44 古本トリオと食べ放題と神田古本まつり

2015年10月マ日
 安田理央柳下毅一郎と組んでいるせんべろ古本トリオで、小田急線ツアーに出かける。新宿ブックオフからスタートし、代々木上原ロス・パペロテス、下北沢古書ビビビ、その他豪徳寺、経堂、向ヶ丘遊園など順繰りにたどっていって、ラストは町田の柿島屋で打ち上げ。今回もいい本がたくさん買えた。

▲秘境ガーナの出産シーンをバックに着衣巨乳について激論する安田&柳下。

2015年10月ニ日
 あまりにも暇なので「何が食べ放題だったらうれしいか?」を考えている。
 好物のケンタッキーフライドチキンは2ピースも食べればそれで十分だし、大好物の永福町大勝軒のラーメンは一人前がすでに食べ放題みたいな量だし、これといっていいのが思いつかない。
 結論、少食人間にとって食べ放題なんてものは全然うれしくないのだった。

 

2015年10月タ日
 毎年恒例、神保町の「神田古本まつり」であります。マニタ書房は古書組合の加盟店ではないので直接まつりに関わることはないのだけど、便乗して期間中は毎日営業しようと思う。

▲雨天に見舞われることの多い古本まつりも、今年は晴天に恵まれました。

 とか言っていたら、今日、店を開けて5分と経たないうちにお客様が来られた。これはやっぱり古本まつり効果なのだろう。
 商品の品出しをしたり、原稿を書いたりしながら一日中店にいると、次から次へとひっきりなしにお客様が来る。しかし、その大半は何も買っていかない、つまり冷やかしさんなわけで、つまりマニタ書房はほぼ固定客で成り立っているんだなあ、というのを痛感する。

43 スカイツリーソングと店内撮影と本屋へ行こう‼︎

2015年9月マ日
 定期的に銀座・山野楽器の演歌売り場や、浅草・ヨーロー堂へ行って新譜チェックをする。これといって演歌が好きなわけでもない自分がなぜそんなところに行くかといえば、こういうCDを買うためだ。

 昔から日本人は新しい何かができたり、大規模な流行があったりすると、いつもそれをレコードにしてきた。東京タワーもオリンピックも、首都高速も新幹線も、パンダもエリマキトカゲも、みんなレコードになっている。それはCDの時代になっても変わらない。
 2012年にスカイツリーが完成した。「こりゃCDが出るな?」と睨んだぼくは、スカイツリーソングを集めるために都内のCDショップを巡回している。そして、そういう曲というのはだいたい演歌か音頭なので、上記したような店に行くと効率良く発見できるというわけだ。

 

2015年9月ニ日
 マニタ書房というか、とみさわ昭仁事務所としては1日あたりだいたいこれくらいの売上げがあれば生きていける……という目標額がある。ここで言う「売上げ」というのはマニタ書房の売上げだけでなく、その日に書いた原稿料との合計で達成できればOKだということ。だから店を休んだり、あるいは店を開けたのに売上げがゼロだったとしても、そのぶん原稿をたくさん書いて1日の売り上げ目標を達成できれば、とみさわ昭仁事務所的には問題ない。
 逆に、店を開けた途端にお客さんが続々来て、いきなりけっこうな額の売上げがあり、午前中に1日の目標額を達成したとすると、そのあとに書く原稿は余剰の儲けをゴンゴン生み出している感じがするので、とても気分は晴れやかだ。
 そう、今日こそまさにそういう日なのだった。

 

2015年9月タ日
 ときどきお客様から「あのぉ、店内の写真撮ってもいいですか?」と恐る恐る聞かれることががある。古書店に限らず、たいがいの店は店内撮影禁止ということが多いので、小声になる気持ちはわかる。
 でも、マニタ書房は店内撮影はまったく問題ナシ!! 気になる本があったら手に取って写真に撮り、「こんな変な本があったよ〜」と、どんどんSNSで拡散してほしい。その際には「神保町のマニタ書房で」と書いておくのもお忘れなく!

