40 ゲーム書籍とマイブリッジと長岡秀星

2015年6月マ日
 マニタ書房では、80年代アイドルのドーナツ盤も売っているが、店主としてこれはどうも居心地がわるい。アイドルは好きだから(といっても80年代まで)みんなにも聴いてほしくて仕入れはじめたんだけど、安く仕入れられるのはどうしてもありきたりなアイドルのものばかりになる。マニタ書房だったらもっとマイナーなアイドル、変な歌手のレコードを置くべきなんだよな。でも、そうした珍盤は見つけると自分のコレクションにしちゃうから、店には出せない。
 古本コレクターでも古本屋はやれる! というのをマニタ書房では証明しているつもりだが、レコードコレクターはレコード屋はやれないのだろうか。

 

2015年6月ニ日
 先日、某所のブックオフに行ったら、ゲーム系書籍のかなり珍しいものを2冊見つけた。
 1冊目は『ゲームブック ザナドゥ/宮本 恒之』(JICC出版局/86年)。棚挿しされていて、背表紙を見た瞬間びっくり。さすがにこれが108円ってことはないだろうが、定価の半額だとしてもエライことだぞ……と、恐る恐る引き抜いたら販売価格9,500円。しっかりプレミアが付けられていた。

 で、もう1冊は『ロードランナー ファンブック―/福田史裕』(システムソフト/85年)。こちらも8,000円という十分すぎるプレミアが付いている。

 とはいえ、いまの相場からすればむしろ掘り出し価格なのかもしれない。ぼくがこの分野を集めていたら買ってもいい金額だ。しかし、古本屋としてこの金額では仕入れにならないので、手を出さなかった。
 ブックオフマニアにはよく知られる中野早稲田通り店、東中野店、江古田店といった支店はフランチャイズなので、店長の独断で値付けをしている関係でプレミア価格の商品も少なくない。だけど、今回見たのは直営店だったので、ちょっと驚いてしまった。以前、池袋店でも『MOTHER』の攻略本に9,000円台のプレ値が付いてるのを見たことがある。安さが売りだったブックフォウも、少しずつ変わりはじめてるのかもしれないね。

 

2015年6月タ日
 どこのご出身かは聞かなかったが、今日は(日本語を話せる)外国の方が取材に来られた。会話のリアクションがいつもと違った。『裸で覚えるゴルフ』を見せたら「これは現代のエドワード・マイブリッジだ!」と言って笑うし、マニタ書房の店名の由来を話すと「さっきまでホール&オーツを聴いてたよ」とくる。「チップの本」への反応もチップ文化の国から来たためか独特でおもしろかったな。

 

2015年6月シ日
 今年の1月にCS(衛星放送)の某番組から取材依頼があった。タレントさんが神保町を徘徊していて、ふと見かけた看板に惹かれて入店してくるという、街ブラロケでよくあるパターン。テレビの取材はなるべく受けないようにしているが、ぼくの好きなバンドがパーソナリティーだというので、例外的にOKした。
 が、あれから半年ほど経つのにいまだ返事がない。バンドに罪はないのでこれからも聴き続けるが、テレビの出演依頼はますます警戒してしまうよ。

 

2015年6月ヨ日
 エアブラシ・イラストのパイオニアである長岡秀星氏の訃報あり。
 氏がまだ本名の長岡秀三を名乗っていた頃、少年マガジンなどの巻頭グラビアで健筆を奮っていた。ぼくは35年くらい前に神保町を駆けずり回ってそれらの掲載誌を買い集め、グラビアを切り抜いてスクラップしていた。

 画風がどんどんスペイシーになるにつれ、ペンネームを「秀星」に変えたというのが中二感ありありだけど、でも、そこが愛おしいのだ。
 長岡秀星といえば宇宙──SFと、ディスコと、ボスコニアン! ぼくの中では全部つながっているのだ。先生、長い間お疲れ様でした。

39 イエローポップ下北沢店と川口店と喜国さん小冊子

2015年5月マ日
 ご店主のつぶやきで、下北沢の中古レコード店「イエローポップ」が閉店となったことを知る。ぼく自身、何度もここを訪れ、たくさんのレコードを買わせていただいたが、それより何より、イエローポップが入居している「黄色いビル」こと第二鈴木ビルは、株式会社ゲームフリークが入居していた場所でもある。まだ社員数は15人程度しかおらず、3階に開発部、4階に出版部があった。下北沢の思い出が、また一ひとつ消える。

2015年5月ニ日
 喜国雅彦さんの推理作家協会賞受賞を祝うために、古書いろどり店主の彩古さんが作られた小冊子をいただいた。ぼくも祝辞コメントを寄せているのだ。3冊あるので、2冊は安田理央さんと柳下毅一郎さんにあげよう。なぜなら、ぼくの祝辞コメントにはせんべろ古本トリオのツアーに喜国さん、国樹さんが参加されたときのことが書いてあるから。
 あのツアーにはときどきゲストを交えることがあって、過去には吉田豪さん、大森望さん、石川浩司さん、安田謙一さんなどが参加されている。なかなか愉快なメンツである。いずれ古本屋ツアーインジャパンさんともツアーをしてみたいものだ。

