元祖適当男

日本三大ギタリストといえば、誰がなんと言ったって

  1. チャー
  2. 寺内タケシ
  3. 深沢七郎a.k.a.楢山節考

というのは間違いないと思うのだが、残念なことに深沢七郎をギタリストとして認識しているひとはそんなにいないんだな。ギターと小説、どっちが本職なのかはよくわからないが、少なくとも深沢氏は小説よりもギターの方に情熱を注いでいたようで、日劇の舞台でプロの演奏家としてスパニッシュギターを演奏していたこともあるという。そのときの楽屋で書かれたのが「楢山節考」だったりしたのである。

あの作品は日本の恥部となっていた“棄老伝説”を正面から採り上げ、映画化もされてずいぶん話題を呼んだものだが、書いた本人はそれほどの問題意識もなく、わりと適当に書いていたりするのが、なんともいえず、いい。

さて、先日、取材で青山に行ったとき、時間つぶしに覗いた古本屋で深沢七郎対談集『盲滅法』(1971年/創樹社)を発見した。500円。これ、長いこと探してたんだよー。もちろん絶版で、amazonにも書影なんぞあるわけない。そういう場合、いつもなら現物をスキャンした表紙画像を載っけておくんだけど、横尾忠則による装丁がとてもいいので、表裏ひろげた写真をお見せしよう。

いいわー。深沢先生は「楢山節考」を発表したあと、埼玉の田舎に引っ込んで百姓をはじめた。まわりには山と畑と虫しかいない。その感じがよく出てるね。さすが横尾忠則。しかし「百姓をはじめた」とはいっても、深沢七郎のことだからけっこういい加減で、本書の中では「そろそろ百姓も飽きた」みたいなことを言っている。そんで次は今川焼きの店を始めたいと言って「もう機械は買った」なんて書いてある。なんなんだろう。本当にデタラメなひとだよ。

またこの対談集は、登場する相手の人選も素晴らしいんだな。いきなり井伏鱒二からはじまって、大江健三郎古山高麗雄山下清木下恵介白石かずこ坂本スミ子殿山泰司野坂昭如矢崎泰久竹中労永六輔といった、40代より上ぐらいの世代にはたまらない人選。これらの対談の中から、深沢先生のいい発言をいくつかピックアップしてみよう。

まずは北村サヨという天照大神宮教の教祖(当時58歳)に向かって、

深沢 たいへん失礼なことなんですけど……。
北村 なんでもええ、答えちゃるけ、お聞きんさい。
深沢 大神様は女のヒトの、月のものですね。そういうものは、いつごろからなくなったんですか? 
北村 五十四、五まであったよ。

いきなり何聞いてんだ! でも、ちゃんと答える教祖が偉い。

続いて、殿山泰司との対談から。

深沢 ぼくは旅に出かけると必ずストリップを見るんです。だれか知ってるひといないかと思ってね。
殿山 だれかお会いになった?
深沢 ぼくは北海道の千歳の飛行場のところにストリップがあって、そこに日劇ミュージックホール出演の何某ってでっかい看板があったから、うれしくなってはいったら、見たことない人だったね。

なんでストリップの話になったかというと、たいした理由はないみたい。単に好きなんだね。

そして野坂昭如との対談から。

深沢 (前略)ぼくはお葬式をやって似合うのは、池田大作さんと三波春夫さんだと思うね。葬式屋の顔ですよ、あれは。死に関係した人の顔ですね。死んでる人間の周章狼狽ぶりをじつにうまく救ってしまうという、そういう顔のような気がする。

あっけらかんとものすごいことを言う。野坂もタジタジ。

で、巻末では深沢&野坂に永六輔竹中労をまじえて、糞・尿・屁に関する座談会をしているんだが、これがまた正気の沙汰じゃない。こればかりは抜粋ではなくて、ぜひ皆さんにも現物を読んでほしいところ。おれは運よく古書で手に入れられたからいいけど、あいにく絶版だからねえ。廣済堂あかつきの“吉田豪解説シリーズ”で復刻してくんないかねえ。

俺、勝新太郎 (廣済堂文庫)

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おこりんぼさびしんぼ (廣済堂文庫)

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俺はロッキンローラー (廣済堂文庫)

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