29 ばむと幻のチンタマとアーカイブック

2014年7月マ日

 ふと、疑問が頭に浮かぶ。「夏は暑く、どうしても汗ばむ」などと言うときの「ばむ」ってなんだろうか? と。

 たとえば四季の変化で「春めく」と言えば、その「めく」は動カ五、すなわち動詞カ行の五段活用ということになる。では「汗ばむ」はというと、動マ五──動詞マ行の五段活用だと言うことまではわかる。でも、ぼくが知りたいのはそんなことじゃない。

 春めくの「めく」は、「すっかり秋めいてきましたねえ」というように、秋にも適用することができる。しかし、同じ四季でも「夏めく」「冬めく」とは言わない。そこにぼくは不満があるのだが、それはいまは追求しないでおく。

 季節以外にも、「煌(きら)めく」や「仄(ほの)めく」や「騒(ざわ)めく」など、「めく」はたくさんのバリエーションがある。なのに、汗ばむの「ばむ」には他の活用例が見当たらないのだ!

「近頃すっかり夏ばんできましたねえ」とは言わない。「すっかり暑ばんだので、汗を流しに風呂ばみますか」とも言わない。「神保町の古書会館で古本を掘りばんだり」もしない。

 ……と、そんな話を平日の昼間の酒場でしていたら、相棒が「黄ばむがあるでやんす!」と叫んだ。おお、それがあったか。しかし「汗ばんでシャツが黄ばむ」だなんて、イヤな用法ばかりだねえ。

 それに、同じ色の名前でも、青ばむ、赤ばむ、群青ばむとは言わないのはなぜなんだ! 黄色だけ優遇か! ぼくは気色ばんで詰め寄るのだった。

 

2014年7月ニ日

 ひと足先に献本していただいた『本の雑誌 2014年8月 ヤカンがぶ飲み特大号 No.374』を読んでいる。この号は第一特集が「ブックオフでお宝探し!」で、ぼくがアクセル全開で協力させてもらっている。ブックオフマニアたちのどうかしている様子が堪能できるので、ぜひ買っていただきたい。

www.webdoku.jp

 

2014年7月タ日

 マニタ書房のビルが入っている1階の時計屋は、よくご主人が店先でタバコを吸っている。いま、Tシャツ・ラブサミットへ向かうために外へ出たら、一服しているご主人と目が合った。「お出かけですか~」なんて言われたもんだから、つい反射的に「レレレのレ~」と返事しそうになったが、彼とはそういう関係じゃないのだと我に返り、どうにか思い留まった。

 

2014年7月シ日

 本日もマニタ書房を開けた。しかーし! 用事があるので、あと2時間後には閉めてしまうのだ。恐怖の2時間営業である。君たちは入店できるか!?

 どうなってるんだ! やる気あンのか! ほとんど休みじゃねーか! とお怒りの皆さん、抑えて抑えて。明日は17:15にはオープンできるでしょう。夜も21:00頃までやりたい……気持ちはあるんですが、この陽気ですからね。少し早めに閉めてビール飲みに行っちゃうかも。

(※開業から2年目のこの頃までは、まだ営業意欲が低かったのである)

 

2014年7月ヨ日

 本日発売の『屋上野球 vol.2』には、とみさわの連載「古本三角ベース」第2回が掲載されている。この連載の話が来たのは「ナビブラ神保町」で「古本珍生相談」の連載が決まったのとほぼ同時のタイミングで、こりゃ忙しくなるぞー! と思ったけれど、『屋上野球』は月刊どころか季刊ですらなく、年2回刊だから、全然ヒマなのだった。

 ちなみに、「古本珍生相談」は略称が「フルチン」になるようにタイトルを付けた。なので『屋上野球』での連載も珍本と野球を絡めた内容にして、うまいこと「チンタマ」とかそういう感じにならないものかと無い知恵を絞ってみたが、うまくいかなかった。毎日そんなことばかり考えて暮らしている52歳です。

屋上野球 Vol.2

屋上野球 Vol.2

  • 編集室 屋上
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2014年7月ボ日

 過日、まついなつきさんがご友人とマニタ書房を来訪。noteにそのときの感想を書いてくださった。

note.com

 一部引用する。

「マニタ書房」に集められている本たちは、現在は大人になったわたしたちが子どもの頃に、図書館や本屋や親や親せきの書棚の前で、え、これなんだろう?と好奇心が赴くままに手に取った、お勉強のためでも、ひまつうぶし(ママ)のためでもない、子ども向けに書かれているわけでもない、少し背伸びして、大人の世界(戦争、人種差別、セックス、コンプレックスなどなど)、またはこの世界の真理や謎(UFO本や未確認生物本、心霊本などなど)に近づく!という興奮のための本。

 そう、ぼくがマニタ書房に並べているのは、まさしく「この世界の真理や謎に近づくという興奮のための本」だ。初訪問にしてマニタの神髄を読み取ってしまう眼力に、心底敬服した。

 

2014年7月ウ日

 世におかしな本はたくさんあり、それらを言い表す言葉も様々だ。トンデモ本、アホアホ本、フールブック……。ぼくも自分の集めている変な本に、いいネーミングをしたいなとは常々思っている。

 どんなバカな内容の本でも、ぼくはそれを愛しているので、それらを「バカ本」とは言いたくない。コラムで取り上げたりするときには暫定的に「珍本」と言ってるけれど、それも実はピンとこなことが多い。

 友人の噺家の三遊亭楽市が、「咄のマクラの中で、道楽者というと聞こえが悪いから趣味人と言うんだ、というのを教わったことがあります。なんでも言いようですね」と言っていた。