▲表紙も実にいい。

2015年5月タ日
 イエローポップといえば、川口店のご店主がすごく知能指数が低い落書きレコードの入荷をツイートしていて、見た瞬間に買おうと決めて無事に入手。

▲本当はハンサムなんだけど。

 そうしたら、後日、その顛末をねとらぼに記事にされてしまった(笑)。ぼくの世間的なイメージってどうなってんだろう。落書きレコード買いそうな人? まあ買うんですけど。

nlab.itmedia.co.jp

38 私の収穫と自滅願望と推理作家協会賞

2015年4月マ日

 ひとのコレクションを見るのは楽しい。『本の雑誌』の巻頭企画「本棚が見たい!」もいいし、『レコードコレクターズ』誌で大鷹俊一氏がやっていた「レコード・コレクター紳士録」も毎号楽しみだった。

 友人がこのたび何年かにわたって書い続けてきた『レコードコレクターズ』を処分するというので、わがまま言って2月号だけ5冊ほど買い取らせてもらった。なぜ「2月号だけ」なのか?

『レコードコレクターズ』では、毎年2月号に「私の収穫」という記事が載る。これは、レココレ誌の執筆陣たちが前年に入手した自慢の1枚を紹介する記事なのだ。執筆陣は和久井光司さん、安田謙一さん、湯浅学さん、といった名だたるコレクターばかりで、その蒐集ジャンルは多岐にわたる。だから、収穫といってもぼくが興味のあるものとは限らないのだが、それでも入手の過程とともに語られるレア盤の魅力は、知識のないぼくでも十分に楽しめるものだ。

 そして、いつかこの「私の収穫」だけを切り抜いてスクラップしたいなあと思っていた。それが今回5冊まとまって手に入った。いい機会かもしれない。そろそろ本格的に2月号収集を始めようかと思う。

 

2015年4月ニ日

 先月、買い取りしておきながら値付けをサボっていたゲーム雑誌とパソコン雑誌を大量に店頭へ出したら、早速それらを求めるお客様が殺到してくれた。あれよあれよという間に売れていく。ゲーム雑誌、パソコン雑誌の威力、恐るべし。連日売り上げが1万円を越えている。「たったそれっぽっち!?」と思われるかもしれないが、マニタ書房は売り上げがゼロの日なんて当たり前なのだ。そんな閑古鳥の鳴く店でこの賑わいはすごいことなのである。

 ただ、このところのゲーム雑誌&パソコン雑誌の大放出で、お客様の中にはマニタ書房をそっち方面の専門店だと思っている方がいるかもしれない。これは、あくまでもいまだけのこと。本来、マニタ書房は「特殊古書店」を名乗っているところで、刺青の消し方の本だとか、マサイ族の戦士と結婚した日本人女性の手記とか、心霊写真集とか、そういうよくわかんないジャンルの本が主力商品なのですよ。

 

2015年4月タ日

 毎日せっせと古本を売って得たお金を、中古レコードに注ぎ込んでるぼくは、キャバクラで稼いだお金をホストクラブに貢いでいる女の子と似ていなくもない。

 

2015年4月シ日

 ふと思うこと。町田忍さん、久須美雅士さん、清水りょうこさん、石川浩司さんといった缶飲料コレクターあるいは研究家の皆さんは、ある日突然、自分の蒐集したドリンク缶を見ていて、ギューってツブしたくなったりしないものだろうか。

 吉田戦車の『伝染るんです』に「今日はとりかえしのつかないことをしよう」といってジジイがビデオデッキの中に納豆をぶちまけるネタがあった。実際にあんなことはするはずないが、でもその気分はよくわかる。あれがギャグとして成立するということは、誰しも心の中に、あれと似たような衝動を秘めているのだと思う。

 破壊欲というのか、自滅願望というのか。ぼくは先端恐怖症のくせに、刃物や尖ったものを見ると、どうしてもその刃先に触れてみたくなる。もちろん自分を傷つけることはしないのだが、つい触ってしまう。台無しにしたい欲望というのが、自分の心の奥底には確実にある。それがときどき顔をもたげてくる。

 あるとき、何かのスイッチが入ったかのように音楽から一切の興味を失って、手持ちのCDをすべて処分したことがある。かなりの量を持っていたので一度に全部は無理だったから、毎日100枚ずつくらいを紙袋に入れて会社に持って行き、終業後にディスクユニオンに寄って売り払った。毎日数千円から、ときには万単位の現金を手にすることができた。その快感は凄まじかった。「ぼくはもう蒐集欲からは解き放たれたのだ!」と長年自分を苦しませてきた(と同時に楽しませてもきた)物を集める衝動から自由になり、一気に生きるのが楽になった。

 ところが、それから数年後にiPodが登場すると、これはウォークマン以来の音楽の聴き方の革命だ! と興奮し、売り払ったはずのCDを猛烈な勢いでまた買い戻し始めた。まったく無駄の多い人生である。