 

2015年9月シ日
 気がつけば、いま店内に三組ものお客様がいる。いつも閑古鳥が鳴いているマニタ書房にしては珍しいこともあるもんだ。

 

2015年9月ヨ日
 9月24日発売の『本屋へ行こう‼︎』(洋泉社ムック)に、先日マニタ書房の店内で収録・撮影した吉田豪さんとの対談が掲載されている。表紙は多部未華子さん。いつかマニタ書房にも来てくれないかな。
 豪さんとの対談、自分に都合のいいことをゲラで真っ赤に書き入れて、あとで「とみさわさんはいっぱい修正してましたよ!」と暴露されるのもおいしいのではないかと思ったが、古本屋って楽しいよね〜という話をしているだけなので、ほとんど訂正の赤を入れることはなかった。
 それより、校了したあとで「うちのタレント本コーナーを豪さんに評価してもらう」っていう企画を思いついたが、後の祭り。豪さんに「品揃えが全然ぬるいですよ、ダハハハ!」って言われたら、それはそれでまたおいしいよなあとも思った。

42 床寝りと5年後の味と鹿児島ツアーと

2015年8月マ日
 店に出勤したが、あまりの暑さで仕事をする気力が出ないので、とりあえず店の床で横になる。お客さんが階段を上がってくる足音が聞こえたら飛び起きられるよう、入口ドアの前で寝っ転がってるが、この状態で寝落ちしたら入ってきたお客さんはビックリよね。

▲パンチカーペットは案外寝れる。

 

2015年8月ニ日
 マニタ書房ではなく、ライター業の話。
 自分はいま幸福なことに一次創作の機会を与えられているんだから、周りの声や評判に左右されず、いま自分にできることを全力でやるべきなのだ。評価は後からついてくる。
 それに、発表直後の評価は意味がない。5年後、10年後、あるいは100年後にどう評価されているかが大事。だから自分が生きているうちに酷評されようとも、そんなことは知ったこっちゃないと、口笛を吹いて前へ進もう。
 ぼくは昔から「これは5年後にいい味が出る」とか「10年続けたらおもしろくなる」とか、そういうふうに物事を見てきたので、そんなぼくがいま古本屋(古物商)をやっているというのは、我ながらおもしろい終着点だと思う。そして作家としての自分も、そういう物の見方に耐えられるような活動をしていきたい。

 

2015年8月タ日
 錦織圭選手(の名前)を見ていて、これを「にしきおり」でなく「にしこり」と読むのは、Maneater(マンイーター)を「マニタ」と読ませるのと同じだなあと思った。

 

2015年8月シ日
 8月17日から20日まで娘と一緒に鹿児島ブックオフ仕入れツアーをやってきた。娘と一緒なのは、中学卒業と共に鹿児島へ引っ越してしまった親友に会わせるため、夏休みを利用して同行させたのだ。
 収穫だけを要約すると、回ったブックオフは「鹿児島国分店」「鹿児島加治木店」「鹿児島天文館店」「鹿児島串木野店」「川内店」「鹿児島出水店」「熊本水俣店」「鹿児島大口店」「鹿児島荒田店」「鹿児島唐湊店」「鹿児島ジョイプラザ店」「鹿児島中山バイパス店」「鹿屋寿店」の13軒で、仕入れた本は合計29冊。
 仕入れ旅としては少なすぎる結果だが、まあ今回は娘の思い出作りの側面が大きかったので、これでヨシとしよう。

ブックオフ鹿児島出水店。

 

2015年8月ヨ日
 ツアーの最終日は、鹿児島県薩摩半島の南端にある指宿(いぶすき)に来た。何をしにこんなところへ来たのかというと、それは幻の珍盤『イッシー音頭』を探すためである。
 こういうものは都内の中古番屋にはまず出てこないが、地元(この場合は鹿児島県指宿市)の古道具屋などをこまめに回れば、意外にあっさり出てくるのではないか? そう思って旅行ついでに指宿にも立ち寄ったのだが、あいにく古道具屋巡りまでしている時間はなく、池田湖周辺の土産物屋を回ることくらいしかできなかった。
 しかし、池田湖畔の土産物屋にはどこにでもあるような茶碗だの置物ばかりで、レコードはおろかイッシーグッズすら売ってない! 薩摩黒豚をキャラ化したアーモンドクッキーなんか売る暇あったら、イッシーせんべいとか作ればいいのに……。

▲後にある人物の好意で入手は果たした。

 ちなみに、今回の鹿児島&熊本ツアーで13軒のブックオフを踏破したことにより、総訪問支店数は486となつた。県単位で制覇したのは岩手、群馬、茨城、埼玉、千葉、東京、石川、山梨、宮崎、鹿児島、沖縄の1都9県である。

 

2015年8月ボ日
 江戸川区の松江図書館より講演会の依頼。何を話すかあれこれ考えた挙句、「出張!古本“珍生”相談 ~本の数だけ人生はある~」と題して、ナビブラ神保町で連載中の「古本“珍生”相談」をライブでやることにした。
 もちろん、その現場で相談を投げかけてもらい、それに古本で即答するのは物理的に不可能なので、事前に募集しておいたご相談に適した古本を選出し、その解説をライブで行なうという趣向である。
 結局、30名限定の会場はほぼ満席で、ご来場のお客様方にも楽しんでいただけたようで何よりだった。

