33 ターンテーブルとプノンペンそばとマドモアゼル朱鷺

2014年11月マ日

 朝からあいにくの雨。だからというわけではないが、開業3年目にしてとうとうマニタ書房にも傘立てが導入された。といっても、標準的な傘を2本も挿せば一杯になってしまうごくコンパクトなものだ。もう少し大きなものにすることも考えたが、どうせうちは2人以上のお客さんが同時に来店することは稀なので、これでいいのだ。

 そして、夕方からはマニタ書房の開業2周年記念パーティーの準備。例年は開業日である10月28日にやるのだが、今年は10月24~26日までしりあがり寿隊長の岩手復興ボランティアに参加していたので準備がままならず、11月に延期したというわけ。

 最近DJ活動に目覚めてせっかくターンテーブル2台とミキサーを買ったのだから、それもパーティーで活躍させたい。だが、そのセッティングに大変苦労している。なぜなら、タンテを設置すべき場所にも古本の在庫やら本業の資料やら溜め込んだレコードが堆積しているからだ。汗をかきかき本とレコードを退けて場所を作る。

 

2014年11月ニ日

 パーティーの翌日は店休し、2日ぶりに店を開けに来た。去年は飲んだアルコール類の缶を潰して山盛り状態のまま放っぽらかして帰ったから、翌日店のドア空けたら酒臭いのなんのでたまらなかった。あのときの反省を活かして、今回はひとつ空き缶が出る度に水でゆすいでから潰しておいたので、まったく嫌な匂いはしなかった。片付けがきっちりできる人にとっては当たり前のことだが、ゴミ屋敷マンは強く意識しないとこういうことができない。

 

2014年11月タ日

 朝イチの新幹線で大阪へ向かう。いつもお世話になってるなんば味園のトークライブハウス「紅鶴」で「たのしいたべもの」と題するイベントに出るので、そのついでにブックオフめぐり&レコ屋めぐり&ご当地ラーメンめぐりをする3日間である。

 いちばんの目的はブックオフ大阪千島ガーデンモール店を訪ねること。6月に来阪したときは地理の事情がわからず、千島ガーデンモールに向かうための渡し船に乗れずに行くことができなかった。今回はそのリベンジなのだ。

 ブックオフのあとは堺へ移動して、プノンペンそばを食べる。豚肉と杓子菜とセロリがザクザク入って栄養満点。スープは鶏ガラ醤油だろうか。化学調味料たっぷりなので、どことなく大阪神座のラーメンにも似た味。ただしこちらは辛味が足してあってピリ辛。非常にぼく好みの味だ。近所にあったらかなり通ってしまいそう。

 基本はプノンペン(麺なしの野菜スープということか)で、それにそば(中華麺)を入れるかライスをつけるかを選ぶ仕組み。チャーシューのトッピングもある。遠くから食べに来てるのはぼく一人で、店内は近所の人たちだけで普通に繁盛していた。

▲にんにくもかなり効いている。また食べたい。

 結局、今回の大阪ツアーでは古本屋めぐりはそこそこに、ほとんどの時間をレコ屋めぐりに費やしてしまった。MINT Record、サウンドパックアナログ店、サウンドパック日本橋四丁目店、ワイルドワン、サウンドパック本店、ナカレコ、ForeverRecord、DISC J.J.をまわってトータル35枚購入。古本は2冊のみ。

 

2014年11月シ日

 ブラッド・ピットの戦車映画『フューリー』の試写状を頂いたので試写室へ。

 しかし、入場列に並んでいたら直前になって「もう座席が埋まってしまったので」と追い返されてしまった。試写室なんて席数がいくつあるかわかっているだろうに、ずっと並ばせておいて寸前になって「ここまでです」はないよ。おまけに、後から来た人が何人も入っていったということは、客に優劣があるのかもしれない。まあ、ぼくは見せてもたいして宣伝効果のない存在だから仕方ないのだろう。

 試写会では嫌な思いをすることが度々ある。それでしばらく試写会からは足が遠のいていたんだけど、『メタルマックス』の作者として『フューリー』は非常に楽しみなので、久しぶりに行ってみたらこの仕打ちだ。

 いまから4年前はほとんど仕事がなく、映画代を捻出するにも窮していた。だから試写状がもらえるのは本当にありがたかった。映画好きとして、いつかは試写会に呼ばれるようになりたいとはずっと思っていて、『人喰い映画祭』を出版したのを機にポツポツと試写状が届くようになった。それから4年、いろいろな試写会に行った。いい思いをしたこともあるけど、どちらかといえば嫌な思いをすることの方が多かった。詳しくは書かないけれど、映画業界の嫌な面をいろいろ見た。

 4年間タダで見せてくれて感謝している。でも、もういいや。おかげさまで最近は仕事も増えて、映画代くらいは払えるようになった。

 

2014年11月ヨ日

 マドモアゼル朱鷺が謎の失踪をしていた、というニュースが目に入ってきた。彼女は、小学生の頃から自分を女性であると性自認しており、どういういきさつを経て「マドモアゼル朱鷺」になったのかはわからないが、人気占い師として雑誌でも連載を持つなど、一時は各方面で活躍していた。失踪自体は2006年のことらしく、なぜそれがいまごろ話題に上がってきたのかは報道では語られなかった。

 朱鷺ちゃんとは、ぼくが下北沢に住んでいた頃によく通っていたバー「旬亭」の常連仲間で、何度か一緒に飲んだことがある。

 あるとき、彼女は買ってきたばかりの12色のサインペンと小さなスケッチブックを出して、カウンターに飾ってある花の絵をうれしそうに描きはじめた。この感性。ああ、彼女は心から女の子なんだなあと感じ入ったものだ。

 花を描いたから「女の子だ」と思ったのではない。買ってきたばかりのサインペンを家に帰るまで待てずに、寄り道したバーで広げてそのまま絵を描いてしまう、というピュアな感性。仕事の帰りに酒場に寄り道する大人の女性と、買ったばかりのペンが使いたくて我慢できない幼児性。このふたつが同居している彼女の姿に、とても豊かなものを感じたのだ。

 

