2014年11月マ日
朝からあいにくの雨。だからというわけではないが、開業3年目にしてとうとうマニタ書房にも傘立てが導入された。といっても、標準的な傘を2本も挿せば一杯になってしまうごくコンパクトなものだ。もう少し大きなものにすることも考えたが、どうせうちは2人以上のお客さんが同時に来店することは稀なので、これでいいのだ。
そして、夕方からはマニタ書房の開業2周年記念パーティーの準備。例年は開業日である10月28日にやるのだが、今年は10月24~26日までしりあがり寿隊長の岩手復興ボランティアに参加していたので準備がままならず、11月に延期したというわけ。
最近DJ活動に目覚めてせっかくターンテーブル2台とミキサーを買ったのだから、それもパーティーで活躍させたい。だが、そのセッティングに大変苦労している。なぜなら、タンテを設置すべき場所にも古本の在庫やら本業の資料やら溜め込んだレコードが堆積しているからだ。汗をかきかき本とレコードを退けて場所を作る。
2014年11月ニ日
パーティーの翌日は店休し、2日ぶりに店を開けに来た。去年は飲んだアルコール類の缶を潰して山盛り状態のまま放っぽらかして帰ったから、翌日店のドア空けたら酒臭いのなんのでたまらなかった。あのときの反省を活かして、今回はひとつ空き缶が出る度に水でゆすいでから潰しておいたので、まったく嫌な匂いはしなかった。片付けがきっちりできる人にとっては当たり前のことだが、ゴミ屋敷マンは強く意識しないとこういうことができない。
2014年11月タ日
朝イチの新幹線で大阪へ向かう。いつもお世話になってるなんば味園のトークライブハウス「紅鶴」で「たのしいたべもの」と題するイベントに出るので、そのついでにブックオフめぐり&レコ屋めぐり&ご当地ラーメンめぐりをする3日間である。
いちばんの目的はブックオフ大阪千島ガーデンモール店を訪ねること。6月に来阪したときは地理の事情がわからず、千島ガーデンモールに向かうための渡し船に乗れずに行くことができなかった。今回はそのリベンジなのだ。
ブックオフのあとは堺へ移動して、プノンペンそばを食べる。豚肉と杓子菜とセロリがザクザク入って栄養満点。スープは鶏ガラ醤油だろうか。化学調味料たっぷりなので、どことなく大阪神座のラーメンにも似た味。ただしこちらは辛味が足してあってピリ辛。非常にぼく好みの味だ。近所にあったらかなり通ってしまいそう。
基本はプノンペン(麺なしの野菜スープということか)で、それにそば(中華麺)を入れるかライスをつけるかを選ぶ仕組み。チャーシューのトッピングもある。遠くから食べに来てるのはぼく一人で、店内は近所の人たちだけで普通に繁盛していた。
結局、今回の大阪ツアーでは古本屋めぐりはそこそこに、ほとんどの時間をレコ屋めぐりに費やしてしまった。MINT Record、サウンドパックアナログ店、サウンドパック日本橋四丁目店、ワイルドワン、サウンドパック本店、ナカレコ、ForeverRecord、DISC J.J.をまわってトータル35枚購入。古本は2冊のみ。
2014年11月シ日
ブラッド・ピットの戦車映画『フューリー』の試写状を頂いたので試写室へ。
しかし、入場列に並んでいたら直前になって「もう座席が埋まってしまったので」と追い返されてしまった。試写室なんて席数がいくつあるかわかっているだろうに、ずっと並ばせておいて寸前になって「ここまでです」はないよ。おまけに、後から来た人が何人も入っていったということは、客に優劣があるのかもしれない。まあ、ぼくは見せてもたいして宣伝効果のない存在だから仕方ないのだろう。
試写会では嫌な思いをすることが度々ある。それでしばらく試写会からは足が遠のいていたんだけど、『メタルマックス』の作者として『フューリー』は非常に楽しみなので、久しぶりに行ってみたらこの仕打ちだ。