 

2015年8月ウ日
 鹿児島ツアーで仕入れ、現地から宅配便で発送しておいた本が到着したので、朝からドバドバと品出しをする。これにともない、レジ下の棚に新入荷の本を置くコーナーを作る。

41 小島ファミ隆とマネジメントと1万円

2015年7月マ日
 青山某所。元『月刊ログイン』編集長、『ファミコン通信』編集長として活躍された小島文隆さんがご逝去され、そのお別れ会に出席してきた。会場にはぼくが『ファミコン通信』で連載していたときお世話になった編集スタッフの方々はもちろん、塚本慶一郎さんや古川亨さんといった日本のPC界のレジェンド級の方々も顔を見せていた。
 お別れ会のタイトルが「いぁ〜んずっとバカンス」というのが、雑誌はなくなっても未だログインニズムは生きているのだなあと感慨深かった。

▲ぼくも一度だけ「いぁ〜んバカンス」には参加したことがある。

2015年7月ニ日
 マネジメント論的なものを読んだ。ぼくは壊滅的にマネジメントができないタイプの人間で、自分のことでさえそうなんだから、ましてや部下をマネジメントするなんて無理に決まってる。
 サラリーマンも下っ端のうちはいいけれど、大きな失敗もせず、それなりに成果を上げているとやがて役職がつき、部下ができていく。すると期待されるのは部下のマネジメントだ。
 ぼくが何度も会社を辞めている理由のかなりの部分は、そんな自分に適していない仕事を望まれることからの脱出だ。会社を辞めて古本屋のおやじとなったいまは、毎日好きなことだけをしていればいいので、とても精神状態が良く、幸せである。
 とはいえ、ろくに店の売り上げ計画を考えていないのは、さすがにマネジメントしなさすぎだと自分でも思う。

2015年7月タ日
 今日は開店からずっとお客さんが途切れず、まだ日も暮れていないのに、すでに売上げが1万円を越えている。
 たったそれだけ? とお思いでしょうが、これでも平日のマニタ書房としては驚異的な売上げなんですよ。もう店閉めて飲みに行きたくなっちゃったなあ。

40 ゲーム書籍とマイブリッジと長岡秀星

2015年6月マ日
 マニタ書房では、80年代アイドルのドーナツ盤も売っているが、店主としてこれはどうも居心地がわるい。アイドルは好きだから(といっても80年代まで)みんなにも聴いてほしくて仕入れはじめたんだけど、安く仕入れられるのはどうしてもありきたりなアイドルのものばかりになる。マニタ書房だったらもっとマイナーなアイドル、変な歌手のレコードを置くべきなんだよな。でも、そうした珍盤は見つけると自分のコレクションにしちゃうから、店には出せない。
 古本コレクターでも古本屋はやれる! というのをマニタ書房では証明しているつもりだが、レコードコレクターはレコード屋はやれないのだろうか。

 

2015年6月ニ日
 先日、某所のブックオフに行ったら、ゲーム系書籍のかなり珍しいものを2冊見つけた。
 1冊目は『ゲームブック ザナドゥ/宮本 恒之』(JICC出版局/86年)。棚挿しされていて、背表紙を見た瞬間びっくり。さすがにこれが108円ってことはないだろうが、定価の半額だとしてもエライことだぞ……と、恐る恐る引き抜いたら販売価格9,500円。しっかりプレミアが付けられていた。

 で、もう1冊は『ロードランナー ファンブック―/福田史裕』(システムソフト/85年)。こちらも8,000円という十分すぎるプレミアが付いている。

 とはいえ、いまの相場からすればむしろ掘り出し価格なのかもしれない。ぼくがこの分野を集めていたら買ってもいい金額だ。しかし、古本屋としてこの金額では仕入れにならないので、手を出さなかった。
 ブックオフマニアにはよく知られる中野早稲田通り店、東中野店、江古田店といった支店はフランチャイズなので、店長の独断で値付けをしている関係でプレミア価格の商品も少なくない。だけど、今回見たのは直営店だったので、ちょっと驚いてしまった。以前、池袋店でも『MOTHER』の攻略本に9,000円台のプレ値が付いてるのを見たことがある。安さが売りだったブックフォウも、少しずつ変わりはじめてるのかもしれないね。

 