2014年11月ボ日

 古本屋の店主はヒマそうに見えて、実際のところはやるべき仕事は多い。でも、本当にな~んにもやることがない日もあったりするわけで、そんな日は終始SNSを眺めて過ごしたりする。

 Twitterを見ていたら、誰かの「店でレコードを買うだけなのに“掘る”なんて(笑)」というつぶやきが流れてきた。

 ……わはは、言う言う。ぼくもよくレコードを探しに行くとき「レコ掘り」って言いますわ。たいていのレコ屋はまず「洋楽/邦楽」で大別され、さらに「ロック/歌謡曲/クラシック/民謡/ジャズ」などのジャンルごとに分類され、さらに在庫枚数が多いものは「男性/女性」の性別や「あいうえお順」などに分類して、目当てのレコードが探しやすいようにしてある。そんな至れり尽くせりのエサ箱を探って「掘る」も何ないもんだよ。

 でもね、たとえばレコファンの新入荷コーナー(あそこは男女はおろか、洋邦の区別すらしない)なんかを見ると、あそこは「掘る」としか言いようがないんだよね。

 で、マニタ書房はどうかというと、ご存じのようにきっちり分類しまくっているわけだけれど、でも、その棚にどんな本が何が並んでいるのかは、実際に店まで来て棚の本を見てもらわないとわからない。あなた好みの変な本を「掘る」店であろうとしているのだ。

 レコファンの「掘る」は、否応なしに掘らざるを得ない消極的な「掘る」。マニタ書房の「掘る」は喜びをともなう積極的な「掘る」。そのことは常に意識している。

 

2014年11月ウ日

 今日も朝から大雨だというのに、お客様が途切れず来てくださる。今日は1人目のお客様が秋元文庫光瀬龍『SF その花を見るな!』を手にして、「これ子供の頃から探してたんです!」と、なんとも嬉しそうな表情を浮かべて買っていかれた。思えば、あれが今日の縁起の良さの始まりだったのだろう。

 ひとつひとつの売り上げは小さいものでも、その積み重ねで古本屋は日々のおまんまを食わせていただけるわけで、とてもありがたいことである。こうした商人の喜びを実感しながら、毎日を過ごしている。

30 ファンコットとナスカジャンとドグラマグラ

※過去ログを遡っていただくとわかりますが、第30回(2014年8月分)が抜け落ちていたので、今月はそれをアップしておきます。

 

2014年8月マ日

 白石晃士監督の新作『ある優しき殺人者の記録』を見に、日比谷シャンテ内にある東映試写室まで出かけていく。刃物を持った殺人鬼に部屋に閉じ込められるというサスペンスを、86分ワンカット(で撮ったように見せる編集)で、一気に駆け抜ける。ビビりなので普段ホラーやサスペンスは積極的には見ないのだが、監督と共通の友人ら──深谷陽川崎タカオ、鮪オーケストラ、羽生生純、小出健(敬称略)に誘われ、ハンカチ握りしめて拝見した。

 鑑賞後は、試写会に居合わせた宮崎吐夢さんもお誘いして、有楽町のガード下まで歩いて行き、もつ焼き「登運とん」で一杯。

 

2014年8月ニ日

 ぼくがクラブカルチャーに疎いので知らないだけかもしれないが、DJ JET BARON(高野政所)氏は、インドネシアのダンスミュージックであるFUNKOTを見つけた瞬間のことを、どこかで語っているのだろうか? もし語っていないなら、ぼくが取材して「宝の鉱脈を発見したときの高揚感」を言葉にしたい。どこかの媒体で書かせてくれないものだろうか。

 彼がFUNKOTを発見して、現地まで体験しに行った話も訊きたいけれど、ぼくがもっとも興味あるのは、“それ”を見つけた瞬間なのだ。推測するに、ネット(おもにYouTube?)で様々な国の最新の音楽を漁っていて、あるとき偶然耳にFUNKOTが飛び込んできたのではないか。そのときどんな感情を抱いたか? 世界が変わる瞬間が見えたのではないか? そんなことを聞き出したいのである。

 FUNKOTだけでなく、他にも新しいカルチャーが生まれた瞬間、新しい技術を思いついた瞬間、誰も注目していない概念に気がついた瞬間、そういうものを取材していき、いつかは一冊の本にまとめたい。

 

2014年8月タ日

 今月の『UOMO』誌で、犬山紙子が連載中のコラムにぼくのことを取り上げてくれた。犬山さんは文章だけでなく絵も描く人なので、似顔絵付きである。街角の似顔絵描きとは別に、プロの絵描きに描いてもらった似顔絵も集めているので、またひとつコレクションが増えた。

▲どことなくパリッコくんにも見える。

2014年8月シ日

 今日からハードコアチョコレートのサイトにて、「ナスカジャン」の予約受付が始まった。皆さんにはぜひともたくさんの予約をお願いしたい。

 これまでマニタ書房には店名のロゴがなかったのだけど、ナスカジャンの背中に店名を入れる関係で、友人のデザイナー侍功夫@samurai_kung_fu)氏にロゴデザインを作ってもらった。コアチョコさん、月刊ムーさんにも負けないナイスなロゴだと思う。

 

 ※この日(正確には14日)こそが、10年後のいまでも新色がリリースされ続けているナスカジャンの歴史がスタートした日だと言える。つまり、毎年「肌寒みィでさァねえと君が言ったから八月十四日はナスカジャン記念日」なのである。目指せ280万着。

 

2014年8月ヨ日

 米倉斉加年(まさかね)氏訃報あり。彼のことはずいぶん長いこと斉加年(さかとし)と読むのだとばかり思っていた。もちろんいまはちゃんと読めるのだが。むしろ、有線などでKiroroの『長い間』が流れてきて「♪愛してる、まさかね~」という歌詞を耳にすると、必ず米倉斉加年の顔が浮かんでしまうようになった。

 俳優としての彼のことは『男はつらいよ』の巡査さんや、モランボンのCMくらいでしか認識できていないが、その何倍も印象に残っているのは、角川文庫の『ドグラマグラ』に代表される装画家としての顔だった。

 

