映画『あの頃。』を見て

2021年02月19日

 劔幹人さんの原作を映画化した『あの頃。』を公開初日に観てきた。とてもいい映画でした。

 ぼく自身は劔さんより18歳年上で、この映画で描かれているアイドルオタクたちよりはかなり古い世代になる。ただ、アイドルを好きになる衝動は不変のものなので、そこはとても共感できた。

 以前にもツイッターでつぶやいたことだが、ぼくの初現場は1979年の相本久美子『チャイナタウンでよろめいて』の新曲発表会だ。生歌を聴き、レコードを買って、列に並んでサイン色紙をもらい、握手をした。ガッチガチに緊張して、満足に会話もできなかった。まるで劇中の松坂桃李のように。

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そのとき親父のカメラを借りていって撮った写真

 その後、ぼくは1983年に手にしたミニコミ『よい子の歌謡曲 8号』で、アイドルを必要以上に追いかけている人たちと出会い、その編集部に入り浸るようになる。これは劔さんが松浦亜弥きっかけでハロプロのヲタクたちと出会い、深い入りしていく過程とよく似てる。

『よい子の歌謡曲』のメンバーとして過ごした日々は楽しくてたまらなかったが、実はその一方で居心地の悪さも感じていた。これは言いにくいことだが、周囲の目がすごく気になっていたのだ。ぼくは、自分がアイドルファン(いまのニュアンスで言えばヲタ)として見られることに抵抗があった。

 だって(身も蓋もないことを言ってしまえば)モテないんだもん。アイドルファンの平均的な生活様式やファッションや言動は、どう考えても女の子が恋愛対象にはしない種類のものだった。それは『あの頃。』の登場人物を見ればわかるよね。

 ぼくはモテたくて仕方なかったのだ。アイドルは好きだけど、手の届かないアイドルよりも、現実の彼女が欲しかったし、キスしたかったし、セックスもしたかった。そっちの方が優先順位が上だった。アイドルファンとしては失格だよね。全然気合が入ってない。それは素直に認める。

 だから、ぼくは自分がアイドルファンであることに耐えられなくなり(具体的にはおニャン子クラブのファンが苦手で)、1987年に『よい子の歌謡曲』から離脱し、アイドルファンであることをやめる。

 それから約10年後にハロプロが登場し、さらにその7年後にAKB48がスタートするまで、ぼくはアイドルというものから離れて暮らすことになる。その間は歌謡曲もほとんど聴いておらず、集めていたレコードは全部物置に突っ込んでいた。

 それでライブハウスに行ったり、ブランド服を着たり、スポーツ観戦したり、ナンパしたり、いろいろとリア充っぽいことをやってみるのだが、イマイチうまくいかない。それは仕方がないね、元々オスとしてのスペックが低いんだから。

 それでも、幾度かの失恋を経たのちに出会った女性と恋愛し、結婚をして、子供も生まれた。この人生には満足している。けれど、これこそが正しい人生だったかと言えば、それはわからない。ぼくは自分の歩んだ以外の人生を見下すつもりはないし、羨むつもりもないからだ。

 あの頃。以降の劔さんは、犬山紙子さんという素晴らしい伴侶と出会ったし、ロビさんもとても楽しく生きているようにぼくには見える。早逝したコズミンさんとはお会いしたことがないので、実際にはどういう人だったかは分からないが、映画を見る限り、彼は彼なりに精一杯生きたのだろう。

 その人の人生の価値はその人の中にしか生まれない。アイドルを追いかけ、ミニカーを盗み、獄中生活を送る人生が間違っているとは、誰にも言い切れないのだ(いや、さすがにそれはどうかな)。

 ぼくは現実主義であり、死後の世界なんてないと思っている。だから、生きているうちがすべて。これは「今」がすべて、という意味じゃない。過去も現在も「生きているうち」だ。

 そういう意味で、『あの頃。』は単なるノスタルジーの物語ではないと感じる。過去に輝いていた時間は、現在の幸せ(あるいは不幸)な時間と、同じように価値があるのだ。

酒エッセイ「マニタ酒房」やってます

 ぼくは2014年から2015年にかけて、セガ社が運営していた会員制SNS「it-tells」に酒エッセイ「酔ってるス」を連載していた。「it-tells」終了後、その酒エッセイが読まれない状態にあるのは惜しいので、当時の責任者に許可をいただき、多少の加筆訂正を加えたものをnoteで無料公開している。

 

 で、この「酔ってるス」の第2シーズンに相当する新たな酒エッセイ「マニタ酒房」を、年明けから週イチで書き始めている。こちらも無料なので、ぜひ皆さんに読んでいただきたい。「酔ってるス」同様に全50回を予定しているので、毎週土曜のお楽しみにどうぞ。

とみさわの酒エッセイについて、連載依頼、書籍化などのお申し出は随時受け付けております。メールでもSNSのメッセージでも、お気軽にご連絡ください(電話はNG)。

 