 なるほどねえ。語感的には道楽者の方が、より江戸の風を感じるので、自分を指すときは自虐的な意味も含めて道楽者でいい気がするが、他者を呼ぶときは趣味人の方がたしかにセンスがいい。

 ムカエマカスハガ、へんじく……みうらじゅんさんの考えるネーミングは、常に対象を揶揄するニュアンスが含まれているけれど、なぜかイヤな気持ちにならないのは、やっぱりご本人の人柄だったり、作風のせいなんだろうな。あの人の領域にはなかなかたどり着けない。

 珍本とは別に、ぼくは何かを集めた本、特定の情報を追求した本が好きで、見つけるとすぐに買う癖がある。それらの本のことは「何かをアーカイブした本」ということから「アーカイブック」と呼ぶことにしよう。

28 横溝正史の世界と髑髏ベレーと映画のパンフ

2014年6月マ日

 昨年でライター生活30年を迎えたため、12月に新宿のロフトプラスワンで「とみさわ昭仁30周年記念トークライブ〈蒐集100万年〉」を開催した。ぼく自身はそれで十分満足したのだが、DJ急行&セラチェン春山コンビが大阪でもやりましょうと言ってくれて、半年後となる6月に大阪での「蒐集100万年 in ロフトプラスワン・ウエスト」の開催となった。まことにありがたいことである。

 いつものように新幹線で大阪入り。物販用に著書などをたくさん持ち込んだが、急行&春山コンビの尽力で客入りも良く、おかげさまで完売することもできた。

 大阪で一泊し、翌日はレンタカーを借りてのブックオフ巡りだ。ホテルを出発して「東大阪御厨店」「東大阪吉原店」を回り、三重県に入って「三重上野店」。上野ということは伊賀上野、つまり伊賀の里のブックオフである。そして次に向かったのが「滋賀水口店」。そう、甲賀の里のブックオフだ。今回のブックオフ巡りは、伊賀と甲賀という二大忍びの里にあるブックオフをハシゴすることが目的だったのだ。これといった収穫はなかったが、その目的を果たせたので満足度は高い。

 そこから名古屋までクルマを飛ばし、名古屋の支店でクルマを返却。伏見地下街にある(当時。現在は移転)「Biblio Mania」さんを初訪問する。こちらの店主は以前マニタ書房に訪ねて来てくださったことがあり、その際にBiblio Maniaがどんな店かを聞いていたので、いつかは来てみたかったのだ。噂通りの特殊古書店ぶりで、大いに楽しませてもらった。

 

2014年6月ニ日

 山梨県の根津記念館まで「イラストレータ杉本一文が描く 横溝正史の世界」を見に行く。

 横溝正史との最初の出会いは、中学時代に姉が買ってきた『八つ墓村』だ。それまで推理小説といったらポプラ社の「少年探偵団シリーズ」と、同じくドイルの「ホームズ・シリーズ」を数冊読んだ程度だったので、横溝の本気が詰まった『八つ墓村』には度肝を抜かれた。その後、1976年に『犬神家の一族』が映画化され、その大ヒットと連動して横溝の旧作が次々と角川文庫で復刊された。以後、『本陣殺人事件』『獄門島』『悪魔が来たりて笛を吹く』といった代表作はもちろん、それ以外のタイトルも片っ端から買い集めて読んだ。しまいには『真珠郎』や『貸しボート十三号』にまで手を出し、微妙な気持ちになったものだ。まあ、それくらい杉本一文のイラストには馴染んでいるということだ。

▲建物自体がすでに横溝正史の世界のようだ。

 せっかく山梨まで来ているので、当然のごとくブックオフ巡りもしていく。すると、「甲府平和通り店」で『三つ首塔』の旧イラスト版、「20号山梨石和広瀬店」で『悪魔が来たりて笛を吹く』の旧イラスト版を発見した。原則としてマニタ書房では小説を扱わないようにしているが、これも何かの縁だと感じてセドリしておく。

 その後も「甲府下石田店」「田富昭和通り」と回って、最終目的地である「双葉響ヶ丘店」に来てみたら、ちょっと他では見ない感じの外観に驚かされる。

▲左の円筒部分は店舗としては使われていなかった。

 ブックオフは現地まで行かなくても、住所をGoogleマップストリートビューにかければ、どんな建物かは判明する。だから、全リストから順番に試していけば、ピンポイントで珍物件を知ることができ、それを目指して訪問することもできる。でも、それでは今回のような驚きがなくてつまらない。やはりこういう珍物件は先入観を持たずに現地訪問して、その初見でのインパクトを得るのが大切なのだ。

 

2014年6月タ日

 マニタ書房では、一般的に有名なレア本はあまり扱わず、それより「わかる人にはわかる本」を置くようにしている。その象徴的な商品が『リスを捕って売れ!』だったりするわけだが、じゃあ、うちの店に来て『リスを捕って売れ!』を手に取り「なんだこれ? おもしれー!」と思った人がこの本のために財布を開くかというと、それは別の話であって、まず売れることはない。そんなことは百も承知なのだが、根本敬さん言うところの「でもやるんだよ!」精神で、ぼくはこういう本を仕入れ続けている。

 そんなやり方ばかりしているから、商売としてのマニタ書房はほとんど成立していない。開業から2年、いまだ赤字の月の方が多いのにやめずに続けているのは、神保町のこの場所がライター、プランナー、プロコレクターである“とみさわ昭仁”のアンテナショップとして機能しているからだ。