32 ヘッドと天使と超芸術トマソン

2014年10月マ日

 神保町の事務所に出勤したら、気持ちは原稿を書きはじめたいのだけど、まずはその前に前日までに仕入れておいた本のデータを帳簿に入力する作業を始めて、ウォーミングアップする。程よく指先と頭脳が暖まったところで店を開店し、自分はパソコンの前ん陣取って原稿作業に集中する。

 古本屋とライターの兼業は、相互がまったく違う仕事なので、どちらかの仕事をすること自体が他方の仕事へのリフレッシュになり、とても効率がいいことが、開業から2年経過してようやくわかってきた。古本屋とライターの兼業はとても相性がいいので、ライターの皆さんはみんな自分の店を持てばいいと思うの。

 

2014年10月ニ日

 開業時に友人たちからカンパ(開業祝い)でもらった本のうち、大判のものがずっと売れずに残っていた。サイズのデカさと本の価値には因果関係はないのだけど、貴重な棚スペースを占有するデカい本は、不良在庫とまでは言わないまでも狭い店のお荷物にはなっていた。

 それが約1年半を経過した本日、あっさりと買われていった。ドナドナー!

 売り上げにすればたかだか300円のものだけど、その本が鎮座していたスペースがポッカリ空いたのがうれしい。

 そこに同様のデカい本を置くか、棚を細分化してもう少し小さい本を複数置けるようにするか、閉店後に考えよう。ああ、古本屋っておもしろい仕事だなあ。

 

2014年10月タ日

 うむむむむ。今日は我がマニタ書房の形容詞である「特殊古書店」の、“特殊”の部分をエロ方面に都合よく解釈したお客様ばかりが続々とやってきて、店内を睥睨してはものの10秒で帰っていくことが続いた。そのせいか気が散って原稿が書けやしない。

 やはり外には看板を出さない営業形態に変えるべきだろうか?

 

 あるお客様がSNSでこんなことをつぶやいていた。

「普段は本屋へ行って棚をぼんやり見ていると、気になる本がピカー! っと光って見えるんですよ。だけどマニタ書房へ行くと、全部の本が光って見えちゃって、クラクラしてしまうんです。まるでビックリマンの「ヘッド」と「天使」のシールしかない感じですよ」

 この感想はとても嬉しかった。なぜなら、まさにそうなることを狙って店の棚作りをしているからだ。

 ぼくはビックリマン世代ではないので「ヘッドと天使のシールしかない感じ」を正確に理解しているとは言えないが、プロコレクターなので、その気分はわかるつもりだ。

 ブックオフで古本の仕入れをする際、100円均一の棚を俯瞰的に眺めて、ピカっと光る本だけをセドリしてマニタ書房に並べる。だから、うちの棚の前に立って「全部の本が光って見える」というのは、そんな感想を抱いた方の感性がぼくと同じだということで、こんな嬉しいことはないのだ。

 

2014年10月シ日

 夜9時まであと少しというところで原稿仕事が終わって、そろそろ店も閉めようか……と思ったタイミングでお客様がご来店してきた。

「何時までやってますか?」

 と訊かれるが、今日初めてのお客様だし、せっかく4階まで上がってきてくれたのだから、いちおうそろそろ閉店するつもりだったことは伝えつつも、帰り支度するまでの30分くらいならどうぞと、招き入れる。

 結局、30分ほどばっちり棚を見ていかれて、ぼくの『人喰い映画祭』を含む8冊ほど買ってくださった。とてもありがたいことである。

 

2014年10月ヨ日

 赤瀬川原平さんご逝去の報を受ける(10月26日)。

 こういうときにこそ、赤瀬川原平関連書籍の在庫を棚に並べ、なんならコーナーも作り、この機会に少しばかり値上げすらしておくのが古書店主としては正しい行動なのかもしれない。でも、ぼくはそんなことをするために古本屋を始めたわけじゃない。訃報によってにわかに注目を浴び、名前を目にする機会が多くなっているいまだからこそ、赤瀬川さんの蔵書を目立つところに並べて、未来の読者の目に触れさせる努力はすべきだろう。それくらいはする。でも、値上げはしたくないなあ。そんな生き方は先生からは習っていない。

 ぼくが「これは集めたらおもしろそうだぞ」と収集テーマを見つける際の考え方は、間違いなく赤瀬川原平さん(とそのお仲間)の活動から影響を受けている。それくらい「トマソン」と出会ったときの衝撃は大きかった。ぼくは赤瀬川さんから「常に新しい視点を持ち続けよ」ということを教わったのだと思っている。

 

2014年10月ボ日

 今日も午前中からのオープンは叶わず、店を開けたのは夕方になってからだった。どうにも店主自らが「特殊古書店」という言葉に甘えているような気がする。そんなことではいけないのだ。

 昼よりも夕方以降の方が開いてる率が高いマニタ書房。今後は「特殊古書店」ではなく「夜の古本屋」を名乗ってはどうか? なーんてことを考えたりもするが、そんなことしたら「“特殊”の部分をエロ方面に都合よく解釈したお客様」たちの誤解を深めるだけなので、やらないのです。

31 古本トリオとてつ麿先輩と立川談豪

2014年9月マ日

 早野凡平の『あゝお酒』という曲は、バラクーダの『日本全国酒飲み音頭』より2年も先に出ているが、そのコンセプトはまったく同じである。しかも、『日本全国酒飲み音頭』はご存知のように『ビビデ・バビデ・ブー』の替え歌だが、あゝお酒』はというと『月光価千金』の替え歌だという共通点もある。

 🎵一月はお正月、おさけがのめる~

  二月は節分で、おさけがのめる~

  三月はひなまつり、おさけがのめる~

  四月は花見で、おさけがのめる~

 と、このように続いていく歌詞は、一見『日本全国酒飲み音頭』のようだが、『あゝお酒』の歌詞なのである。

 世の中のほとんどの人が知りもしないし、興味もないだろうことをあえて書いてみた。

 

2014年9月ニ日

 忘れた頃にやってくる、年に数度のお楽しみ「せんべろ古本トリオ」のツアーの日である。この日まわるのは西武池袋線の沿線で、当日の日記をもとに訪問店を書き連ねておくと、

