日本が沈没しようとも長い灰

昨日の『リプレイスメント・キラー』なんかもそうだったけど、煙草の灰を落とさずに長く残そうとすると、中に詰められている葉っぱや不純物などが燃えたときの収縮率の違いのせいで、決して灰は真っ直ぐにはならない。大きく反り返ったり、ぐねぐねと歪んだりするものだ。
ところが、長い灰収集をしていると、まれにものすごい一直線な灰と遭遇したりすることがある。おれが初めてそういうものと出会ったのは、2006年版の『日本沈没』だった。豊川悦司扮する田所博士が「日本が沈んじゃうって、マジかよ……」と落ち込んでいる場面で、指にはさんだ煙草の灰が嘘のように長く、真っ直ぐ、夜中に足がつっちゃったおれみたいにシャキーンと伸びているのだ。

煙草を吸っているひとならわかるだろうけど、この状態は普通ありえないよね。何もしないで煙草の灰がこんなに真っ直ぐ燃え残ることはない。しかも、真上に向けているならまだしも、この場面のように少しでも煙草を斜めにかたむけていたら、ここまで燃え尽きる前に灰は自重で崩れおちてしまうはず。にも関わらず、ここまで見事に灰が伸びきっているということは、そこになんらかの仕掛けが働いているということになる。まさに“特撮”だ!
さらにいえば、このカットには時間の経過をあらわすという本来的な意味はもちろんあるけれど、それ以外にも、わざわざ面倒な仕掛けを施してまで真っ直ぐな灰を撮影したかった理由が、監督にはきっとあるはずなのだ。それはいったい何だろう。自分の場合、『エイリアン2』での長い灰シーンが心に刻まれていたおかげで長い灰コレクションをはじめることになったのだから、『日本沈没』も案外そのあたりに理由があるんじゃないかなあ、と思っていたりした。
そうしたら! あるとき共通の友人を介して樋口真嗣監督と一緒に飲む機会があったんだな。もうね、挨拶もそこそこに灰のことを聞いたね。他にもっと話すことあるだろうになあ。でも、しょうがないよこればっかりは。
 とみさわ「もしかして……あれは『エイリアン2』の影響だったりして?」
 樋口監督「うん、そう。いつか自分でもあの演出やってみたかったんだよねー」

おれの予想、モロ当たり! 何か心が通じ合ったというか、同じバカの血が流れてるというか、あっさり教えてくれた監督、すごいイイひと! 逆に監督のほうから「あの灰が真っ直ぐなのはどうやって撮ったかわかります?」って聞かれたので、「×××××の×を××してるんでしょ?*1」って即答したらびっくりしてた。これは、煙草を吸ってた若い時分に友達へのいたずらでやったことがあるから、スクリーンで見た瞬間すぐわかったんだ。
なにはともあれ、こうして運良く監督本人から話を聞かせてもらったおかげで、映画の中の「長い灰」に着目して、その場面を集めるという自分の研究活動は間違っていないことが証明されたのだった(されたのか?)。

*1:たいしたことではないけど、いちおう秘密。