なんだかものすごいらしいと噂に聞いていた、『十津川警部 アキバ戦争/西村京太郎』を、湯河原出張へ行く新幹線こだま649号の中で読んでみた。
- 作者: 西村京太郎
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2008/05/16
- メディア: 新書
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P.35 十津川警部のセリフより
「状況から見ると、 誘拐は、 本当に起きているようです。 タクシーの運転手に化けた、 犯人が、 県明日香という女性を、 誘拐したと考えられますね。 ただ、 さっきもいったように、 彼女を、 あなたの娘さんだと思い込んで、 誘拐したのか、 それとも、 本当のことは、 知っているが、 そういって脅かせば、 あなたが、 身代金を払うと思っているのか、 その辺は、 分かりません。 われわれは、 人質を助けることに、 全力を尽くしますが、 その前に、 先生の気持ちを、 教えていただけませんか?」
いいグルーヴだなー。膝でリズムとりながら読むといいね。
さて、タイトルからもわかるように、本作は西村先生が本来まったく興味がないであろうアキバ文化に、果敢にチャレンジした意欲作である。
かつて、娘のあすかを交通事故で亡くしている日本画家の衣川円明は、秋葉原のメイド喫茶で県明日香という少女と出会う。娘と同じ名前で、どこか面影も似ているこのメイドさんに運命的なものを感じた衣川は、彼女に絵のモデルになってくれるよう頼み、それをきっかけとして急速に親しくなっていった。あるとき、この娘が何者かによって誘拐され、犯人は身代金一億円を要求してきた。衣川は、まるで自分の娘のように思いはじめていた明日香のために、一億円を用意することにした。そして、警視庁捜査一課からは十津川警部がやってきたーー。
なんで日本画家がメイド喫茶に行くのか? なーんてことは些細な問題だ。それより、本書のあちこちに、あの好々爺然とした笑顔の西村先生が一生懸命に秋葉原を取材し、十津川ワールドの中にアキバ的なるエッセンスを盛り込もうと苦心している様子が垣間見え、愛おしくてならないのだ。
P.35 捜査官の三田村功と北条早苗がアキバで聞き込みをする場面
早苗が、店の中を見回しながら、いう。
「あの似顔絵は、頭に、叩き込んであるんだろう?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、それを、思い出しながら、アキバの街を、適当に歩き回って、みようじゃないか。ひょっとすると、似顔絵の男に、会えるかも知れないからな」
三田村は、そういうと、下の階に戻り、そこで、可愛い女の子の顔が、描かれた、大きな抱き枕を、買った。
「これを抱えていれば、刑事とは思われないだろう」
と、三田村が、小声で、いう。
「私は、どうしたらいいの? そんな抱き枕なんて持ちたくないわよ」
早苗が、いうと、三田村は、いつ買ったのか、自動販売機で売っている、ラーメンの缶詰を、早苗に押しつけた。
「これを食べるわけ?」
「いや、手に、持っているだけでもいい。このアキバに、やって来る人間は、たいてい、自動販売機で、缶詰のおでんか、このラーメンを買うんだ」
最高すぎる。どうだ、きみはこれでもまだ西村作品を読まないでいられるか?
西村先生にはまだまだ長生きしていただいて、今後はtwitter小説なんかにもチャレンジしてほしいものです。