2015年6月タ日
 どこのご出身かは聞かなかったが、今日は(日本語を話せる)外国の方が取材に来られた。会話のリアクションがいつもと違った。『裸で覚えるゴルフ』を見せたら「これは現代のエドワード・マイブリッジだ!」と言って笑うし、マニタ書房の店名の由来を話すと「さっきまでホール&オーツを聴いてたよ」とくる。「チップの本」への反応もチップ文化の国から来たためか独特でおもしろかったな。

 

2015年6月シ日
 今年の1月にCS(衛星放送)の某番組から取材依頼があった。タレントさんが神保町を徘徊していて、ふと見かけた看板に惹かれて入店してくるという、街ブラロケでよくあるパターン。テレビの取材はなるべく受けないようにしているが、ぼくの好きなバンドがパーソナリティーだというので、例外的にOKした。
 が、あれから半年ほど経つのにいまだ返事がない。バンドに罪はないのでこれからも聴き続けるが、テレビの出演依頼はますます警戒してしまうよ。

 

2015年6月ヨ日
 エアブラシ・イラストのパイオニアである長岡秀星氏の訃報あり。
 氏がまだ本名の長岡秀三を名乗っていた頃、少年マガジンなどの巻頭グラビアで健筆を奮っていた。ぼくは35年くらい前に神保町を駆けずり回ってそれらの掲載誌を買い集め、グラビアを切り抜いてスクラップしていた。

 画風がどんどんスペイシーになるにつれ、ペンネームを「秀星」に変えたというのが中二感ありありだけど、でも、そこが愛おしいのだ。
 長岡秀星といえば宇宙──SFと、ディスコと、ボスコニアン! ぼくの中では全部つながっているのだ。先生、長い間お疲れ様でした。

39 イエローポップ下北沢店と川口店と喜国さん小冊子

2015年5月マ日
 ご店主のつぶやきで、下北沢の中古レコード店「イエローポップ」が閉店となったことを知る。ぼく自身、何度もここを訪れ、たくさんのレコードを買わせていただいたが、それより何より、イエローポップが入居している「黄色いビル」こと第二鈴木ビルは、株式会社ゲームフリークが入居していた場所でもある。まだ社員数は15人程度しかおらず、3階に開発部、4階に出版部があった。下北沢の思い出が、また一ひとつ消える。

2015年5月ニ日
 喜国雅彦さんの推理作家協会賞受賞を祝うために、古書いろどり店主の彩古さんが作られた小冊子をいただいた。ぼくも祝辞コメントを寄せているのだ。3冊あるので、2冊は安田理央さんと柳下毅一郎さんにあげよう。なぜなら、ぼくの祝辞コメントにはせんべろ古本トリオのツアーに喜国さん、国樹さんが参加されたときのことが書いてあるから。
 あのツアーにはときどきゲストを交えることがあって、過去には吉田豪さん、大森望さん、石川浩司さん、安田謙一さんなどが参加されている。なかなか愉快なメンツである。いずれ古本屋ツアーインジャパンさんともツアーをしてみたいものだ。

▲表紙も実にいい。

2015年5月タ日
 イエローポップといえば、川口店のご店主がすごく知能指数が低い落書きレコードの入荷をツイートしていて、見た瞬間に買おうと決めて無事に入手。

▲本当はハンサムなんだけど。

 そうしたら、後日、その顛末をねとらぼに記事にされてしまった(笑)。ぼくの世間的なイメージってどうなってんだろう。落書きレコード買いそうな人? まあ買うんですけど。

nlab.itmedia.co.jp

38 私の収穫と自滅願望と推理作家協会賞

2015年4月マ日

 ひとのコレクションを見るのは楽しい。『本の雑誌』の巻頭企画「本棚が見たい!」もいいし、『レコードコレクターズ』誌で大鷹俊一氏がやっていた「レコード・コレクター紳士録」も毎号楽しみだった。

 友人がこのたび何年かにわたって書い続けてきた『レコードコレクターズ』を処分するというので、わがまま言って2月号だけ5冊ほど買い取らせてもらった。なぜ「2月号だけ」なのか?

