中古盤屋で語る自分史 その1

思うところあって、自分とレコードコレクションとの関わりをまとめておくことにした。以下、5回に分けて掲載する。


【1】廃盤、夜明け前

いまから30年ぐらい前。つまり1980年前後。
当時おれはまだ専門学校生で、音楽はパンク6割、テクノ2割、ハードロック1割、歌謡曲1割ぐらいの比率で聴いていた。LPを50枚ほど持っていただろうか。純粋に聴きたいレコードを小遣いの範囲で買うだけで、コレクションをしているという意識はなかった。もっぱら地元のレコード屋に行って新譜をあさる程度で、中古盤屋にはあまり行っていない。けれど、この頃が中古レコード市場で歌謡曲のドーナツ盤がもっとも安く買えた時代だった。

世間では、まだアナログ盤が主流ではあったけれど、若者の意識はすっかり洋楽指向になっていて、歌謡曲なんてのは“ダサいもの”の代名詞だった。だから中古盤屋に行っても、歌謡曲の廃盤なんてゴミ同然。棚にすら置いてもらえなくて、棚の下の段ボール箱に突っ込まれて「どれでも1枚10円!」状態で叩き売りされていた。

その頃はまだ自分もぬるい音楽ファンだったから、棚の下の段ボール箱まではちゃんと漁ったことはない。いまとなってみれば、ああした箱の中にはお宝が山ほど眠っていたのだろうなあ、と思う。ときどき、あの箱をガンガン漁ってお宝発見うひょー! っていう夢を見る。

おれが廃盤歌謡曲に目覚めた瞬間のことは、明確に覚えている。子供の頃、「8時だよ全員集合!」のコントの合間で何度か聴いていた大好きな曲があって、ずーっとそのことを忘れていたんだけど、製図の仕事をしていた21歳のとき、なぜか突然その歌詞とメロディーが甦ってきて、もう一度聴きたくて仕方なくなってしまった。
でも、インターネットがあるわけじゃないし、どうやって調べればいいのかもわからない。そこで、家に帰ってオフクロに「♪アナタに抱かれてわったっしっは蝶になるぅ〜」って誰の唄だっけ? って尋ねてみた。オフクロは笑いながら「それは森山加代子の『白い蝶のサンバ』だ」って教えてくれた。

さーて、タイトルと歌手名がわかったのはいいけど、どうやったらその曲をもう一度聴けるんだろう? レコード屋に売ってるはずもないし……。
そんなとき、まったく偶然にテレビで一軒の店の存在を知ることになる。