 と、本人は達観しているつもりなんですけれど、それでもごくたまに「おっ、その本をチョイスする? さすが、わかってらっしゃる!」と思わされるお客さんが現れましてね。そういうときは「同志発見!」の喜びで、レジを打ちながらもつい声をかけてしまったりするよ。

 

2014年6月シ日

 松本零士先生の著者近影って、初期のコミックスとかを見ると、無地の黒いベレー帽を被った写真に、(印画紙の?)上からホワイトでドクロ(ジョリー・ロジャー)を描いているものがある。ところが、いつの頃からか落描きではなく、実際にドクロが刺繍されたベレーをかぶっている写真に変わるんだよな。

 あれは先生本人がオーダーメイドで作ったのか? ファンからの贈り物なのか? はたまた奥様の手作りなのか? その経緯が知りたい。

 ……という話をTwitterでつぶやいたら、漫画家の後藤羽矢子さんが「女性アシスタントさんの手作りらしい」と教えてくださった。そのアシさんは松本先生のプロダクションを辞めたあとも、先生がお気に入りの帽子だけは作り続けていたそうで、実にいい話である(※のちに商品化もされたことがある)。

kamashima.com

 

2014年6月ヨ日

 たとえばの話。

 マニタ書房を「営業時間は夜の7時まで」と規定したとする。そして7時が近づいてきて、そろそろ看板を下げようと思っていたところにお客様が来店し、だいたい30分ぐらい滞在されたとしよう。すると、結局7時半まで営業したことになる。

 じゃあ、それを見越して6時半の時点で看板を下げてしまうと、その直後に来たお客さんの目には、7時までやってると言っていたマニタ書房が告知よりも30分早く閉まっているように見えてしまうことになる。

 閉店時刻ちょうどまでは外に看板を出しておき、どのタイミングでお客様が入店しようとも、閉店5分前になったら「蛍の光」を流してアピールするというのは、路面店なら可能なことだろう。しかし、マニタ書房はビルの4階である。1階の階段前に看板が出ているのを見て4階まで上がってきたお客様に「もう閉店の時間なんです」とは言いづらい(何度か言ってしまったこともある)。

 4階の店内に居ながらにして、手元のスイッチで1階の看板が格納されたり、電灯が消えたりするシステムの開発が急がれる。

 

2014年6月ボ日

 天久聖一さんのWeb連載「家庭遺産」に、ぼくの「ブックオフの値札玉」が登録されることになった。実に光栄なことである。

www.asahi.com

 天久さんの仕事はだいたい目を通しているが、いつも感心するのは「もやもやしていた概念を“作品”や“命名”でわかりやすく実体化してくれる」ことだ。それ象徴する企画のひとつが『味写』シリーズであり、ごく普通の人が、ごく普通の日常を、1枚の写真で切り取ったとき、たまさか発生する「おかしみ」を形にしてくれている。そこに付けた「味写」というネーミングも見事だ。

 今回の「家庭遺産」もそれに類するもので、どの家にも当たり前にある、ずっと前から存在していて本人たちは無自覚な──他人にはゴミクズにしか見えないもの──の価値を見い出し、それを「遺産」と認定したことが素晴らしい。そして、認定された本人にとってはとてもおこがましくて、なんともくすぐったいのだった。

 

2014年6月ウ日

 映画のパンフレットの話。

 ぼくは映画を見ていて、いちばん知りたいのは劇中で使用された音楽が「誰のどの曲か」だ。エンドロールで使用曲のクレジットが流れ始めたら必死で目で追うのだけど、それで目当ての曲を特定できた試しは滅多にない。見る気がないエンドロールは遅く長く感じるものだけど、何かを探しているときのエンドロールは早く短く感じるのだ。ぼく自身に英文字を目で追う習慣がないことも影響しているだろう。

 聴き馴染んでいる曲はエンドロールを見るまでもないが、曲だけは知っていてタイトルやアーティストがわからない曲、初めて聴いたがすごく気に入った曲などを特定するのが困難だ。『JOKER』で、あの階段のシーンに使われた曲がゲイリー・グリッターの「Rock and Roll Part II」であることを特定できたときはとても嬉しかった。

 若い頃は映画の情報に飢えていたので、劇場で見た映画のパンフレットはいつも買っていた。が、いつしか買わなくなってしまった。値段の割に情報量が薄いからだ。とくに不満なのが「劇中で流れた曲のクレジットを掲載していない」ことである。そこがいちばん大事なのに!

 人によっては曲情報よりも、キャスティング情報、スタッフ情報が欲しいという場合もあるだろう。撮影時にどのケータリング業社が使われたか知りたいという人もいるかもしれない。

 ともかく、エンドロールで流れる文字情報をそのまま掲載してくれるパンフレットだったら無条件で買うのにな。もしかするとそういうのもあるのかもしれないが、映画のパンフレットは立ち読みができない。必ず載ってるという保証がなければ、そんなもの怖くて買えないよ。

27 尾崎と竹中直人とブッコロールシャツ

2014年5月マ日

 朝イチから八王子まで出かけて、駅の北口、西放射通りユーロードで展開されている古本まつりを見てきた。ここは自分と相性のいい古書市で、いつ来ても何らかの収穫があるのだが、今日は2時間くらいかけてじっくりワゴンを見て回ったが、これといって欲しい本がなかった。そんな日もある。

 ところで、途中、ある古書店が出しているワゴンのうち、およそ半分くらいがすべて尾崎豊に関する本で占められている光景を見た。おそらく熱狂的な尾崎マニアが、ある日ぱたりと熱が冷めてしまったのか、あるいは病気か何かでこの世を去ってしまったのか、その理由は定かではないが、蔵書を処分することになったのだろう。

