25 山川惣治とピンカデリックとプリングルスの筒

2014年3月マ日

 荒井由実の名曲に『海をみていた午後』がある。この歌詞の中に「山手のドルフィン」という店が出てくるが、これは架空の場所ではなく、神奈川県の山手と根岸の間に実在するレストランだ。中川右介の『角川映画』を読んでいたら、そのドルフィンのオーナーが山川惣治だという記述があって飲んでいたお茶を吹きそうになった。そう、あの『少年ケニア』の山川惣治である。

 紙芝居作家だった山川は『少年タイガー』を大ヒットさせたあと、同じく紙芝居だった『少年王者』を集英社から単行本として刊行した。その大ヒットが集英社の漫画出版事業の基礎を築いたとされている。一時は長者番付で画家部門の1位になったこともある山川だが、漫画ブームの波に押されて時代遅れの絵物語は衰退。山川は絵描きとしての第一線から身を引き、山手に「ドルフィン」を開業したという。

 ぼくは山川の代表作『ノックアウトQ』や『少年ケニヤ』に親しんだ世代ではないが、80年代にはいくつかのカルチャー誌で山川惣治特集が組まれるなどして再評価の動きがあり、それらの記事で存在を知った。いや、それにしても『少年ケニヤ』の世界とユーミンのハイソな世界が繋がっているとは、まったく思い寄らなかったな。

 

2014年3月ニ日

 両国のRRRにて開催中の根本敬さんのレコジャケ展。会期終わりのギリギリに滑り込みで見に行ったら、まだこんな素晴らしい絵が残っていたので、すかさずお買い上げさせてもらった。ファンカデリック meet's ぴんからトリオで、ピンカデリック。

 これまでにアーティストの絵(原画)を買ったのは4人だけ。とりいかずよししりあがり寿横山裕一、そして根本敬。我ながらいい趣味してるなあと思う。

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2014年3月タ日

 うちの店の壁面本棚は、上の空間が空いている。まあ、そこにも本を並べるとか、在庫を置くとかすればいいのだけど、なんだかそれではありきたりすぎておもしろくない。そこで、仕事しながらちょこちょこ食べているプリングルス(舶来の成形ポテトチップス)の空き缶を並べておいたら、カラフルで、バカみたいで、いいのではないかと思った。空っぽの筒でしかないけれど、ひとつ10円とか値段を付けておいたら物好きが買ってくれるかもしれない。

 マニタ書房の近所にはヴィレッジヴァンガード(通称ビレバン)があり、あそこは日本のOEM生産ではない、本家の製品を海外から取り寄せた珍奇なフレーバーのプリングルスがたくさん取り揃えてある。それらの筒が本棚の上にガチャガチャと並んでいたら楽しいじゃないか!

 ……と思ったのだが、自分はスナック菓子はプレーンな塩味しか好きじゃないし、そもそも空のプリングルスの筒を売るって意味わかんなすぎる……と、我に返った。

 日々、狂気と正気のスレスレを彷徨いながら商売をしています。

 

2014年3月シ日

 しかし、極力現実を直視しないようにして営業を続けてきたけれど、確定申告のために領収書と売上げ台帳を付き合わせてみると、笑ってしまうほど赤字だなあ。もうちょい真面目に商売しないとこりゃあかん。

 

2014年3月ヨ日

 自分はかれこれ30年ほどレコードコレクターをやってきて、かなりの数の珍盤を集めているが、実は所有しているレコードのうち半分も針を落としたことがない。アーティストの風貌やジャケットやタイトルや歌詞に惹かれて買うわけだけど、買った時点で満足してしまうから、針を落とさずにそのままレコード箱に入れてしまうということが案外と多いのだ。古本マニアにとっての積ん読と同じようなもんですね。

 でも、これからは積極的にコレクションに針を落とし、どんどん聴いていかなければ、と思った。なぜそんなことを思ったかというと、いま食事している店の有線で安岡力也の『ホタテのロックンロール』がかかっていて、これが予想外にいい曲だったから。持ってるんだから、もっと早く聴いておけばよかったー!

 

2014年3月ボ日

 さて、明日からまたいろんな仕事が交錯するので、それに備えて今日はとっとと寝ることにする。ライター稼業を30年やってきて、こんなに仕事が楽しい&嬉しいのは、この3年くらいが初めてのこと。

 いまはマニタ書房という古本屋稼業を筆頭に好きな仕事しかやっていないし、依頼される原稿も好きなことしか書いていないから、とても幸福。これで収入が3倍くらいになれば言うことないんだけど、世の中そうはうまくいかないもんだなー。