 その後、とつぜん猛獣に人が喰われる映画の世界に開眼し、自ら命名した「人喰い映画」のDVDを集め始め、人喰い人種に関する本も集め、それが高じてマニタ書房を始めてしまったわけだ。

 その背景には、あのCDを売り払ったときに味わった快感があるのは否めない。ぼくが純粋なコレクターで、溜め込むことに快感を感じるだけの人間だったら、古本屋などやれないだろう。

 

2015年4月ヨ日

 喜国雅彦さんが『本棚探偵最後の挨拶』で、第68回推理作家協会賞「評論その他の部門賞」を受賞された。実におめでたいことである。この本にはマニタ書房もチラリと登場する。我が店のことが書かれている本が受賞したことは、ぼくにとっても嬉しい出来事だ。

 今回の推協賞には、喜国さんの他にも、北原尚彦さん、葉真中顕さん、杉江松恋さんといった友人たちが4人も候補に入っていたので、きっと誰かは受賞するだろうと思っていた。許されるなら4人全員に受賞してほしかったけれど、さすがにそうはいかない。でも、みんな実力ある書き手ばかりなので、きっとまた次があるだろう。

37 店主一人営業の苦悩と万歩書店と大馬鹿者

2013年5月マ日

 切実に店員さんが欲しいなあと思う。

 店の営業は店員さんに任せて、自分は「セドリ」という名の買い付け旅行だけをして暮らす。それで店の維持費と自分の生活費を賄う。その合間に行うライター仕事による収入は余録として貯蓄に回す。そんな調和水槽的サイクルができたら最高なのだが、どう考えてもマニタ書房のコンセプトでは不可能だ。

 開業以来、一冊も売れていない「極端配偶者」「大家族」「特殊辞典」「珍健康法」といった不人気コーナーをリストラして、もっと動きのいい商品を充実させるべきなのだろうけれど、そうなったらマニタ書房がマニタ書房ではなくなる。

 そもそも、マニタ書房はお金のために始めた店ではない。日がな一日、店の帳場にほげら~っと座っていて、たいして儲かりもしないけれど、ごく一部の人に愛されることでなんとなく続いている、そんな店の主人になりたくて始めたことなのだ。

 その行き着く先がどうなるかは助川助三を見ればわかりそうなもんだが、もう引き返せないのである。

 

2013年5月ニ日

「買い付け」と言えばかっこいいのに、「セドリ」と言われると、なんだかヒト聞きが悪い。やってることに何ら変わりはないのに。

「買い付け」には、目利きが海外の蚤の市でアンティーク家具などを仕入れてくるイメージがある。一方「セドリ」には、ロクに古本の知識もない者がスマホとビーム端末を片手にブックオフでバーコードを読み取っているイメージがある。そりゃあどっちがモテるかと言ったら答えるまでもない。でも、セドリは古書業界に昔からある言葉なので、ぼくは臆せず使っていこうと思う。

 

2013年5月タ日

 友人のミュージシャンが大麻所持で逮捕されたというニュースにショックを受ける。メジャーデビューも果たし、さあこれからガンガン行くぞというときに何をやっているのだ。まあ、それも含めての彼という人間なので、逮捕されたくらいで今後の付き合いを変えるつもりもない。まずは自分のやらかしたことにきちんと向き合い、素直に罰を受け、もういちどやり直してくれることを願わずにはおれない。

前科おじさん

前科おじさん

Amazon

 

2013年5月シ日

 今日はお台場のカルカルにてトークイベント「ヘンな本ナイト」がある。いろいろと準備をして会場入りしたのだが、開演直前に盟友である成澤大輔の訃報が届き、全身から力が抜ける。数年前から闘病していることは耳にしていたが、ついにその日がやってきてしまった。

 成澤が死んだという実感がなく、心ここに在らずの状態でイベントを終えて帰路に着く。しかし、電車を待つ有楽町駅のホームでベンチに座ったまま動けなくなり、しばらく泣いた。

 

2013年5月ヨ日

 今月号の『本の雑誌』に、岡山の巨大古書店万歩書店」についての座談会(岡崎武志さん、北原尚彦さん、ご一緒)が掲載されている。

 古本亡者なら一度は行っておかなきゃならない万歩書店に、ぼくは今年の1月に岡山~倉敷ツアーで行っている。とにかく店の規模がデカく、1時間やそこらの滞在では到底すべての本を見ることなどできない。いくらレンタカーで来ているとはいえ、欲しい本を全部買っていたら大変なことになるので、厳選に厳選を重ねて本店で9冊、エンタメ店で2冊、倉敷店で4冊だけ買い込んだ。

 いまはマニアに荒らされていい本が減ったらしいが、いち早くこの店に通っていた吉田豪氏によると「以前はこんなものではなかった」ということだ。古書販売は分母のデカさこそ正義であるからして、こうした大型古書店は貴重である。

 