▲ぼく自身は尾崎は聴かないけど、ロマンポルシェ。の『盗んだバイクで天城越え』は愛聴盤です。

 これは古書市あるあるのひとつで、特別珍しいことではない。過去にも、ブックオフ勝目梓西村寿行の作品がどっさり放出されているという、どえらく濃厚な棚を見たことがある。マッチ(近藤真彦) の切り抜きがびっしりスクラップされたクリアファイルが売られているのを見たときは、大人の階段を登ったのであろう売り主の少女の姿を想像して、微笑ましい気持ちになったものだ。

西村寿行大藪春彦はほぼ全作を読破したけど、勝目梓はちょっとエロっぽすぎて読んでません。

 

2014年5月ニ日

 2000年生まれの娘(つまり、いま14歳)から「おとうさん〈オリコン〉って何? アルバムチャートって何?」と訊かれて、答えに詰まった。

 いや、ぼくの子なのでプレイヤーでレコードを再生しているところは何度も見ているから、アナログレコードというものを知らないわけではない。けれど、レコードセールスとチャートの概念を、いまの時代の子供に説明するのは難しい。音楽情報サイトとしての「オリコン」はいまもあるが、いまどきの音楽好きで、ナタリーではなくわざわざオリコンを見に行く人間はどれほどいるだろう? 

 そもそも「アルバム」という概念すらよくわかっていなかったようで、「アルバムというのはだいたい12曲~15曲ぐらい入っていてね……」と説明したら、「そんなに!」と驚かれた。

 

2014年5月タ日

 今日はマニタ書房の営業は休みにしているが、雑用がいろいろあるのでドアを閉め切って室内で作業に勤しむ。仕入れておいた古本をクリーニングしたり、値付けをしたり、帳簿をつけたり。フリーライター業でも、締め切りが近い原稿の資料を揃えたり、下書きをしたり、請求書を作成したりと、なんだかんだでやるべきことは多い。

 ひとしきり作業を終えたあと、休憩がてら松永豊和の『バクネヤング』を読んでいたら、突然、知らない人がいきなりドア開けて「ここ、どんな本を扱ってるんですか?」と言いながら入ってきた。

 1階に看板を出しておらず、階段の電気も消していたのに、まったく頓着せずに4階まで上がって来て、ノックもしないでいきなりドアを開けるって、どういうことかしら?

 でも、こんなことは初めてじゃない。店を始めてかれこれ2年。これまでにも、営業中を示す看板を出していないのに4階まで上がってきて、店のドアが閉まっている(普段は掛けている「営業中」の札も掛かっていない)にもかかわらず、ドアを開けようとするお客さんは度々やってきた。まあ、そんな場合でも時間に余裕があるときは「15分程度であればどうぞ」といって招き入れてきた。

 ぼくにとって、マニタ書房は店舗であると同時に、自分の仕事場──つまりプライベートスペースでもあるが、お客様からしたら出入り自由な古本屋、という認識の違いがあるのだろう。それは無理もない。この温度差の違いをどうするかは、今後の課題だと言える。

 

2014年5月シ日

 竹中直人は『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」に出てきたときから見ていて、大好きなコメディアンの一人である。1984年にはラジカル・ガジベリビンバ・システムの前身であるドラマンスの舞台公演『かわったかたちのいし』も見に行った。

 竹中さん本人は多摩美在学中から映像演出研究会に属し、コメディアンとして芸能界デビュー後も俳優座で役者の道を目指していたほどに映画・演劇が好きな人で、自身が監督を務めた映画『無能の人』と『119』をぼくはとても高く評価している。

 ……のだが、いつしか竹中直人は邦画界において、なんだかウザい存在となってしまった。本来はしっかりとした芝居のできる人だと思うのだが、映画に竹中さんが出てくると、ほぼいつも過剰な道化の役回りを演じていて、ああウザい! と感じてしまうのだ。

 どうしてそうなってしまうのか? それは、本来そういう道化を必要としていないような映画にも出させてしまうからだと思うのだ。『スウィングガールズ』の竹中直人とか、あきらかに要らない役でしょう? あの人のいい意味での破壊力を、ああいう映画の中で安売りしてはいけないよ。

 竹中直人は、かつての『喜劇駅前シリーズ』とか『日本一の○○男シリーズ』のように、何かハマり役を設けてあげれば、日本映画史に残る喜劇役者になるような気がする。竹中さんは『若大将シリーズ』なんかも大好きな人だから、そういう企画をだれか持ちかけてあげればいいのに。

 

2014年5月ヨ日

 神奈川の未踏のブックオフ巡りのついでに、港南台にあるリサイクル書店「ぽんぽん船」に来た。ここは、ブックオフの創業者である坂本孝さんが、この店を見てブックオフの業態を思いついたという、由緒ある古本屋だ。だから、いつかは来なければいけないと思っていた。ブックオフマニアにとっての聖地なのである。

 店内をひと通り見て回り、なるほどと思ったブックオフとの共通点を挙げておく。

 

 ①古書店にしては広くてきれい。

 ②商品もきれいな古本しか置いていない。

 ③値段はだいたい定価の半額と100円均一のものに分かれている。

 ④比率的には圧倒的に100円均一の量が結構多い。

 

 だいたいこんな感じ。店の外観はとくにブッコロール(赤青黄のブックオフトリコロールのこと)に塗られていたりはしなかった。それはまあ当然のことである。

 帰りは、友人と待ち合わせていて稲田堤の天国酒場「たぬきや」に顔を出す。そこで飲んでいたら、居合わせたお客さんの中にすごく気になるシャツを着ている人がいた。勇気を出して話しかけ、顔は出さないという条件付きで写真を撮らせてもらった。

 

▲白いワイシャツの袖が赤青黄のブッコロールという、たまらんデザイン!