いまから4年前はほとんど仕事がなく、映画代を捻出するにも窮していた。だから試写状がもらえるのは本当にありがたかった。映画好きとして、いつかは試写会に呼ばれるようになりたいとはずっと思っていて、『人喰い映画祭』を出版したのを機にポツポツと試写状が届くようになった。それから4年、いろいろな試写会に行った。いい思いをしたこともあるけど、どちらかといえば嫌な思いをすることの方が多かった。詳しくは書かないけれど、映画業界の嫌な面をいろいろ見た。
4年間タダで見せてくれて感謝している。でも、もういいや。おかげさまで最近は仕事も増えて、映画代くらいは払えるようになった。
2014年11月ヨ日
マドモアゼル朱鷺が謎の失踪をしていた、というニュースが目に入ってきた。彼女は、小学生の頃から自分を女性であると性自認しており、どういういきさつを経て「マドモアゼル朱鷺」になったのかはわからないが、人気占い師として雑誌でも連載を持つなど、一時は各方面で活躍していた。失踪自体は2006年のことらしく、なぜそれがいまごろ話題に上がってきたのかは報道では語られなかった。
朱鷺ちゃんとは、ぼくが下北沢に住んでいた頃によく通っていたバー「旬亭」の常連仲間で、何度か一緒に飲んだことがある。
あるとき、彼女は買ってきたばかりの12色のサインペンと小さなスケッチブックを出して、カウンターに飾ってある花の絵をうれしそうに描きはじめた。この感性。ああ、彼女は心から女の子なんだなあと感じ入ったものだ。
花を描いたから「女の子だ」と思ったのではない。買ってきたばかりのサインペンを家に帰るまで待てずに、寄り道したバーで広げてそのまま絵を描いてしまう、というピュアな感性。仕事の帰りに酒場に寄り道する大人の女性と、買ったばかりのペンが使いたくて我慢できない幼児性。このふたつが同居している彼女の姿に、とても豊かなものを感じたのだ。
2014年11月ボ日
古本屋の店主はヒマそうに見えて、実際のところはやるべき仕事は多い。でも、本当にな~んにもやることがない日もあったりするわけで、そんな日は終始SNSを眺めて過ごしたりする。
Twitterを見ていたら、誰かの「店でレコードを買うだけなのに“掘る”なんて(笑)」というつぶやきが流れてきた。
……わはは、言う言う。ぼくもよくレコードを探しに行くとき「レコ掘り」って言いますわ。たいていのレコ屋はまず「洋楽/邦楽」で大別され、さらに「ロック/歌謡曲/クラシック/民謡/ジャズ」などのジャンルごとに分類され、さらに在庫枚数が多いものは「男性/女性」の性別や「あいうえお順」などに分類して、目当てのレコードが探しやすいようにしてある。そんな至れり尽くせりのエサ箱を探って「掘る」も何ないもんだよ。
でもね、たとえばレコファンの新入荷コーナー(あそこは男女はおろか、洋邦の区別すらしない)なんかを見ると、あそこは「掘る」としか言いようがないんだよね。
で、マニタ書房はどうかというと、ご存じのようにきっちり分類しまくっているわけだけれど、でも、その棚にどんな本が何が並んでいるのかは、実際に店まで来て棚の本を見てもらわないとわからない。あなた好みの変な本を「掘る」店であろうとしているのだ。
レコファンの「掘る」は、否応なしに掘らざるを得ない消極的な「掘る」。マニタ書房の「掘る」は喜びをともなう積極的な「掘る」。そのことは常に意識している。
2014年11月ウ日
今日も朝から大雨だというのに、お客様が途切れず来てくださる。今日は1人目のお客様が秋元文庫の光瀬龍『SF その花を見るな!』を手にして、「これ子供の頃から探してたんです!」と、なんとも嬉しそうな表情を浮かべて買っていかれた。思えば、あれが今日の縁起の良さの始まりだったのだろう。
ひとつひとつの売り上げは小さいものでも、その積み重ねで古本屋は日々のおまんまを食わせていただけるわけで、とてもありがたいことである。こうした商人の喜びを実感しながら、毎日を過ごしている。