2013年5月ボ日

 このところ続いていた怒涛の出張買取が終わった。喜久盛酒造の藤村社長、デザイナーの植地毅さん、ゲームフリーク杉森建さん(こちらは郵送で)という、明らかに濃厚なコレクションをお持ちであろう方々の蔵書を買い取らせていただいたのだ。全部で段ボールにして7箱。うちのような小さい店にとってはかなりの量だ。査定額も皆さん満足していただけたようで、ありがたい限り。

 マニタ書房は、店主が「これは!」と思った本しか買い取らないわがまま経営ではあるが、そのかわり、いい本は相場以上の高値で買い取るようにしている。それでいて店に並べるときは相場より一割ぐらい安い価格にしているので、それじゃあ儲かるわけないよ。

 

 一般の方は、古本屋の看板に「高価買取」とあると、その店の店頭に並んでいる本の価格を思い浮かべるだろう。つまり、その店で3,000円の値札がついているのと同じ本を持ってきたら、3,000円はあり得ないにしても、2,000円くらいで買い取ってもらえるのではないか、と。

 でも、さすがにそれは無理な相談だ。せいぜいが200~300円。査定の高いところでも500円がいいところ。

 日常の消耗品や食材と違って、古本は仕入れてもすぐに右から左へ売れるわけではない。いつ売れるかわからないということは、その日が来るまで店舗の家賃がズシズシかかってくるし、光熱費や人件費もかかる。それを見越して、買取り金額はギリギリまで下げざるをえない。

 ブックオフに本を持ち込んだことのある人ならわかると思うが、あそこはだいたい買い取り金額が1冊あたり10円とか100円でしょう。激安だけど、店舗規模や人件費を考えたら当然そうなる。古本屋としては何も間違っていない。

 ただ、マニタ書房のような個人店がブックオフのような大型古書店と同じことをやっていたのでは太刀打ちできないので、様々な場面においてシステムを極端化して個性を出すしかない。だから買取りできる本を厳選するかわりに、本当にいい本であれば最低でも100円、あるいは500円でも1000円でも値付けをして買い取るわけだ。

 

 今日、いちばん高く買い取ったのはオウム事件のときに話題をさらった横山弁護士の『大馬鹿者』で、600円の値をつけた。自分のコレクションに加えるためなら2,000円は出してもいい本だが、店の仕入れとしてそんな値段でセドったら売値は6,000円くらいつけなければ利益が出ない。

 しかし、マニタ書房をそんな店にはしたくないので、1800円~2000円ぐらいで店頭に置くことをイメージして、600円という買い取り価格を提示させていただいた。自分用としてすでに一冊持っているので、ようやく店頭に並べることができた。

36 珍書とシーナとナスカジャン

2015年2月マ日

 自分で古本屋をやっていて嬉しいことのひとつに、仕事やプライベートで読み終えた本を自分の店で売れるというのがある。

 読み終えた本をよその古本屋に持ち込んだら、せいぜいが定価の1割くらい(2,000円の本なら200円。なんならもっと低い金額)でしか買ってもらえないものが、自分の店ならば定価の3割で並べておいても売れてしまう。書評のために読んだ新刊や話題の本なら、定価の半額でもすぐに売れる。これは本当にありがたい。

 また、ぼくのフリーライターという副業の観点から見ても、読み終えた本を即座に売ることができる利点は大きい。

 仕事柄、新刊チェックは日課のようにしている。連載している新刊紹介のコーナーのために話題の本はなるべく目を通しておきたいが、気になる本をすべて買うわけにはいかない。だから取捨選択をする。

 しかし、これまでは「いま新刊で買わなくてもいいかなあ」と迷ったような本も、読み終えたあとに自分の店に並べれば買い値の半額は回収できるのだと思えば、わりと躊躇せずに買ってしまえるのだ。

 

2015年2月ニ日

 今日は「珍書ビブリオバトル」に出演する日。ビブリオバトルとは何かというと、出演者が各自おすすめの本を持ち寄り、順番に壇上で持参の本の何がいいのか、読みどころはどこかなのをアピールする。それを観客による投票で順位を決めるという、本好きたちによる本好きたちのための素晴らしい遊びである。

 そもそものビブリオバトルは話題の小説や新刊などで行われることが多いが、今回のは「珍書」とあるくらいで、書籍のジャンルも新刊かどうかも問わない。たとえ古い本でも、珍なる書物で、それを面白おかしくアピールしたものが勝ち、というルールだ。出演者はハマザキカク氏(社会評論社、珍書プロデューサー)どどいつ文庫イトー氏(海外書籍販売員)、ひだまい氏(暗黒通信団)、それにとみさわ昭仁(マニタ書房)という面々。

 これだけの強者を相手に果たして勝てるのか……と思ったら、優勝してしまった。

▲優勝賞品は人参焼酎「珍(めずらし)」。お酒をもらって超嬉しそう
(写真提供:Tokyo Biblio)。

 ぼくが紹介したのは『よーいドン! スターター30年』(佐々木吉蔵著/1966年/報知新聞社)という本で、陸上競技のスタートラインでピストルを空に向け、ドンと号砲を鳴らす役目を30年もやってきた人の自伝だ。そんな本、どう考えてもおもしろいに決まってる! 60年近く前に刊行された本なので入手するのは簡単ではないと思うが、機会あればぜひ読んでみてほしい。