 いいなー、ぼくもそんなシャツ着たいなー、と無邪気に褒め称えていたら、そのお客さん曰く、「これ一応ブランドものなので、洒落で買うには高いんですよね」と笑っていた。

26 消費税とメキシコ麻薬戦争とナスカジャン

2014年4月マ日

 本日より消費税が5%から8%になった。まったく困ったもんだ。消費者としても、商店経営者としても、腹立たしいったらありゃしない。とはいえ、実際のところマニタ書房には関係なかったりする。なぜなら、うちは増税前も増税後も、一切、消費税をいただいていないからだ。

 そもそもの話が古本屋というのは、105円なりで仕入れてきた本に、安ければ300円、ものによっては3,000円といったザックリした値段を付けて販売する。つまり言い値──店主の腹積り次第での商売だ。それなのに、わざわざ御上の言いなりで消費税なんか乗せてどうするというのだ。消費税が5%から8%になったからといって、3,000円に値付けしてある本を今日から3,240円に書き換えるというのか? バカバカしい!

 消費税法のことはよくわからない。でも、客から消費税を取っておいて、それを申告しないのならば法に反するだろう。だけど、こちらはハナから消費税を取るつもりがない。なんなら、毎年の確定申告で、その分の損をコイてるのではないか。とにかく、そんな緻密な金勘定ができるくらいだったら、もとより古本屋になどなっていないし、フリーライターにもなっていない。

 

2014年4月ニ日

 今日は埼玉から栃木にかけてのブックオフ仕入れツアーである。何軒目かに訪れたブックオフで、店員さんが本棚に掲げられた「105円」のプレートを「100円(+税)」というものに付け替えていた。

 なるほどね。消費税が上がったら「105円」のプレートは「108円」に変わるのかと思っていたが、「100円(+税)」としておけば、今後消費税が9%になっても10%になっても15%になっても、ずっと同じプレートが使えるというわけだ。こりゃ安心だね……って安心じゃねえよバカヤロウ!

 それはともかく、取り外した「105円」のプレートはどうするんだろうか。どう考えても必要ないものだから、やっぱり廃棄するんだろうか? どうせ廃棄するなら1枚くらい欲しいなあ。

 というわけで、店員さんに「ぼくはブックオフの大ファンなんですけど、その105円のプレート、捨てるなら記念に1枚もらえませんかね?」と訊いてみた。ところが「いま店長がいないので……」と断わられてしまった。あら残念。でも、仮に店長さんがいたとしても、今度は「本部に問い合わせてみないと……」ってなる可能性もあるわけで、相手はチェーン店だからこればかりは仕方ないね。

 

2014年4月タ日

『赤パン先生/安永知澄』全4巻を一気に読了。「コミックビーム」での連載時から飛び飛びに読んでいたのだけど、一気に通して読むとまた素晴らしい。自分が女の子だったことはないのに「ああ、女の子ってこういう感じだよなあ」という発見がたくさんある。この切なくも優しい感情に満ちた物語のタイトルに「赤パン」なんてワードを持ってくるセンスにも感心。傑作なのでみんなも読むといいです。

 

2014年4月シ日

 先日、せんべろ古本トリオ(安田理央柳下毅一郎)で茨城ツアーをしてきた。朝イチで上野の酒場に集合して一杯ひっかけ、常磐線で一気に土浦へ向かう。パチンコ屋の居抜きに地元の古書店が数軒集合して運営している「つちうら古書倶楽部」を訪ね、そのあと南下して龍ヶ崎リブラの古書モールと、古本マニアならみんな知っている大型古書店をハシゴ。さらに取手、柏、松戸を回って解散というコース。いつもながらの楽しい旅となった。

 道中、柳下さんが移動の合間に『メキシコ麻薬戦争:アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱/ヨアン・グリロ著、山本昭代訳』を読んでいて、これが非常におもしろそうだったので、さっそく自分でも買って来た。

 ところで、本の中身とは関係ないんだけど、この本はカバーがおもしろいことになっている。

 ビニールコーティングされたカバーの上に、あとから「メキシコ麻薬戦争」というタイトルを印刷してあるのだけど、インクの定着が弱いのか、文字がポロポロと剥がれやすいのだ。実際、カバーをかけたまま持ち歩いていた柳下さんの本は、バッグの中で擦れてタイトルが半分くらい剥がれていた。

 ぼくは本を読むときはカバーを外して、書店でもらった書皮(ブックカバー)だけをかけて読むようにしているから、タイトル文字が剥がれることはないだろう。でも、柳下さんのようにカバーをかけたまま読む人は世の中にはけっこういるはず。ということは、数年後に古本屋でこの本を探すと、いろんな文字の剥がれ方をした『メキシコ麻薬戦争』が見つかるのではないか。それを集めたらおもしろいんじゃないかなー? なーんてことを考えた。まあ、やんないけど。

 

2014年4月ヨ日

 東中野にあるハードコアチョコレートが経営する酒場「バレンタイン」にて、代表のMUNEさんと秘密の相談。これが形になったらみんな驚くだろう。

 ……と、当時はこの程度(↑)しかSNSには書けなかったが、この日記を改めて清書しているいま(2024年4月)なら、その内容を書ける。この日、ぼくが考案した「ナスカジャン」をコアチョコとのコラボで作れないかと相談しているのだった。

