの鏡のような人である。

 エアコレクターというのは、ぼくが提唱しているコレクターの概念で、何も集めないコレクター、つまり究極のコレクターの在り方だ。

 日本は地震大国だ。地震、火事、雷、津波。いつなんどき自然災害が襲いかからないとも限らない。ひとたび津波に襲われれば、家もコレクションも、ときには家族さえも失ってしまう。そんななかで物を溜め込むことにどの程度の意味があるのか。物はいつかは消えてなくなる。だから、現物に頼るのではなく、概念を集めればいいのだ。

 ……という非常にわかりにく〜い話なので、正しく理解したい方は拙著『無限の本棚』を読んでいただくのが一番なのだが、まあ、かなり乱暴に要約するとスタンプラリーみたいなことだ。そして、このイギリスの男性は自分で、ビートルズの「アビイロード巡り」というスタンプラリーを発見してしまい、それを達成したというわけだ。この人と一緒に昼酒を飲みに行きたい〜。

 ちなみに、イギリスにはそんなにたくさん「アビーロード」があんの? と素朴な疑問もあるのだが、「abbey」は「修道院」という意味なので、日本で言うところの「〜参道」みたいなことだという。そりゃアチコチにあるやね。

 

2016年4月タ日

 店番をしていたら、植地毅さんがご来店。ぼくのゲームデザイナーとしてのデビュー作である『エアロビスタジオ』の北米版ソフトを持ってきてくれた。

 あれは当時、バンダイの下請け会社からの「ファミリートレーナー用にエアロビクスを題材にしてゲームを作る」というザックリした依頼で、開発用のトレーナーマットも支給されなければ、定例会議も何にもなかった。ただぼくがエアロビのビデオを見ながら絵コンテに書き起こし、数週間でチャチャっと仕様書にしたやっつけ仕事だった。仕様書を提出してから数ヶ月後に、忘れた頃に完成品のカセットがひとつ送られてきただけである。

 だから、その後に海外版が作られていたことなんて知るはずもない。そのパッケージを目の前に出されて「へー」と驚きはしたものの、これといってなんの感慨もなかったな。

 

2016年4月シ日

 今日、ある友人に急に誘われて北千住の幸楽へ行く。すると、そこには共通の友人である中川いさみ氏と吉田戦車氏が先に来ていた。そしてよく見れば三人とも喪服を着ている。なんと、吉野朔実さんの葬儀の帰りなのだという! 急逝された吉野さんの葬儀帰りで、この店で飲んでいたとのだそうだ。

 吉野さんの死はあまりに急なことで、彼女の手帳に残されていた仕事仲間にしか連絡ができずにこのようなことになったが、とみちゃん(ぼく)も彼女とは親しかったので早めに知らせるべきだと、こうして呼んでくれたのだという。 

 彼女の急逝にぼくがどれだけショックを受けたかをここに書いても意味がない。ただ、みんなと別れたあとに自分の行きつけの店へ行き、涙の流れるままに一人でラムソーダを飲んだ。