▲店に飾るのに一升瓶のままでは味気ないかと思い、
近所の徽章屋で優勝リボンを買ってきて付けてみた。

2015年2月タ日

 シーナ&ザ・ロケッツのシーナさんの訃報あり。六本木にあるハドソンでの定例会議を終え、乃木坂駅へ向かって歩いているときにスマホでそのニュースを目にした。息が詰まった。友人でも知人でもなく、一方的に好きなだけの人なのに、涙が溢れてきて止まらない。シーナさんの死そのものよりも、愛する妻を亡くした鮎川さんに感情移入しているのかもしれない。帰りの電車の中でいい大人がめそめそと泣いていて恥ずかしい。

 信じたくないニュースではあるが、この世の信じたくない出来事の大半はいつでも起こりうる出来事であるのをぼくは知っている。いまは手を合わせ、その眠りが安らかなるものであることを祈ろう。

 パンクロッカー、シーナ。数え切れないほどのロックンロールをありがとう。日本工学院ホールの最前列で見た、スタンドマイクにしがみついて歌うあなたの全身から放たれるロックの官能は、一生忘れることができない。

 いまから20数年前、ぼくが下北沢に住んでいたとき。茶沢通りの横断歩道で赤信号を待っていたら、道路を挟んだ向こう側に鮎川パパが幼い娘二人を両手に従え信号を待っていた。ほどなくして信号が変わり、すれ違う瞬間に父娘の会話が聞こえた。

「早くお家に帰ってママとケーキ食べようねー」

 幸福な家庭とロックンロールの両立はあり得るのだと、ぼくが理解した瞬間だ。

▲45年前、TVK『ファイティング80's』の公開録画ライブの際にもらったサイン。

▲中袋にはシーナさんにもサインしてもらい、ぼくの名前まで入れてくれた。

2015年2月シ日

 自分ではその番組を見ていなかったのだが、女優の二階堂ふみさんがナスカジャンを愛用しているというのを、Twitterを通じて知った。何かのテレビ番組でその名を挙げ、現物をスタジオに持ち込んで紹介してくれたらしい。しかも、私物のそれを嵐の大野智さんが羽織るという場面もあったようだ。とてもありがたいことである。

 悲しい出来事がひとつあれば、それを少しでも薄めてくれるように喜びの知らせもやって来る。4年前に妻を亡くしたときにも感じたことだが、こうして人生は泣き笑いを繰り返しながら少しずつ前へと進んでいく。

 

2015年2月ヨ日

 営業中、店内の本を5~6冊抱えたお客さんが「値段はいくらなんですか?」とおっしゃる。ほとんどの古本屋は、値札を最終ページに貼り付けるか、最終ページの上の角に鉛筆書き(マニタ書房もそうしている)ものだ。古本好きなら当たり前のことだが、あまり古本屋に行かない人にはその常識が通用しないのだろう。

 最終ページに書いてありますよ、と教えてさしあげたところ、手に持った本を一冊ずつ確認している。そうしてひと通り確認が終わったと思ったら……全部棚に戻して帰っていかれた。うちはそんなに高い値付けをしていないつもりだけど、1冊108円だとでも思っていたのだろうか。

35 ソウルじじいと岡山のローカルスターとBAWDIES

2015年1月マ日

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年の前半は相変わらずの「いつ開いてるかよくわかんないわがまま営業」をしていたけれど、後半になって突然「このままじゃいけないのではないか?」と思い直して、わりとちゃんと店を開けるようにした。おかげで、売上げも少しは上昇してきた感じがする。

 実際のところは、原稿依頼が増えたことで必然的に仕事場に常駐している時間が長くなり、ついでに店を開けるようにもなった、ということなのだが。

 以前は、締め切りに追われているときはお客さんの相手ができないので、店を閉めることも多かったんだけど、最近は古本屋であることにも慣れてきたのか、お客さんの出入りがあっても気にせず原稿が書けるようになってきた。

 この、ほどほどの忙しさの古本屋と、ほどほどの忙しさの物書き稼業の両立が、いつまでも続いてくれることを願う。

 

2015年1月ニ日

 今日は仕事を少し早めに切り上げて、武道館までダイアナ・ロスの来日公演を見に行く。ダイアナ姐さんも御年70歳。もうこれが最後の来日となるかもしれない。

 マニタ書房から武道館までは徒歩15分ほど。九段下を上がっていくにつれ、若い頃はさぞ遊んでいたであろうソウルじじいとディスコばばあの数が増えていく。今夜の武道館、平均年齢が高い。

 開演直前に2階席正面がざわついたので何事かと思ったら、たくさんのSPを引き連れた安倍晋三総理(当時)が来ていたのだった。税金使っていい席取りやがってコンチクショー。