 そして、その相談はMUNEさんの即断で決定。しかも、ちょうどこのときは学研『ムー』とのコラボでコアチョコが作った「ムーTシャツ」がバカ売れしていたタイミングでもあった。そこでコアチョコ、ムー、マニタ書房によるトリプルネームでの制作までが決まってしまった。

 結局、ナスカジャンはビッグヒットになり、いまだに新色をリリースするコアチョコの定番アイテムとなってくれた。すべては毎年オーダーしてくれる皆さんのおかげである。

 

2014年4月ボ日

 古本屋稼業も2年目に入ったとは言え、まだまだ慣れないことばかり。なかでもいまだに戸惑うのは、店に顔も名前も知らない他人が無言で入ってくることだ。商店ならそんなの当たり前のことなんだけど、マニタ書房は自分の書斎という意識も半分あるから、どうしても異物混入の感情が消せないのだろう。

 古本屋として店番をしながら原稿書くのは、不意の来客で集中力が途切れるが、ゲラを見る作業だけは相性がいいように思える。この感覚はうまく言えない。ゲラは「事務」って感じなのだろうか。あるいは、執筆業にともなう様々な工程の中でゲラはとくに嬉しい作業だから、その高揚感が他者に対して優しい気持ちにさせるのかもしれない。原稿など書かずに、ずーっとゲラだけ見て暮らせればいいのにな。

25 山川惣治とピンカデリックとプリングルスの筒

2014年3月マ日

 荒井由実の名曲に『海をみていた午後』がある。この歌詞の中に「山手のドルフィン」という店が出てくるが、これは架空の場所ではなく、神奈川県の山手と根岸の間に実在するレストランだ。中川右介の『角川映画』を読んでいたら、そのドルフィンのオーナーが山川惣治だという記述があって飲んでいたお茶を吹きそうになった。そう、あの『少年ケニア』の山川惣治である。

 紙芝居作家だった山川は『少年タイガー』を大ヒットさせたあと、同じく紙芝居だった『少年王者』を集英社から単行本として刊行した。その大ヒットが集英社の漫画出版事業の基礎を築いたとされている。一時は長者番付で画家部門の1位になったこともある山川だが、漫画ブームの波に押されて時代遅れの絵物語は衰退。山川は絵描きとしての第一線から身を引き、山手に「ドルフィン」を開業したという。

 ぼくは山川の代表作『ノックアウトQ』や『少年ケニヤ』に親しんだ世代ではないが、80年代にはいくつかのカルチャー誌で山川惣治特集が組まれるなどして再評価の動きがあり、それらの記事で存在を知った。いや、それにしても『少年ケニヤ』の世界とユーミンのハイソな世界が繋がっているとは、まったく思い寄らなかったな。

 

2014年3月ニ日

 両国のRRRにて開催中の根本敬さんのレコジャケ展。会期終わりのギリギリに滑り込みで見に行ったら、まだこんな素晴らしい絵が残っていたので、すかさずお買い上げさせてもらった。ファンカデリック meet's ぴんからトリオで、ピンカデリック。

 これまでにアーティストの絵(原画)を買ったのは4人だけ。とりいかずよししりあがり寿横山裕一、そして根本敬。我ながらいい趣味してるなあと思う。

画像

 

2014年3月タ日

 うちの店の壁面本棚は、上の空間が空いている。まあ、そこにも本を並べるとか、在庫を置くとかすればいいのだけど、なんだかそれではありきたりすぎておもしろくない。そこで、仕事しながらちょこちょこ食べているプリングルス(舶来の成形ポテトチップス)の空き缶を並べておいたら、カラフルで、バカみたいで、いいのではないかと思った。空っぽの筒でしかないけれど、ひとつ10円とか値段を付けておいたら物好きが買ってくれるかもしれない。

 マニタ書房の近所にはヴィレッジヴァンガード(通称ビレバン)があり、あそこは日本のOEM生産ではない、本家の製品を海外から取り寄せた珍奇なフレーバーのプリングルスがたくさん取り揃えてある。それらの筒が本棚の上にガチャガチャと並んでいたら楽しいじゃないか!

 ……と思ったのだが、自分はスナック菓子はプレーンな塩味しか好きじゃないし、そもそも空のプリングルスの筒を売るって意味わかんなすぎる……と、我に返った。

 日々、狂気と正気のスレスレを彷徨いながら商売をしています。

 

2014年3月シ日

 しかし、極力現実を直視しないようにして営業を続けてきたけれど、確定申告のために領収書と売上げ台帳を付き合わせてみると、笑ってしまうほど赤字だなあ。もうちょい真面目に商売しないとこりゃあかん。

 

2014年3月ヨ日

 自分はかれこれ30年ほどレコードコレクターをやってきて、かなりの数の珍盤を集めているが、実は所有しているレコードのうち半分も針を落としたことがない。アーティストの風貌やジャケットやタイトルや歌詞に惹かれて買うわけだけど、買った時点で満足してしまうから、針を落とさずにそのままレコード箱に入れてしまうということが案外と多いのだ。古本マニアにとっての積ん読と同じようなもんですね。

 でも、これからは積極的にコレクションに針を落とし、どんどん聴いていかなければ、と思った。なぜそんなことを思ったかというと、いま食事している店の有線で安岡力也の『ホタテのロックンロール』がかかっていて、これが予想外にいい曲だったから。持ってるんだから、もっと早く聴いておけばよかったー!