『レコードコレクターズ』では、毎年2月号に「私の収穫」という記事が載る。これは、レココレ誌の執筆陣たちが前年に入手した自慢の1枚を紹介する記事なのだ。執筆陣は和久井光司さん、安田謙一さん、湯浅学さん、といった名だたるコレクターばかりで、その蒐集ジャンルは多岐にわたる。だから、収穫といってもぼくが興味のあるものとは限らないのだが、それでも入手の過程とともに語られるレア盤の魅力は、知識のないぼくでも十分に楽しめるものだ。

 そして、いつかこの「私の収穫」だけを切り抜いてスクラップしたいなあと思っていた。それが今回5冊まとまって手に入った。いい機会かもしれない。そろそろ本格的に2月号収集を始めようかと思う。

 

2015年4月ニ日

 先月、買い取りしておきながら値付けをサボっていたゲーム雑誌とパソコン雑誌を大量に店頭へ出したら、早速それらを求めるお客様が殺到してくれた。あれよあれよという間に売れていく。ゲーム雑誌、パソコン雑誌の威力、恐るべし。連日売り上げが1万円を越えている。「たったそれっぽっち!?」と思われるかもしれないが、マニタ書房は売り上げがゼロの日なんて当たり前なのだ。そんな閑古鳥の鳴く店でこの賑わいはすごいことなのである。

 ただ、このところのゲーム雑誌&パソコン雑誌の大放出で、お客様の中にはマニタ書房をそっち方面の専門店だと思っている方がいるかもしれない。これは、あくまでもいまだけのこと。本来、マニタ書房は「特殊古書店」を名乗っているところで、刺青の消し方の本だとか、マサイ族の戦士と結婚した日本人女性の手記とか、心霊写真集とか、そういうよくわかんないジャンルの本が主力商品なのですよ。

 

2015年4月タ日

 毎日せっせと古本を売って得たお金を、中古レコードに注ぎ込んでるぼくは、キャバクラで稼いだお金をホストクラブに貢いでいる女の子と似ていなくもない。

 

2015年4月シ日

 ふと思うこと。町田忍さん、久須美雅士さん、清水りょうこさん、石川浩司さんといった缶飲料コレクターあるいは研究家の皆さんは、ある日突然、自分の蒐集したドリンク缶を見ていて、ギューってツブしたくなったりしないものだろうか。

 吉田戦車の『伝染るんです』に「今日はとりかえしのつかないことをしよう」といってジジイがビデオデッキの中に納豆をぶちまけるネタがあった。実際にあんなことはするはずないが、でもその気分はよくわかる。あれがギャグとして成立するということは、誰しも心の中に、あれと似たような衝動を秘めているのだと思う。

 破壊欲というのか、自滅願望というのか。ぼくは先端恐怖症のくせに、刃物や尖ったものを見ると、どうしてもその刃先に触れてみたくなる。もちろん自分を傷つけることはしないのだが、つい触ってしまう。台無しにしたい欲望というのが、自分の心の奥底には確実にある。それがときどき顔をもたげてくる。

 あるとき、何かのスイッチが入ったかのように音楽から一切の興味を失って、手持ちのCDをすべて処分したことがある。かなりの量を持っていたので一度に全部は無理だったから、毎日100枚ずつくらいを紙袋に入れて会社に持って行き、終業後にディスクユニオンに寄って売り払った。毎日数千円から、ときには万単位の現金を手にすることができた。その快感は凄まじかった。「ぼくはもう蒐集欲からは解き放たれたのだ!」と長年自分を苦しませてきた(と同時に楽しませてもきた)物を集める衝動から自由になり、一気に生きるのが楽になった。

 ところが、それから数年後にiPodが登場すると、これはウォークマン以来の音楽の聴き方の革命だ! と興奮し、売り払ったはずのCDを猛烈な勢いでまた買い戻し始めた。まったく無駄の多い人生である。

 その後、とつぜん猛獣に人が喰われる映画の世界に開眼し、自ら命名した「人喰い映画」のDVDを集め始め、人喰い人種に関する本も集め、それが高じてマニタ書房を始めてしまったわけだ。

 その背景には、あのCDを売り払ったときに味わった快感があるのは否めない。ぼくが純粋なコレクターで、溜め込むことに快感を感じるだけの人間だったら、古本屋などやれないだろう。

 

2015年4月ヨ日

 喜国雅彦さんが『本棚探偵最後の挨拶』で、第68回推理作家協会賞「評論その他の部門賞」を受賞された。実におめでたいことである。この本にはマニタ書房もチラリと登場する。我が店のことが書かれている本が受賞したことは、ぼくにとっても嬉しい出来事だ。

 今回の推協賞には、喜国さんの他にも、北原尚彦さん、葉真中顕さん、杉江松恋さんといった友人たちが4人も候補に入っていたので、きっと誰かは受賞するだろうと思っていた。許されるなら4人全員に受賞してほしかったけれど、さすがにそうはいかない。でも、みんな実力ある書き手ばかりなので、きっとまた次があるだろう。