26 消費税とメキシコ麻薬戦争とナスカジャン

2014年4月マ日

 本日より消費税が5%から8%になった。まったく困ったもんだ。消費者としても、商店経営者としても、腹立たしいったらありゃしない。とはいえ、実際のところマニタ書房には関係なかったりする。なぜなら、うちは増税前も増税後も、一切、消費税をいただいていないからだ。

 そもそもの話が古本屋というのは、105円なりで仕入れてきた本に、安ければ300円、ものによっては3,000円といったザックリした値段を付けて販売する。つまり言い値──店主の腹積り次第での商売だ。それなのに、わざわざ御上の言いなりで消費税なんか乗せてどうするというのだ。消費税が5%から8%になったからといって、3,000円に値付けしてある本を今日から3,240円に書き換えるというのか? バカバカしい!

 消費税法のことはよくわからない。でも、客から消費税を取っておいて、それを申告しないのならば法に反するだろう。だけど、こちらはハナから消費税を取るつもりがない。なんなら、毎年の確定申告で、その分の損をコイてるのではないか。とにかく、そんな緻密な金勘定ができるくらいだったら、もとより古本屋になどなっていないし、フリーライターにもなっていない。

 

2014年4月ニ日

 今日は埼玉から栃木にかけてのブックオフ仕入れツアーである。何軒目かに訪れたブックオフで、店員さんが本棚に掲げられた「105円」のプレートを「100円(+税)」というものに付け替えていた。

 なるほどね。消費税が上がったら「105円」のプレートは「108円」に変わるのかと思っていたが、「100円(+税)」としておけば、今後消費税が9%になっても10%になっても15%になっても、ずっと同じプレートが使えるというわけだ。こりゃ安心だね……って安心じゃねえよバカヤロウ!

 それはともかく、取り外した「105円」のプレートはどうするんだろうか。どう考えても必要ないものだから、やっぱり廃棄するんだろうか? どうせ廃棄するなら1枚くらい欲しいなあ。

 というわけで、店員さんに「ぼくはブックオフの大ファンなんですけど、その105円のプレート、捨てるなら記念に1枚もらえませんかね?」と訊いてみた。ところが「いま店長がいないので……」と断わられてしまった。あら残念。でも、仮に店長さんがいたとしても、今度は「本部に問い合わせてみないと……」ってなる可能性もあるわけで、相手はチェーン店だからこればかりは仕方ないね。

 

2014年4月タ日

『赤パン先生/安永知澄』全4巻を一気に読了。「コミックビーム」での連載時から飛び飛びに読んでいたのだけど、一気に通して読むとまた素晴らしい。自分が女の子だったことはないのに「ああ、女の子ってこういう感じだよなあ」という発見がたくさんある。この切なくも優しい感情に満ちた物語のタイトルに「赤パン」なんてワードを持ってくるセンスにも感心。傑作なのでみんなも読むといいです。

 

2014年4月シ日

 先日、せんべろ古本トリオ(安田理央柳下毅一郎)で茨城ツアーをしてきた。朝イチで上野の酒場に集合して一杯ひっかけ、常磐線で一気に土浦へ向かう。パチンコ屋の居抜きに地元の古書店が数軒集合して運営している「つちうら古書倶楽部」を訪ね、そのあと南下して龍ヶ崎リブラの古書モールと、古本マニアならみんな知っている大型古書店をハシゴ。さらに取手、柏、松戸を回って解散というコース。いつもながらの楽しい旅となった。

 道中、柳下さんが移動の合間に『メキシコ麻薬戦争:アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱/ヨアン・グリロ著、山本昭代訳』を読んでいて、これが非常におもしろそうだったので、さっそく自分でも買って来た。

 ところで、本の中身とは関係ないんだけど、この本はカバーがおもしろいことになっている。

 ビニールコーティングされたカバーの上に、あとから「メキシコ麻薬戦争」というタイトルを印刷してあるのだけど、インクの定着が弱いのか、文字がポロポロと剥がれやすいのだ。実際、カバーをかけたまま持ち歩いていた柳下さんの本は、バッグの中で擦れてタイトルが半分くらい剥がれていた。

 ぼくは本を読むときはカバーを外して、書店でもらった書皮(ブックカバー)だけをかけて読むようにしているから、タイトル文字が剥がれることはないだろう。でも、柳下さんのようにカバーをかけたまま読む人は世の中にはけっこういるはず。ということは、数年後に古本屋でこの本を探すと、いろんな文字の剥がれ方をした『メキシコ麻薬戦争』が見つかるのではないか。それを集めたらおもしろいんじゃないかなー? なーんてことを考えた。まあ、やんないけど。

 

2014年4月ヨ日

 東中野にあるハードコアチョコレートが経営する酒場「バレンタイン」にて、代表のMUNEさんと秘密の相談。これが形になったらみんな驚くだろう。

 ……と、当時はこの程度(↑)しかSNSには書けなかったが、この日記を改めて清書しているいま(2024年4月)なら、その内容を書ける。この日、ぼくが考案した「ナスカジャン」をコアチョコとのコラボで作れないかと相談しているのだった。

 そして、その相談はMUNEさんの即断で決定。しかも、ちょうどこのときは学研『ムー』とのコラボでコアチョコが作った「ムーTシャツ」がバカ売れしていたタイミングでもあった。そこでコアチョコ、ムー、マニタ書房によるトリプルネームでの制作までが決まってしまった。

 結局、ナスカジャンはビッグヒットになり、いまだに新色をリリースするコアチョコの定番アイテムとなってくれた。すべては毎年オーダーしてくれる皆さんのおかげである。

 

2014年4月ボ日

 古本屋稼業も2年目に入ったとは言え、まだまだ慣れないことばかり。なかでもいまだに戸惑うのは、店に顔も名前も知らない他人が無言で入ってくることだ。商店ならそんなの当たり前のことなんだけど、マニタ書房は自分の書斎という意識も半分あるから、どうしても異物混入の感情が消せないのだろう。

 古本屋として店番をしながら原稿書くのは、不意の来客で集中力が途切れるが、ゲラを見る作業だけは相性がいいように思える。この感覚はうまく言えない。ゲラは「事務」って感じなのだろうか。あるいは、執筆業にともなう様々な工程の中でゲラはとくに嬉しい作業だから、その高揚感が他者に対して優しい気持ちにさせるのかもしれない。原稿など書かずに、ずーっとゲラだけ見て暮らせればいいのにな。