 ぼくが取れた席は2階の左翼の端の方なので、ダイアナの右側面しか見えなかったけど、やはり生の迫力はすごかった。何度も退場したのは、おばあちゃんトイレが近いんだろうなあというところだろうけれど、ボーカルの衰えは感じさせることなく、"Stop! In the Name of Love"も"You Can't Hurry Love"も"Ain't No Mountain High Enough"も、あとタイトル知らないけどぼくでも知ってるヒット曲を片っ端からやってくれた。

 

2015年1月タ日

 いまから5年くらい前までは中古盤屋へ行っても、あんまり歌謡曲のいいレコがなくて掘り甲斐がなかったが、ここ数年でザクザクいいものが出てくるようになった。不謹慎な言い方だが、おそらく第一次廃盤歌謡ブームを支えた世代のコレクターが死にはじめて、遺族が処分しているのだろう。ということは、いまから10年くらいは中古市場がすごくおもしろくなるはずだ。

 なぜそんなことを思ったかというと、今日はディスクユニオンの柏店で「うわっ、このレコがこんな値段で!?」みたいな掘り出し物がざくざく出てきたからだ。勢い込んで14枚も買ってしまった。

 そして、いつかは自分も死んで、娘にレコードコレクションを叩き売られ、どこかの歌謡曲コレクターを喜ばせることになるのだろう。それもまたよし。

 

2015年1月シ日

 この日より3日間、岡山かた倉敷にかけての仕入れツアーに出かけるのだ。いちばんの目的は古本マニアなら知らぬ者はない万歩書店に行くことだが、ついでに中古盤屋も可能な限りチェックしたい。

 で、怒涛の3日間を過ごしたわけだが、日記ではその釣果だけをまとめておく。

 

 1日目 5冊購入@ブックオフ山東古松店

     1冊購入@南天荘書店

     2枚購入@GROOVIN' 岡山表町店

     自分が欲しいものはなし@キングビスケットレコード

     1冊購入@古書隠書泊(オニショハク)

 2日目 9冊購入@万歩書店本店

     8冊購入@ブックオフ岡山西長瀬店

     16枚購入@グリーンハウス岡山店

     6冊購入@ブックオフ岡山妹尾店

     6枚購入@レコード屋(という名前の中古盤屋)

     4冊購入@ブックオフ倉敷浜店

     13枚購入@グリーンハウス倉敷店

     4冊購入@ブックオフ倉敷笹沖店

 3日目 4冊購入@万歩書店倉敷店

 

 他にブックスフロンティアもいい店っぽいので覗いてみたかったのだが、営業時間が未定らしく、あいにくぼくが訪問したタイミングに合わなかった。名残惜しかったがワケありで早く帰京しなければならず、予定より2時間も早い新幹線に乗車して帰京した。

 ※当時、SNSには「ワケありで」なんて言い方でつぶやいていたが、この年の1月7日に親父が死んでいて、その葬儀のために早く戻る必要があったのだ。親が死んでも古本仕入れツアーの予定はキャンセルしたくないので、親父の死体は葬儀屋さんの冷蔵庫に突っ込んで岡山まで遊びに行っていた酷い息子。古物商の業である。

 

 結局、岡山~倉敷ツアーの成果は、古本42冊、ドーナツ盤36枚、LP1枚というまずまずのものだった。駆け足な旅にしてはいい収穫だったのではないかと思う。岡山のブックオフは北部を残しているので、いつかまた来なければなるまい。

 今回の旅では古本も中古盤もいいものがたくさん買えたが、実はいちばんの収穫は「うちだよしはる」というナイスなローカルシンガーを知れたことかもしれない。

岡山の街の随所でこの方のポスターを見かけた。

 どのポスターにもことごとくこのような落書きがされていて、れが第三者によるイタズラではなく、どうも本人の手によるものらしいのだ。スナックもやっているようなので、いつか飲みに行ってみたい。あと、この方の新曲『東京スカイツリー・ラブリー・ロンリー・ナイト』も手に入れないとね。

 

2015年1月ヨ日

 これは、岡山のブックオフで買ってきたとある本のカバー裏。貼ってある値札シールが、ちょっと珍しいパターンだった。

▲お馴染みブックオフの値札シールの下に、見慣れないシールが見える。

 ブックオフでは一定期間売れずにいた本は値下げをして値札シールを重ね貼りするが、その際にシールの色が変わる。だから、いつまでも売れない本は何度も値下げを繰り返して、3色のシールが重なっているようなものもたまに見かける。ところが、これは他店で売っていたときのシールがそのまま残っているのだ。これを剥がしてみると……。

 

前の店では93円で売られていたことがわかった。

 93円でも売れなかったものを108円で売ろうとしているわけだが、ブックオフは最低価格が108円(当時)なのだから、こればかりは仕方がない。

 次に、この93円シールを剥がしてみると、その下は105円だった。

 

▲また別のデザインのシールが出てきた。

 これもブックオフのシールではないし、その前の店のものでもないようだ。どこのものかはわからない。もしかすると、店名が入っていないだけで、ブックオフの古いシールという可能性もあるのかな。