 椎名町 正ちゃん(集合場所の酒場)

 江古田 根元書房

 ブックオフ江古田店

 銀のさじ書店

 根元書房(壁面本棚が壮観)

 ひょうたん(タイ料理)

 ブックオフ練馬区役所前店

 石神井公園 草思堂

 きさらぎ文庫

 大泉学園 ポラン書房

 所沢 彩の国古本まつり

 新秋津 古本らんだむ

 サラリーマン(居酒屋)

 秋津 野島(焼き鳥屋)

 となる。

 ※いま振り返ってみると、初老のオヤジ3人がよくぞこれだけ歩き回れたものだ。しかも終盤には大スケールで知られる彩の国古本まつりにも行っているわけで、たった10年前とはいえ我々もまだまだ元気だったのだ。同じことをまたやれと言われても、さすがにもう無理だろう。

▲いい歳こいていちいち着る服が派手なオヤジ衆である。

2014年9月タ日

 ピープル江川さん(https://x.com/pegawa)がTwitterでつぶやいていたハッシュタグ「#こんな保育社カラーブックスを読みたい」がおもしろい。江川さんの『日本全国中古レコードショップ』を皮切りに、『全国芸人営業旅』『原色全国うどん図鑑』『世界の集客に失敗したロックフェスティバル』『日本の銭湯』などなど、いろんな人のつぶやきがいちいちツボに入る。

 ぼくも何かいいのないかなーと考えて、『日本全国立ち食いそば1000軒』を挙げてみた。

 

2014年8月シ日

 手当たり次第に青い鳥文庫を読んでいる娘ちゃんに、そろそろ一般小説の世界も知ってほしくて、ブックオフめぐりのついでに中2女子なら楽しめそうなものを見繕って来た。ラインナップは『アルーマ/高瀬美恵』『ラッキーマウスの謎/宗田理』『秘湯中の秘湯/清水義範』『長い長い殺人宮部みゆき』など。

 本来なら新刊で買うべきなのはわかっているが、いまは父が少ない稼ぎの中から未来の読者、未来の本買いモンスターを育成中なのだとご理解いただきたい。

 

2014年9月ヨ日

 通りすがりの若者5人組が、堀道広さんの看板イラストに惹かれたと言いながら入店してきた。みんなで棚を見渡しながら大喜びしている。そのうちの一人が「店主の本コーナー」を指差し「えっ、これ書いた方なんですか!」と驚きの声をあげた。なんでも『人喰い映画祭』を読んでくれていたそうなのだ。

 結局5人で本や雑貨などいろいろ買い物してくれて、平日なのにそこそこの売上げを達成した。誠にありがたいことである。

 そうかと思えば、日が暮れた後には会社から帰る途中の初老の男性が来店し、奥の棚まで行って引き返し、首を傾げながら10秒で退店していった。こういう人は、たいてい「ビルの4階」「特殊書店」という怪しげな情報と、看板に書かれたいくつもの取り扱いジャンルの中のひとつでしかない「エロ」という単語に過剰反応して、「ひょっとして裏本とかあるのでは……?」と期待してきたお客さんなのだ。もちろん、そんなものがこの時代にあるわけもないのだが、そう誤解をさせてしまったのなら申し訳ないことである。

 

2014年8月ボ日

 昨晩のこと。店を閉めて、マニタ書房から徒歩1分のところにある居酒屋「酔の助」へ飲みに行ったら、隣の席で飲んでいる客の横顔が漫画原作者黒沢哲哉さん(「ファミコン神拳」のてつ麿先輩)に激似だった。えっ、本人? それとも他人の空似?

 黒沢さんはお酒を飲まない方なので、こんなところにいる可能性は低い。しかし、同席してる人にも見覚えがあるし、やっぱり黒沢さんなのだろうか……。

 いまいち確信は持てなかったけれど、下戸のはずの黒沢さんが飲んでいるドリンクを見れば烏龍茶。それで間違いなかろうと声をかけたら、やはりご本人だった。同席している人は、以前に一度だけお会いしたことのある漫画家の☆よしみるさんだった。

 彼らは、近々刊行する『伝説の70~80年代バイブル よみがえるケイブンシャの大百科』(いそっぷ社)の出版記念トーイベントの打ち合わせで、この店に来たという。出版関係者が神保町にいるのは珍しいことではないが、なかなかおもしろい偶然だった。

 

2014年9月ウ日

 ヤフオクで落札したレコードが届いた。かれこれ30年は追いかけてきたロックスター・水木豪の、新発見のレコードだ。

 これまでにぼくが確認してきた限り、水木豪のレコードは2枚の7インチしか存在しないはずだ。ロックバンド「水木豪&ウルフ」名義の『MORNING LOVE/早撃ちマック』(ソーラスマーキュリー)と、フォークデュオ「ウルフ」名義の『モーニング・ラブ/愛はイリュウジョン』。縁あって元メンバーとコンタクトを取ることもでき、それで間違いないことは確認している。

▲フォークデュオの時点ですでに覆面。

 いちおう、ヤフオクのアラート機能に「水木豪」というワードを登録していて、ときどき上がってくる出品を欠かさずチェックしているが、それらはすべて上記した「水木豪&ウルフ」名義のソーラスマーキュリー盤だけだ。「ウルフ」名義の『モーニング・ラブ』は自分が1枚見つけたっきりだし、それ以外の未発見盤にも出会ったことはない。

 長いことその状態が続いていたので、ぼくはこの2枚しかないと思い込んでいた。

 ところが。

 先月、ヤフオクのアラートに見たことのない商品の出品が引っかかった。「立川談豪」の『道化師/わたし酒場の女』というレコードだ。なぜ、これがアラートにかかったかというと、ジャケ裏に印刷されている歌手のプロフィールが出品の商品説明欄に転載されていて、そこに「水木豪」という文字列が含まれていたからである。

 えっ、これはどういうこと?