 

2014年3月ボ日

 さて、明日からまたいろんな仕事が交錯するので、それに備えて今日はとっとと寝ることにする。ライター稼業を30年やってきて、こんなに仕事が楽しい&嬉しいのは、この3年くらいが初めてのこと。

 いまはマニタ書房という古本屋稼業を筆頭に好きな仕事しかやっていないし、依頼される原稿も好きなことしか書いていないから、とても幸福。これで収入が3倍くらいになれば言うことないんだけど、世の中そうはうまくいかないもんだなー。

24 BRUTUSと煙突写真と釣り人の群衆

2014年2月マ日

 今月1日発売のBRUTUS』は「手放す時代のコレクター特集」。企画段階から協力していて、ぼく自身もエッセイも寄稿しています。どのようなコレクション遍歴を経て「エアコレクター」の境地に辿り着いたのか? そんな感じの話を書きました。

 どういう台割で掲載されるのかと思ったら、世界的アートコレクターのドロシーさんと、膨大な蔵書を持つことで知られる立花隆さんの記事の間に挟まっていて、たいへん恐縮です。

 ドロシーさんのコレクションは映画にもなっているので、興味のある人は『ハーブ&ドロシー』を見てほしい。

 

2014年2月ニ日

 レギュラー執筆陣に入れてもらっている雑誌『フリースタイル』。ぼくが書き始めたのは19号からなので、以後は毎号送ってもらっているが、そうなると18号以前も揃えたくなるのが性分だ。以来、古本屋巡りでの仕入れ業務ついでに、見つけた号をコツコツ集めている。今日は神保町三省堂裏にある古書モールで「5号」を見つけた。この「ときどき見つかる感じ」のゲームバランスがとてもいい。これで残すは4、6、7号となった。

 同様に『本の雑誌』も集めたいところだが、こちらは現時点で340冊以上あるし、もう初期の号をバラでコツコツ集めるのは不可能だろうなあ。

 

2014年2月タ日

 夕方。ピアノ教室に行く娘と歩きながら「才能」について話す。

 才能の有る無しとは、技術的な「上手さ」「下手さ」のことではない。娘は暇さえあれば絵を描いている。上手いかどうかじゃない。なんのノルマもないのに能動的に絵を描きたくなる衝動こそを才能という。

 一方、ピアノはどうだ? お教室がある日は弾くし、発表会が近づいてくれば弾く。でも、それ以外の日に弾いているところをお父さんは見たことがない。だから、残酷なことを言うようだけれど、お前にピアノの才能はないのだ。

「じゃあ、お父さんにギターの才能はある?」

 まったくございません! 酔っぱらいの才能ならあるんだけどなあ。

 

2014年2月シ日

 一日の仕事を終えて、四谷三丁目にあるスナックアーバンへ。一人カウンターで飲むつもりで行ったら、背後のテーブル席にデザイナーの井上則人シャチョーが先客でいた。同席していた人物を紹介され、いただいた名刺を見て仰天。 かつて超芸術トマソンで麻布の煙突のてっぺんに立って自画撮りをした命知らずの写真家、飯村昭彦さんだったのだ。20代にあの写真を見たときの戦慄はいまでも忘れられない。

 

2014年2月ヨ日

 規格化された商品はこの世のどこかで誰かが必ず集めている。

 

2014年2月ボ日

 2月の下旬に3日間かけて鹿児島から宮崎のブックオフ仕入れツアーに行ってきた。今回、入手した本の中でもっとも笑ったのは『川づり』。単に魚釣りのハウツー本だから古書的な価値はないに等しいのだが、なにしろ表紙がいい。

 川での釣りって、静か~にやるものじゃないですか。水面に釣り人の影が写っただけでも魚は逃げてしまうと言うよね。……それがこれですよ。

 釣り人、なんでこんなにたくさんいるのよ!



 

23 山田風太郎と廃盤ビデオと万引きコーナー

2014年1月マ日

 新年早々、早朝から公園にシケモクを拾いに行こうとする老いた父を引き止める。ヨボヨボのくせに握力だけはあって、つかまれた手の皮膚が裂けて出血した。

 いまのところトイレも風呂も一人で済ませられるので、肉体的にはそれほど家族の手を煩わせているわけではないが、脳の方が少々弱ってきていて、感情のコントロールがおぼつかない。

 十数年前に脳梗塞で倒れてから、大好きだったタバコをやめさせた。血管を守るためでもあるが、何より寝タバコが怖い。枕元は焼け焦げだらけだった。小遣いを持たせていないのでタバコを買うことはできず、表面的にはタバコをやめたことになっているが、近所の公園でシケモクを拾ってきては、家族に隠れてこっそり吸っているのだ。誰が吸ったのかもわからない吸い殻など、不衛生で仕方がない。

 タバコと同様に酒もやめて欲しいのだが、ぼくにそれを言う権利はない。母と姉が何度も言ったがやめられず、夕食のときにコップ一杯だけの焼酎を飲むことを許可した。父はそれを大事に大事に飲んでいるが、実はその焼酎は母が水で半分に薄めたやつだ。

 現在83歳。あと何年生きてくれるだろうか。ぼくが妻子を連れて松戸の実家に戻ったとき、父、母、姉、自分、妻、娘で6人家族になった。これ以上増える可能性は低く、むしろ3年前に妻が亡くなったことで5人に減った。これから先は減っていく一方なのだろう。出版界も先細り、古本業界も先細り、スクスク育つ娘以外は、先の見えない毎日である。

 