 そして、3層になっていたシールを並べてみるとこんな感じになる。

▲お客さん来なさすぎて暇なので、こんなことしかやることがない。

 

2015年1月ボ日

 スペースシャワーTVの番組「THE BAWDIES A GO-GO!!」から取材依頼があった。彼らが街歩きをするコーナーでマニタ書房を訪問したいのだけどいいですか? という問い合わせである。

 マニタ書房は原則としてテレビ取材は受けない(店主がテレビ嫌いなので)のだけど、BAWDIESはわざわざアナログ盤を所有している程度には好きなバンドなので、例外的に快諾した。

 ところが、それっきり連絡ナシでロケは実現しなかった。最終的に会議を通らなかったのかもしれないのでバンドに罪はないが、テレビはこういうことが多いので、ますます取材拒否の気持ちが高まるのである。

34 TRAと子供歌手と特殊辞典

2014年12月マ日

 20代から30代の後半くらいまで家を出て一人暮らしをしていたので、若い頃に買い集めたレコードコレクションは、母が物置の奥に突っ込んでいた。

 結婚して、娘が生まれて実家に帰ってきてからも、子育てとゲーム開発の仕事に追われて、音楽を聴く機会は極端に減った。まして世はCDの全盛期から音楽配信に移行しようという時代。物置の奥で眠るレコードのことなど思い出しもしなかった。

 それが、DJフクタケさんと出会ったことでレコードのおもしろさを再認識し、「そういえば昔集めたレコードはどこへやったっけ?」と物置を漁ったところ、いまではプレミア価格がついているようなレコードがゴロゴロと出てきた。昔のおれ、目が高いなー! という自画自賛はさておき、レコードと一緒に出てきたのが、カセットマガジン「TRA」だった。

 TRAって、わかりますかね? 毎号アートディレクションがバリバリに施された小冊子と、当時最先端の音源が収録されたカセットテープが同梱されたマガジンで、スペシャルイシューも含めればトータルで11号までリリースされたはず。

 収録されているミュージシャンは立花ハジメ、横山忠正(スポイル)、メロン、サロンミュージック、鈴木慶一かの香織(ショコラータ)といった顔ぶれで、あの頃のニューウェーブ野郎ならマストバイだった。もちろん、ぼくも小遣いをやりくりして毎号買っていた。

▲ダイモテープでラベルを作り、当時愛用していたTDKのカセットケースに収納。毎号カセットと凝った小冊子が特殊なケースに入っていたんだけど、それは捨てちゃってカセットしか残ってない。

 ということをTwitterでつぶやいたら、掟ポルシェが「とみさわさんがカセットブックのブックレットを捨てるって! 一体どういう状態だったんでしょう」とコメントしてくれた。

 ぼくは自分を「プロ・コレクター」と自称しているし、自著の記述からも世間的には「コレクションの鬼」と認識されているかもしれない。だから掟さんも、おそらくブックレットがボロボロになったから捨てたのではないかと思ったのでしょう。

 でも、事実は違う。

 ぼくはTRAの新作が発売されるとすぐに購入し、家でカセットを再生しながらブックレットを読み、読み終えたらそのまま捨てていた。カセットはその後も通勤の往復にウォークマンで繰り返し聴いたけど、ブックレットは一回読んだらもう用済み。

 上のキャプションにも書いたけど、TRAは毎号、判型の違う小冊子が特殊なデザインのケースに収納されていて、それがいわゆる“アート”でもあったんだけど、ぼくはそれが好きじゃなかった。シリーズ作品なのに規格が統一されていないものは、“テクノじゃない”から嫌いだったんですね。当時のぼくはクラフトワークの影響で「ミニマルなものほど美しい」と思っていたから、TRAも毎回TDKのケースに移し替えていた。写真を見てもらえればわかると思うけど、ピアノの鍵盤のようで、最先端のアートディレクターたちがデザインしたケースよりもこっちの方が断然美しいと思っていた。

 ケース付きで完品のTRAが全号揃っていたら、いまはオークションでもけっこうな値段がつくと思うけど、こればっかりはどうしようもないのだ。

 

2014年12月ニ日

 マニタ書房は古書店である。レコードもそれなりに在庫があるが、そのことを強くアピールしているわけでないので、レコードコレクターが来店することはあまり多くはない。

 今日は珍しく、レコードを探しているお客様がご来店された。その方曰く、集めているのは「子供歌手モノ」だとのこと。あいにく店頭のレコ箱には出していなかったが、そういう特定ジャンルのコレクターは応援したくなっちゃうので、マイコレクションの箱から「子供歌手」コーナーを見せ、まだ持っていなかったというレコードを5枚ほど買っていただいた。

 いい買い物ができたことも喜んでくださったが、それ以前にレコ箱に「子供歌手」という仕切り板があること自体にウケていた。

 

2014年12月タ日

 今日も物置の奥から出てきたレコードをひとつご紹介。

 ペレス・プラード楽団『タブー』の日本版シングルである。『8時だョ!全員集合』のコントBGMに使用されて人気が爆発し、リリースされた。ある時期まで「日本一のドリフグッズ・コレクター」を目指していたので、当然のように持っている。

 しかし、このレコードにはジャケットが2種類あるのをご存知だろうか。

▲イラストは、少年ジャンプで『漫画ドリフターズ』を連載していた榎本有也先生によるカトちゃんバージョンと、それが黒塗りされたバージョンがある。

 真っ黒に塗りつぶすなどという、レコジャケとしては不穏でしかないバージョンがなぜ存在するのだろうか?