 文面によると、このレコードの主である立川談豪氏は別名「水木豪」でのバンド活動を経たのち、落語立川流に入門して立川談豪の名をもらったという。マジか? あの水木豪が立川流に入って落語家になっていた!? そんな話は初耳である。でも、ここに現物があるのだから間違いない。

▲革パンを履いているところにロックスターの片鱗が。

 ぼくは立川流にさほど詳しいわけではないが、Aコース(本筋の弟子)で修行をして高座名までもらっていたら、その名前を知らないわけがない。水木豪はバンドマン出身だからBコース(芸能人用)という可能性もあるが、それにしたって同様だ。したがって、考えられるのは金さえ払えば名前をもらえるというCコース(一般人用)だ。こちらで名前を買った立川なんちゃらの全貌は、落語マニアだって把握しきれるものではないだろう。

 ともかく、ギタリストとのフォークデュオ「ウルフ」から、バンド形式の「水木豪&ウルフ」になり、バンド解散後、立川流に入門(?)して立川談豪になった、という図式は判明した。

 しかし、今回手に入れたレコードに書かれたプロフィールをよく見て、ぼくはさらに衝撃を受ける。そこには「二代目藤村縁郎」の名前で「活弁士」をやっているとの記述があったからだ。

 インターネットはとても便利なものだが、知らないものは検索できない。だけど、言葉(固有名詞)さえわかれば、検索でかなりのことを知れるし、関連商品も見つけられる。ながらく2枚の7インチしか存在しないと思っていた水木豪も、立川談豪という名前を知ってみれば、これまでに何度かそのレコードが出品されていたことがわかる。

 では、「藤村縁郎」はどうだろう?

 即座にその名前で検索してみたところ、あっけなく『映画百年:顔のない戦士たち』という本が見つかった。まさか、水木豪に著書があったなんて……。

 この本を取り寄せ、ページを開いたぼくは更なる衝撃を受けるのだが、長くなりすぎるのでそれはまた別の機会に──。

 

29 ばむと幻のチンタマとアーカイブック

2014年7月マ日

 ふと、疑問が頭に浮かぶ。「夏は暑く、どうしても汗ばむ」などと言うときの「ばむ」ってなんだろうか? と。

 たとえば四季の変化で「春めく」と言えば、その「めく」は動カ五、すなわち動詞カ行の五段活用ということになる。では「汗ばむ」はというと、動マ五──動詞マ行の五段活用だと言うことまではわかる。でも、ぼくが知りたいのはそんなことじゃない。

 春めくの「めく」は、「すっかり秋めいてきましたねえ」というように、秋にも適用することができる。しかし、同じ四季でも「夏めく」「冬めく」とは言わない。そこにぼくは不満があるのだが、それはいまは追求しないでおく。

 季節以外にも、「煌(きら)めく」や「仄(ほの)めく」や「騒(ざわ)めく」など、「めく」はたくさんのバリエーションがある。なのに、汗ばむの「ばむ」には他の活用例が見当たらないのだ!

「近頃すっかり夏ばんできましたねえ」とは言わない。「すっかり暑ばんだので、汗を流しに風呂ばみますか」とも言わない。「神保町の古書会館で古本を掘りばんだり」もしない。

 ……と、そんな話を平日の昼間の酒場でしていたら、相棒が「黄ばむがあるでやんす!」と叫んだ。おお、それがあったか。しかし「汗ばんでシャツが黄ばむ」だなんて、イヤな用法ばかりだねえ。

 それに、同じ色の名前でも、青ばむ、赤ばむ、群青ばむとは言わないのはなぜなんだ! 黄色だけ優遇か! ぼくは気色ばんで詰め寄るのだった。

 

2014年7月ニ日

 ひと足先に献本していただいた『本の雑誌 2014年8月 ヤカンがぶ飲み特大号 No.374』を読んでいる。この号は第一特集が「ブックオフでお宝探し!」で、ぼくがアクセル全開で協力させてもらっている。ブックオフマニアたちのどうかしている様子が堪能できるので、ぜひ買っていただきたい。

www.webdoku.jp

 

2014年7月タ日

 マニタ書房のビルが入っている1階の時計屋は、よくご主人が店先でタバコを吸っている。いま、Tシャツ・ラブサミットへ向かうために外へ出たら、一服しているご主人と目が合った。「お出かけですか~」なんて言われたもんだから、つい反射的に「レレレのレ~」と返事しそうになったが、彼とはそういう関係じゃないのだと我に返り、どうにか思い留まった。

 

2014年7月シ日

 本日もマニタ書房を開けた。しかーし! 用事があるので、あと2時間後には閉めてしまうのだ。恐怖の2時間営業である。君たちは入店できるか!?

 どうなってるんだ! やる気あンのか! ほとんど休みじゃねーか! とお怒りの皆さん、抑えて抑えて。明日は17:15にはオープンできるでしょう。夜も21:00頃までやりたい……気持ちはあるんですが、この陽気ですからね。少し早めに閉めてビール飲みに行っちゃうかも。

(※開業から2年目のこの頃までは、まだ営業意欲が低かったのである)

 

2014年7月ヨ日

 本日発売の『屋上野球 vol.2』には、とみさわの連載「古本三角ベース」第2回が掲載されている。この連載の話が来たのは「ナビブラ神保町」で「古本珍生相談」の連載が決まったのとほぼ同時のタイミングで、こりゃ忙しくなるぞー! と思ったけれど、『屋上野球』は月刊どころか季刊ですらなく、年2回刊だから、全然ヒマなのだった。

 ちなみに、「古本珍生相談」は略称が「フルチン」になるようにタイトルを付けた。なので『屋上野球』での連載も珍本と野球を絡めた内容にして、うまいこと「チンタマ」とかそういう感じにならないものかと無い知恵を絞ってみたが、うまくいかなかった。毎日そんなことばかり考えて暮らしている52歳です。

屋上野球 Vol.2

屋上野球 Vol.2

  • 編集室 屋上
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2014年7月ボ日

 過日、まついなつきさんがご友人とマニタ書房を来訪。noteにそのときの感想を書いてくださった。

note.com

 一部引用する。

「マニタ書房」に集められている本たちは、現在は大人になったわたしたちが子どもの頃に、図書館や本屋や親や親せきの書棚の前で、え、これなんだろう?と好奇心が赴くままに手に取った、お勉強のためでも、ひまつうぶし(ママ)のためでもない、子ども向けに書かれているわけでもない、少し背伸びして、大人の世界(戦争、人種差別、セックス、コンプレックスなどなど)、またはこの世界の真理や謎(UFO本や未確認生物本、心霊本などなど)に近づく!という興奮のための本。

