腹話術コレクション(書籍編)

そんなもの集めていたからといって誰からも報われることのない収集テーマがおれの中にはいくつかあって、そのひとつが「腹話術師に関するもの」だ。昔は、腹話術の人形(オモチャ同然の安物)を買ったこともあるが、実家に置きっぱなしにしていたら、気味悪がったオフクロに棄てられてしまった。無理もないネ。アンティークの腹話術人形(本物)も一体ぐらいは欲しいんだけどねえ、あれらは完璧に骨董の世界なので値段も高く、貧乏人がおいそれと手を出せる趣味ではない。だいいち人形コレクションは場所もとるからね。
そういうわけで、自分が集めているのは、毎度のことだけれど「古本」と「レコード」だ。その中から、今回はこんな本を紹介したい。

『1976 腹話術年鑑』(1975年/ロゴス腹話術研究会)
これは見つけた瞬間、うれしすぎてバンザイした。発行元の「ロゴス腹話術研究会」というのは、アマチュア腹話術師の団体のことで、毎年1回、北は網走から南は那覇市まで、日本全国の支部から腹話術愛好家が集まり、腹話術大会を行っているという。本部は神奈川県川崎市にあり、主宰しているのは春風イチロー師。本書も、表紙を開けるといきなりトビラにイチロー師匠が登場なされる。

とてもいい笑顔。
イチロー師匠は、中学生時代にアメリカの天才腹話術師エドガー・バーゲンの映画『YOU CAN'T CHEAT AN HONEST MAN 1939』を見て腹話術の道を志した。一度は落語家になったものの、その後、キリスト教の牧師に転身してからは腹話術によってキリストの教えを伝えているという。実際、アメリカでも腹話術というのはキリスト教の宣教活動に多く利用されているのだ。
ロゴス腹話術研究会もキリスト教の活動として「人形との会話による笑いの奉仕」をすることを目的とした団体なのだが、会員すべてがキリスト教徒というわけではなく、純粋に腹話術を楽しんだり、地域ボランティアのために腹話術を活用しているという人も多いようだ。

どっちが人形だかわかんない感じの人達がズラリと並んで、捨て写真が一枚もない素敵すぎるカラーグラビア。
モノクロページでは、各支部での活動報告などあって、後半は会員名簿になっている。この名簿がまたすごいんだなー。日本最大の腹話術団体だから、日本中のアマチュア腹話術師が網羅されているわけ(といっても1976年時点のものだけど)。いまはもう、こういう本は発行されてないのかな。2009年度版とかあったら欲しい。


他にはこんな本も持っている。amazonにあったのでアフィってみる。

腹話術入門―人形がしゃべれるはずがない!

腹話術入門―人形がしゃべれるはずがない!

サブタイトルに「人形がしゃべれるはずがない!」って、腹話術師がそれ言っちゃうかー? 的なことが書いてあるが、観客に向けての本ではなく、技術指南書だからそれでいいのかもしれない。しゃべれるはずがないものを、如何にしゃべっているように見せるか、そのための方法が解説されているのだ。
ひとつナルホドと感心したところを紹介しよう。それは「動唇音(どうしんおん)を使わない方法」だ。
腹話術では、人形がしゃべっているように見せるためには、演者が唇を動かさずにしゃべるのが基本だ。けれど、言葉の中にはどうしても唇が動いてしまう音(たとえば“マ・ミ・ム・メ・モ”や“バ・ビ・ブ・ベ・ボ”など)が存在する。そうした「動唇音」への対処法には2種類あって、ひとつは「言葉を置き換える」こと。

サン → オジョウサン
ウ  → オカネノナイコト
ジン   → ウツクシイヒト

このように、セリフの中に動唇音が含まれる言葉が出てくるときは、同じ意味をもつ別の言葉に置き換えてしまえばいいのだ。このあたり、自分がゲームのメッセージテキストを書くときのコツにも通ずるものがある気がした。
そしてもうひとつの対処法は、さらに大胆なテクニックだ。単語の中の“動唇音だけ”を似ている音で発音してしまう、というのだ。

じかい → ジカイ
ずかしい → ズカシイ

ああ、なるほど! と思った。実際にやってみるとよくわかる。言葉によってはちょっと無理があったりもするが、その言葉を単体で言うわけでなく、会話文の中でさらりとやってしまえば、そういう風に聴こえてしまうのだろう。腹話術、奥が深いなー、と思った。
どうスか? 腹話術やってみたくなりました?