 ペレス・プラードが「おれの曲(原曲はマルガリータレクオーナ)をストリップ扱いするのは許さん!」と怒ったのか、はたまた無断で絵を使って榎本有也先生に怒られたのか、その真相はわからない。『漫画ドリフターズ』は一度も単行本になっていないので、その辺に答えがありそうではあるのだけど。

 

2014年12月シ日

 今日から片平なぎさが「渚ガブトラ」に改名し、ヴァイキングメタルのヴォーカルで再デビューするというニュースを見て、そんなバカなっ! と絶叫したところで目が覚めた。

 ヴァイキングメタルはともかく、渚ガブトラって名前はどこから出てきたのか謎である。

 

 マニタ書房には「特殊辞典」というコーナーがある。どんな本が並んでいるかというと、たとえば「江戸時代役職事典」「給食用語辞典」「ペンパル辞典」「幕末明治見世物事典」などである。

 マニタ書房名物「極端配偶者」コーナーと同様に、開業以来まあ売れないんだけど、古書市などで変な事典/辞典を見つけると、つい仕入れてしまう。たとえ日々の売り上げに貢献しなかったとしても、こういう本の在庫が充実している古書店が、日本にひとつくらいはあってもいいじゃないですか!

 

2014年12月ヨ日

 今日も飽きもせず店を開ける。

 開店前のルーチンワークは、まずは入口ドアと窓を全開にして、空気を入れ替える。その後、壁面のすべての本棚にハタキをかけ、ホコリを飛ばす。無言でハタハタハタ……と本棚にハタキをかけていると、自分は「古本屋っぽいなぁ」と感じる。

 その後、床に掃除機をかけ、ゴミをまとめ、レジに電源を入れ、看板を出し、開店したことをTwitterでつぶやく。そしてお客様を待ちながら、締め切りがあるときは原稿を書き、締め切りがないときは在庫に値付けをしたりして過ごす。この生活がいつまでも続きますように、と願いながら。

 

2014年12月ボ日

 今日は1人もお客さんが来なかった。なんたること!

 でも、そのおかげで原稿の方はびゅんびゅん捗って、予定より2時間も早く書き上げることができた。

 お客さんがたくさん来れば売上げが増えるし、来なければ原稿料が稼げる。「マニタ書房」と「とみさわ昭仁事務所」の並行稼業、無敵なのかもしれませんね。

 

2014年12月ウ日

 今年も年内最後の営業日を迎える。

 このところ何度か主催している「ゲーム系のトークライブ」によく来てくれるお客様がご来店し、ゲーム雑誌やパソコン雑誌をごっそり買って行ってくださった。ゲーム雑誌は利鞘がそれなりに大きいので、非常にありがたい。これで正月の餅のランクを上げられる。

 毎年大掃除らしいことはしないので、最終日も通常営業。なんとなくデスク周りを片付けながら、ぼんやりと考え事をする。

 

 たけし軍団は、玉袋筋太郎を筆頭に狂った芸名(とくにエロ寄り)の人物が多い。あの水道橋博士だって、最初は亀頭白乃介になるはずだったという。

 心から尊敬する師匠に命名されるのだから、どんな芸名でも胸を張って名乗るだろう。むしろ、生半可な芸名よりも、〆さばアタルとか、大阪百万円とか、佐竹チョイナチョイナなんて名前をもらったら、大喜びで親に報告するはずだ。親御さんは頭を抱えるかもしれないけれど。

 芸人と違って、作家は自分でペンネームをつける。ぼくは本名を少し変えただけで、とくに面白味はないペンネームだけれど、同業者には北尾トロ、下関マグロ、武田砂鉄、鮫肌文殊、加藤ジャンプ、山下メロ、玉置標本といった珍妙ペンネームの人たちも少なくない。

 そんな彼らはかろうじて人間の名前の体を保っているし、仮にもっとエロ方面に振ったとしても、男ならまあそれも有りだろう。

 しかし、女性作家がよりにもよって山崎ナオコーラとか、辛酸なめ子とか、ろくでなし子とか、たけし軍団もかくやというペンネームを自ら名乗るのはどういう心理によるものだろうか。あまつさえ、まんしゅうきつこに至っては、なぜそれを選んだのかまったく意味がわからない。

 さすがに彼女は数年前に「まんきつ」に改名したが、元ネタの「マン臭がキツい」から離れることができていないところに、なんらかの闇を感じる。

 

 というわけで、来年もマニタ書房をよろしくお願いします。