 そう、ぼくがマニタ書房に並べているのは、まさしく「この世界の真理や謎に近づくという興奮のための本」だ。初訪問にしてマニタの神髄を読み取ってしまう眼力に、心底敬服した。

 

2014年7月ウ日

 世におかしな本はたくさんあり、それらを言い表す言葉も様々だ。トンデモ本、アホアホ本、フールブック……。ぼくも自分の集めている変な本に、いいネーミングをしたいなとは常々思っている。

 どんなバカな内容の本でも、ぼくはそれを愛しているので、それらを「バカ本」とは言いたくない。コラムで取り上げたりするときには暫定的に「珍本」と言ってるけれど、それも実はピンとこなことが多い。

 友人の噺家の三遊亭楽市が、「咄のマクラの中で、道楽者というと聞こえが悪いから趣味人と言うんだ、というのを教わったことがあります。なんでも言いようですね」と言っていた。

 なるほどねえ。語感的には道楽者の方が、より江戸の風を感じるので、自分を指すときは自虐的な意味も含めて道楽者でいい気がするが、他者を呼ぶときは趣味人の方がたしかにセンスがいい。

 ムカエマカスハガ、へんじく……みうらじゅんさんの考えるネーミングは、常に対象を揶揄するニュアンスが含まれているけれど、なぜかイヤな気持ちにならないのは、やっぱりご本人の人柄だったり、作風のせいなんだろうな。あの人の領域にはなかなかたどり着けない。

 珍本とは別に、ぼくは何かを集めた本、特定の情報を追求した本が好きで、見つけるとすぐに買う癖がある。それらの本のことは「何かをアーカイブした本」ということから「アーカイブック」と呼ぶことにしよう。

28 横溝正史の世界と髑髏ベレーと映画のパンフ

2014年6月マ日

 昨年でライター生活30年を迎えたため、12月に新宿のロフトプラスワンで「とみさわ昭仁30周年記念トークライブ〈蒐集100万年〉」を開催した。ぼく自身はそれで十分満足したのだが、DJ急行&セラチェン春山コンビが大阪でもやりましょうと言ってくれて、半年後となる6月に大阪での「蒐集100万年 in ロフトプラスワン・ウエスト」の開催となった。まことにありがたいことである。

 いつものように新幹線で大阪入り。物販用に著書などをたくさん持ち込んだが、急行&春山コンビの尽力で客入りも良く、おかげさまで完売することもできた。

 大阪で一泊し、翌日はレンタカーを借りてのブックオフ巡りだ。ホテルを出発して「東大阪御厨店」「東大阪吉原店」を回り、三重県に入って「三重上野店」。上野ということは伊賀上野、つまり伊賀の里のブックオフである。そして次に向かったのが「滋賀水口店」。そう、甲賀の里のブックオフだ。今回のブックオフ巡りは、伊賀と甲賀という二大忍びの里にあるブックオフをハシゴすることが目的だったのだ。これといった収穫はなかったが、その目的を果たせたので満足度は高い。

 そこから名古屋までクルマを飛ばし、名古屋の支店でクルマを返却。伏見地下街にある(当時。現在は移転)「Biblio Mania」さんを初訪問する。こちらの店主は以前マニタ書房に訪ねて来てくださったことがあり、その際にBiblio Maniaがどんな店かを聞いていたので、いつかは来てみたかったのだ。噂通りの特殊古書店ぶりで、大いに楽しませてもらった。

 

2014年6月ニ日

 山梨県の根津記念館まで「イラストレータ杉本一文が描く 横溝正史の世界」を見に行く。

 横溝正史との最初の出会いは、中学時代に姉が買ってきた『八つ墓村』だ。それまで推理小説といったらポプラ社の「少年探偵団シリーズ」と、同じくドイルの「ホームズ・シリーズ」を数冊読んだ程度だったので、横溝の本気が詰まった『八つ墓村』には度肝を抜かれた。その後、1976年に『犬神家の一族』が映画化され、その大ヒットと連動して横溝の旧作が次々と角川文庫で復刊された。以後、『本陣殺人事件』『獄門島』『悪魔が来たりて笛を吹く』といった代表作はもちろん、それ以外のタイトルも片っ端から買い集めて読んだ。しまいには『真珠郎』や『貸しボート十三号』にまで手を出し、微妙な気持ちになったものだ。まあ、それくらい杉本一文のイラストには馴染んでいるということだ。

▲建物自体がすでに横溝正史の世界のようだ。

 せっかく山梨まで来ているので、当然のごとくブックオフ巡りもしていく。すると、「甲府平和通り店」で『三つ首塔』の旧イラスト版、「20号山梨石和広瀬店」で『悪魔が来たりて笛を吹く』の旧イラスト版を発見した。原則としてマニタ書房では小説を扱わないようにしているが、これも何かの縁だと感じてセドリしておく。

 その後も「甲府下石田店」「田富昭和通り」と回って、最終目的地である「双葉響ヶ丘店」に来てみたら、ちょっと他では見ない感じの外観に驚かされる。

▲左の円筒部分は店舗としては使われていなかった。

 ブックオフは現地まで行かなくても、住所をGoogleマップストリートビューにかければ、どんな建物かは判明する。だから、全リストから順番に試していけば、ピンポイントで珍物件を知ることができ、それを目指して訪問することもできる。でも、それでは今回のような驚きがなくてつまらない。やはりこういう珍物件は先入観を持たずに現地訪問して、その初見でのインパクトを得るのが大切なのだ。

 

2014年6月タ日

 マニタ書房では、一般的に有名なレア本はあまり扱わず、それより「わかる人にはわかる本」を置くようにしている。その象徴的な商品が『リスを捕って売れ!』だったりするわけだが、じゃあ、うちの店に来て『リスを捕って売れ!』を手に取り「なんだこれ? おもしれー!」と思った人がこの本のために財布を開くかというと、それは別の話であって、まず売れることはない。そんなことは百も承知なのだが、根本敬さん言うところの「でもやるんだよ!」精神で、ぼくはこういう本を仕入れ続けている。