2014年1月ニ日

 昔から正月らしい行事に対する関心が薄く、家にいても退屈なので神保町へ出勤する。といっても店を開けるわけではなく、看板を出さず事務所に籠ってひたすら原稿を書く。

 昨年はとくに目標を立てなかったせいか、けっこうグダグダに過ごしてしまった。念願の古本屋を開業できた安心感というか、自分の居場所のようなものができたことで気が緩んだのかもしれない。

 現在、ぼくの仕事には「原稿執筆」「イベント出演」「古本屋」という3本の柱があるが、イベントは8本しか出られなかったし、古本屋にいたっては年間100日も営業できていないのではないか。これではイカンと、さすがに反省している。

 ただ、店を休みがちになった背景には、昨年の夏頃から原稿依頼が増えてきて、思いのほか忙しくなってしまったことが影響している。これはとてもありがたいことだ。いまはまだ自分一人の仕事場(古書店)にいきなり他人(お客様)が入ってくることに慣れておらず、原稿の締めきりに追われているときはそれだけに集中したくて店を閉めてしまう。今年は、なんとかお客様を受け入れつつ、原稿にも集中できるような胆力を身につけたいものだ。目標は営業日数200日!

 

2014年1月タ日

 ちょっと変わった仕事が入ってきた。パチンコ関連のある会社が、山田風太郎の名作群の中でもとくに有名な作品の使用権を取得したので、それを原作としたアニメを作ることになった。そこで、その脚本のベースとなるプロットを作ってくれないか? という依頼。

 ゲームじゃなくて、アニメのプロット? それをぼくが?

 アニメの脚本なんて書いたこともないし、そもそもアニメを見る習慣がない。とはいえ、漫画の原作ならやったことがあるし、ゲームのシナリオはいくつも書いてきた。そのためのプロット作りも知っている。まったく無理な仕事ではないだろう。それに先方はとりあえず「プロットを」と言っているから、まずは原作小説を読み返して物語の要点を抜き出すことから始めてみようか。

 それでプロットを立て、正式にプロジェクトにGOサインが出たら、脚本はぼくが書くのではなく、専門の脚本家に振ってもいい。たとえば佐藤大くんなら、この仕事をおもしろがってくれるかもしれない。

 ※というようなことを考え、以後、数回打ち合わせを重ねて、ぼくの出したプロットもいい感触を得ていたのだけど、結局、クライアントの都合でこのプロジェクトはバラシになったのだった。

 

2014年1月シ日

 HIGH BARN VIDEOの方が委託販売を申し込みにご来店。HIGH BARN VIDEOというのは、廃盤となったカルト映画をDVDで復刻し、いかにもレンタル落ちしたような古びたパッケージデザインを施してリリースする、ちょっと変わったビデオレーベルだ。廃盤ビデオでHIGH BARN VIDEO。なかなかうまいネーミングだと思う。

 第一期のリリースが『アタック・オブ・ビーストクリーチャー』と『グラインドハウス予告編集 vol.1』というグッとくるラインナップで、それぞれ数本ずつ引き受けることにする。ただし、委託にすると精算が面倒なので、7掛けで買い取ってしまうことにした。売れ残ったら自己責任。

 本当はマニタ書房も中野の「タコシェ」や大阪の「シカク」のように、マニタ的なミニコミや自主制作物を委託で並べたら店のイメージアップにつながると思うのだが、なにしろ店主(ぼく)が大の数字嫌いなので、それは無理な相談。あくまでも「仕入れたもの」の原価に「店の経費」と「多少の利益」を乗せて売る、そういうシンプルなやり方しかできないし、するつもりもないのだ。

 

2014年1月ヨ日

 古本屋に万引きはつきものだが、幸いなことにマニタ書房ではいまのところ万引きは発生していない(ぼくが気づいていないだけかもしれないけどね)。どこの古本屋の店主も万引きには苦慮していることと思うが、ちょっといいことを思いついた。万引きに関することを扱った本ばかりを集めて、店の取り扱いジャンルのひとつに「万引き」というコーナーを作るのだ。

 すでに「犯罪・事件」というコーナーはあるが、それとは別に「万引き」だけの仕切り版を作る。すると、万引き目的で店に来た奴が、墨痕鮮やかに書かれた「万引き」の仕切り版を見て怯むのではないか。この店の店主は万引きに目を光らせている! というサイン。そんなのものを目にしてなお万引きできる奴は余程の大物だ。

 いや、万引き本をまとめてコーナーにしてしまうと、効果が薄れるかもしれない。それよりも、あえてまとめることをせず、全然別のコーナーにさりげなく万引きの本を混ぜておいた方が、下心のある人間へのショックドクトリンとなるかもしれない。これは今日からさっそく実践してみよう。

 

2014年1月ボ日

 このところずっと幕末史を勉強している(※この時点ではまだ例の山田風太郎のアニメ化の仕事をしていたので)。幕末なんてまったく興味がなくて無知同然だったのだが、少しずつ理解が深まるにつれてどんどんおもしろくなってきた。

 かつて、野球にまったく興味のなかったぼくが、野球カード蒐集のために野球というものを勉強したら、目の前に「野球マンガ」という娯楽の大海が現れた。これまでスルーしていた『ドカベン』『あぶさん』『野球狂の詩』が一気に輝き始めた。

 そのときと同じように、仕事の必要に駆られて幕末史を勉強したら、同じく「幕末」という鉱脈が現れた。日々、セドリのために通う古書店巡りや古本市の探訪に、幕末本を探す喜びも加味されて2倍楽しくなったのである。人生いつまでも勉強だ。