岸壁の妻の声がエコーする

渋谷のブックオフで購入した(105円)。タイトルを見た瞬間、キタ──!って思ったね。

風船おじさんの調律

風船おじさんの調律

1992年11月23日。ピアノ調律師の鈴木嘉和さんは、自然保護を訴えるためのパフォーマンスとして、風船つきのゴンドラに乗って琵琶湖畔から太平洋横断冒険飛行に出発した。だが、それから二日後、宮城県沖800mの地点を飛んでいるところを観測されたのを最後に、鈴木さんは消息を絶ってしまった。これが、いわゆる「風船おじさん事件」だが、本書はそんな風船おじさんを愛し、愛され続けた妻による手記だ。

とにかくすごい本だよこれ。それほどブ厚い本ではないんだけど、全編に風船おじさんと風船おくさんとの愛がみっちり詰まっているんだ。びっくりするぐらいラブラブ。風船おじさんは、名前のヨシカズの「ズ」と、奥さんの名字イシヅカ(彼は奥さんを愛するあまり結婚後に奥さんの姓へ改名しているのだ)の「ヅ」から、家族の間では「ズー」と呼ばれていたという。もうここからして「やられた!」って感じがする。

そんなズーさん、一般的な日本男児とは少しばかり感性が違うようで、とにかく奥さんに向けて愛の言葉をズバズバ言うんだ。

自分は私(註:奥さんのこと)より先に死なない。この後はずっと側にいるから大丈夫! 離れることが少しの間あっても、すぐ戻ってくるから。戻ってきたら、もう遠くへ行くようなことは決してしないから。私を幸せにできるのは自分しかいない。(P.22)

さらに、こんなことも言う。

僕は世界一の幸せ者だ! いや、宇宙一の幸せ者だ! やりたいこと、皆できた。やらせてもらえた。本当に幸せだ! 感謝一杯! こんな幸せ者、他にいるのかな、きっと、いないと思う! いや、絶対にいないと思う!(P.144)

なんだろう、このテンションの高さは。風船おじさんが出発した当時、日本中が「無謀な計画だ」といって批判したけど、本書を読んでみるとズーさんにとってあれは無茶でもなんでもなく、自然な行動だったんだなーというのがよくわかる。

しかし、そうはいってもズーさんはもう帰ってこない。遭難後、奥さんがアメリカの新聞社に送ったという手紙の一節が本書の中に記載されている。

彼の命のかわりに私の命をささげるから、どうか神様、彼の命をお守り下さいと、ずっと祈り続けています。どうぞ、愛をください!

ぶわー(号泣)。

では、ここで一曲お聴きください。唄は辻仁成さんのナンバーで、『ZOO』──。