 そんなやり方ばかりしているから、商売としてのマニタ書房はほとんど成立していない。開業から2年、いまだ赤字の月の方が多いのにやめずに続けているのは、神保町のこの場所がライター、プランナー、プロコレクターである“とみさわ昭仁”のアンテナショップとして機能しているからだ。

 と、本人は達観しているつもりなんですけれど、それでもごくたまに「おっ、その本をチョイスする? さすが、わかってらっしゃる!」と思わされるお客さんが現れましてね。そういうときは「同志発見!」の喜びで、レジを打ちながらもつい声をかけてしまったりするよ。

 

2014年6月シ日

 松本零士先生の著者近影って、初期のコミックスとかを見ると、無地の黒いベレー帽を被った写真に、(印画紙の?)上からホワイトでドクロ(ジョリー・ロジャー)を描いているものがある。ところが、いつの頃からか落描きではなく、実際にドクロが刺繍されたベレーをかぶっている写真に変わるんだよな。

 あれは先生本人がオーダーメイドで作ったのか? ファンからの贈り物なのか? はたまた奥様の手作りなのか? その経緯が知りたい。

 ……という話をTwitterでつぶやいたら、漫画家の後藤羽矢子さんが「女性アシスタントさんの手作りらしい」と教えてくださった。そのアシさんは松本先生のプロダクションを辞めたあとも、先生がお気に入りの帽子だけは作り続けていたそうで、実にいい話である(※のちに商品化もされたことがある)。

kamashima.com

 

2014年6月ヨ日

 たとえばの話。

 マニタ書房を「営業時間は夜の7時まで」と規定したとする。そして7時が近づいてきて、そろそろ看板を下げようと思っていたところにお客様が来店し、だいたい30分ぐらい滞在されたとしよう。すると、結局7時半まで営業したことになる。

 じゃあ、それを見越して6時半の時点で看板を下げてしまうと、その直後に来たお客さんの目には、7時までやってると言っていたマニタ書房が告知よりも30分早く閉まっているように見えてしまうことになる。

 閉店時刻ちょうどまでは外に看板を出しておき、どのタイミングでお客様が入店しようとも、閉店5分前になったら「蛍の光」を流してアピールするというのは、路面店なら可能なことだろう。しかし、マニタ書房はビルの4階である。1階の階段前に看板が出ているのを見て4階まで上がってきたお客様に「もう閉店の時間なんです」とは言いづらい(何度か言ってしまったこともある)。

 4階の店内に居ながらにして、手元のスイッチで1階の看板が格納されたり、電灯が消えたりするシステムの開発が急がれる。

 

2014年6月ボ日

 天久聖一さんのWeb連載「家庭遺産」に、ぼくの「ブックオフの値札玉」が登録されることになった。実に光栄なことである。

www.asahi.com

 天久さんの仕事はだいたい目を通しているが、いつも感心するのは「もやもやしていた概念を“作品”や“命名”でわかりやすく実体化してくれる」ことだ。それ象徴する企画のひとつが『味写』シリーズであり、ごく普通の人が、ごく普通の日常を、1枚の写真で切り取ったとき、たまさか発生する「おかしみ」を形にしてくれている。そこに付けた「味写」というネーミングも見事だ。

 今回の「家庭遺産」もそれに類するもので、どの家にも当たり前にある、ずっと前から存在していて本人たちは無自覚な──他人にはゴミクズにしか見えないもの──の価値を見い出し、それを「遺産」と認定したことが素晴らしい。そして、認定された本人にとってはとてもおこがましくて、なんともくすぐったいのだった。

 

2014年6月ウ日

 映画のパンフレットの話。

 ぼくは映画を見ていて、いちばん知りたいのは劇中で使用された音楽が「誰のどの曲か」だ。エンドロールで使用曲のクレジットが流れ始めたら必死で目で追うのだけど、それで目当ての曲を特定できた試しは滅多にない。見る気がないエンドロールは遅く長く感じるものだけど、何かを探しているときのエンドロールは早く短く感じるのだ。ぼく自身に英文字を目で追う習慣がないことも影響しているだろう。

 聴き馴染んでいる曲はエンドロールを見るまでもないが、曲だけは知っていてタイトルやアーティストがわからない曲、初めて聴いたがすごく気に入った曲などを特定するのが困難だ。『JOKER』で、あの階段のシーンに使われた曲がゲイリー・グリッターの「Rock and Roll Part II」であることを特定できたときはとても嬉しかった。

 若い頃は映画の情報に飢えていたので、劇場で見た映画のパンフレットはいつも買っていた。が、いつしか買わなくなってしまった。値段の割に情報量が薄いからだ。とくに不満なのが「劇中で流れた曲のクレジットを掲載していない」ことである。そこがいちばん大事なのに!

 人によっては曲情報よりも、キャスティング情報、スタッフ情報が欲しいという場合もあるだろう。撮影時にどのケータリング業社が使われたか知りたいという人もいるかもしれない。

 ともかく、エンドロールで流れる文字情報をそのまま掲載してくれるパンフレットだったら無条件で買うのにな。もしかするとそういうのもあるのかもしれないが、映画のパンフレットは立ち読みができない。必ず載ってるという保証がなければ、そんなもの怖くて買えないよ。

27 尾崎と竹中直人とブッコロールシャツ

2014年5月マ日

 朝イチから八王子まで出かけて、駅の北口、西放射通りユーロードで展開されている古本まつりを見てきた。ここは自分と相性のいい古書市で、いつ来ても何らかの収穫があるのだが、今日は2時間くらいかけてじっくりワゴンを見て回ったが、これといって欲しい本がなかった。そんな日もある。

 ところで、途中、ある古書店が出しているワゴンのうち、およそ半分くらいがすべて尾崎豊に関する本で占められている光景を見た。おそらく熱狂的な尾崎マニアが、ある日ぱたりと熱が冷めてしまったのか、あるいは病気か何かでこの世を去ってしまったのか、その理由は定かではないが、蔵書を処分することになったのだろう。

▲ぼく自身は尾崎は聴かないけど、ロマンポルシェ。の『盗んだバイクで天城越え』は愛聴盤です。

 これは古書市あるあるのひとつで、特別珍しいことではない。過去にも、ブックオフ勝目梓西村寿行の作品がどっさり放出されているという、どえらく濃厚な棚を見たことがある。マッチ(近藤真彦) の切り抜きがびっしりスクラップされたクリアファイルが売られているのを見たときは、大人の階段を登ったのであろう売り主の少女の姿を想像して、微笑ましい気持ちになったものだ。

西村寿行大藪春彦はほぼ全作を読破したけど、勝目梓はちょっとエロっぽすぎて読んでません。

 

2014年5月ニ日

 2000年生まれの娘(つまり、いま14歳)から「おとうさん〈オリコン〉って何? アルバムチャートって何?」と訊かれて、答えに詰まった。

 いや、ぼくの子なのでプレイヤーでレコードを再生しているところは何度も見ているから、アナログレコードというものを知らないわけではない。けれど、レコードセールスとチャートの概念を、いまの時代の子供に説明するのは難しい。音楽情報サイトとしての「オリコン」はいまもあるが、いまどきの音楽好きで、ナタリーではなくわざわざオリコンを見に行く人間はどれほどいるだろう? 

 そもそも「アルバム」という概念すらよくわかっていなかったようで、「アルバムというのはだいたい12曲~15曲ぐらい入っていてね……」と説明したら、「そんなに!」と驚かれた。

 

2014年5月タ日

 今日はマニタ書房の営業は休みにしているが、雑用がいろいろあるのでドアを閉め切って室内で作業に勤しむ。仕入れておいた古本をクリーニングしたり、値付けをしたり、帳簿をつけたり。フリーライター業でも、締め切りが近い原稿の資料を揃えたり、下書きをしたり、請求書を作成したりと、なんだかんだでやるべきことは多い。

 ひとしきり作業を終えたあと、休憩がてら松永豊和の『バクネヤング』を読んでいたら、突然、知らない人がいきなりドア開けて「ここ、どんな本を扱ってるんですか?」と言いながら入ってきた。

 1階に看板を出しておらず、階段の電気も消していたのに、まったく頓着せずに4階まで上がって来て、ノックもしないでいきなりドアを開けるって、どういうことかしら?

 でも、こんなことは初めてじゃない。店を始めてかれこれ2年。これまでにも、営業中を示す看板を出していないのに4階まで上がってきて、店のドアが閉まっている(普段は掛けている「営業中」の札も掛かっていない)にもかかわらず、ドアを開けようとするお客さんは度々やってきた。まあ、そんな場合でも時間に余裕があるときは「15分程度であればどうぞ」といって招き入れてきた。

 ぼくにとって、マニタ書房は店舗であると同時に、自分の仕事場──つまりプライベートスペースでもあるが、お客様からしたら出入り自由な古本屋、という認識の違いがあるのだろう。それは無理もない。この温度差の違いをどうするかは、今後の課題だと言える。

 

2014年5月シ日

 竹中直人は『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」に出てきたときから見ていて、大好きなコメディアンの一人である。1984年にはラジカル・ガジベリビンバ・システムの前身であるドラマンスの舞台公演『かわったかたちのいし』も見に行った。

 竹中さん本人は多摩美在学中から映像演出研究会に属し、コメディアンとして芸能界デビュー後も俳優座で役者の道を目指していたほどに映画・演劇が好きな人で、自身が監督を務めた映画『無能の人』と『119』をぼくはとても高く評価している。

 ……のだが、いつしか竹中直人は邦画界において、なんだかウザい存在となってしまった。本来はしっかりとした芝居のできる人だと思うのだが、映画に竹中さんが出てくると、ほぼいつも過剰な道化の役回りを演じていて、ああウザい! と感じてしまうのだ。

 どうしてそうなってしまうのか? それは、本来そういう道化を必要としていないような映画にも出させてしまうからだと思うのだ。『スウィングガールズ』の竹中直人とか、あきらかに要らない役でしょう? あの人のいい意味での破壊力を、ああいう映画の中で安売りしてはいけないよ。

 竹中直人は、かつての『喜劇駅前シリーズ』とか『日本一の○○男シリーズ』のように、何かハマり役を設けてあげれば、日本映画史に残る喜劇役者になるような気がする。竹中さんは『若大将シリーズ』なんかも大好きな人だから、そういう企画をだれか持ちかけてあげればいいのに。

 

2014年5月ヨ日

 神奈川の未踏のブックオフ巡りのついでに、港南台にあるリサイクル書店「ぽんぽん船」に来た。ここは、ブックオフの創業者である坂本孝さんが、この店を見てブックオフの業態を思いついたという、由緒ある古本屋だ。だから、いつかは来なければいけないと思っていた。ブックオフマニアにとっての聖地なのである。

 店内をひと通り見て回り、なるほどと思ったブックオフとの共通点を挙げておく。

 

 ①古書店にしては広くてきれい。

 ②商品もきれいな古本しか置いていない。

 ③値段はだいたい定価の半額と100円均一のものに分かれている。

 ④比率的には圧倒的に100円均一の量が結構多い。

 

 だいたいこんな感じ。店の外観はとくにブッコロール(赤青黄のブックオフトリコロールのこと)に塗られていたりはしなかった。それはまあ当然のことである。

 帰りは、友人と待ち合わせていて稲田堤の天国酒場「たぬきや」に顔を出す。そこで飲んでいたら、居合わせたお客さんの中にすごく気になるシャツを着ている人がいた。勇気を出して話しかけ、顔は出さないという条件付きで写真を撮らせてもらった。

 

▲白いワイシャツの袖が赤青黄のブッコロールという、たまらんデザイン!

 いいなー、ぼくもそんなシャツ着たいなー、と無邪気に褒め称えていたら、そのお客さん曰く、「これ一応ブランドものなので、洒落で買うには高いんですよね」と笑っていた。