2020年に見た映画

 今年見た映画(新旧問わず)を一覧にしてみた。全部で116本。いまは仕事で映画評などを書く機会がほとんどないので、あくまでも趣味で一年間に見た本数としては、まあまあ多い方だろう。

 ぼくは劇場のスクリーンで映画を見ることにこだわらないし、コロナの影響もあって自宅で過ごす時間も長く、Netflixで配信されているものばかり見ていた。今年は本当にNetflixにお世話になった。

 また、ここには入れなかったが、今年はドラマもたくさん見ている。『ブラック・ミラー』『刑務所のルールブック』『梨泰院クラス』『クイーンズ・ギャンビッド』など、どれも良かった。ただ、ドラマは長いから時間を取られてしまうのがちょっと困り者ではある。

 あと、今年は何と言ってもVシネの『日本統一』にドハマりした年でもあった。Vシネは映画扱いでいいと思うのだが、これも下記のリストでは省略している。なんせ30作以上あるうえ、各作品に副題がありませんのでね。まあ、自分の覚書だからそれでいい。

0118 スペクトル@Netflix

0111 ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT@Netflix

0112 ワイルド・スピード MAXNetflix

0113 ワイルド・スピード MEGA MAXNetflix

0115 ワイルドスピード EURO MISSION@Netflix

0121 Giri / Haji@Netflix

0122 ジャックは一体何をした?@Netflix

0123 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花@Netflix

0126 男はつらいよ 寅次郎かもめの歌@Netflix

0127 オクジャ@Netflix

0128 男はつらいよ 浪速の恋の寅次郎@Netflix

0129 ボーン・アイデンティティーNetflix

0201 ボーン・スプレマシーNetflix

0201 男はつらいよ 寅次郎紙風船Netflix

0203 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋@Netflix

0205 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎@Netflix

0209 男はつらいよ 旅と女と寅次郎@Netflix

0211 純平、考え直せNetflix

0211 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎@Netflix

0212 岸和田少年愚連隊Netflix

0213 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎Netflix

0214 パラサイト 半地下の家族@TOHOおおたかの森

0216 男はつらいよ 寅次郎真実一路@Netflix

0228 日本やくざ抗争史@Netflix

0229 セントラル・インテリジェンスNetflix

0229 CONFLICT ~最大の抗争~ 第一章 勃発編@Netflix

0301 CONFLICT ~最大の抗争~ 第二章 終結編@Netflix

0301 男はつらいよ 寅次郎恋愛塾@Netflix

0308 ザ・タウン@Netflix

0311 ゼニガタNetflix

0312 新宿パンチ@Netflix

0313 男はつらいよ 柴又より愛をこめて@Netflix

0319 ゴーカーツ@Netflix鑑賞

0327 男はつらいよ 幸せの青い鳥@Netflix

0401 男はつらいよ 知床慕情@Netflix

0405 AKIRANetflix

0414 新感染 ファイナルエクスプレス@Netflix

0416 ビー・バップ・ハイスクールNetflix

0417 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌@Netflix

0419 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲@Netflix

0421 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎狂騒曲@Netflix

0423 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎音頭@Netflix

0425 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎完結編@Netflix

0427 タイラー・レイク -命の奪還-@Netflix

0429 狩りの時間@Netflix

0503 目指せ!スーパースター@Netflix

0504 カメラを止めるな! リモート大作戦@Youtube

0507 男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日@Netflix

0510 TOKYO!Netflix

0521 男はつらいよ次郎物語Netflix

0522 1922@Netflix

0525 男はつらいよ 寅次郎心の旅路@Netflix

0526 男はつらいよ ぼくの伯父さん@Netflix

0606 男はつらいよ 寅次郎の休日@Netflix

0610 男はつらいよ 寅次郎の告白@Netflix

0612 男はつらいよ 寅次郎の青春@Netflix

0618 男はつらいよ 寅次郎の縁談@Netflix

0620 デッド・ドント・ダイ@シネクイント

0622 男はつらいよ 拝啓車寅次郎様@Netflix

0624 男はつらいよ 寅次郎紅の花@Netflix

0627 ランボー 最後の戦場Netflix

0629 26年@Netflix

0701 ランボー ラストブラッド@TOHOシネマズおおたかの森

0705 パンドラ@Netflix

0711 ザ・ファイブ・ブラッズ@Netflix

0723 悪人伝@MOVIX柏の葉

0730 海底47m 古代マヤの死の迷宮@MOVIX柏の葉

0807 フォードvsフェラーリ@DVD

0821 三度目の殺人@Netflix

0904 JAWSNetflix

0914 ミッドウェイ@TOHOシネマズおおたかの森

0925 HOMIE KEI チカーノになった日本人@Netflix

0924 CONFLICT 〜最大の抗争〜 第三章 壊滅編@Netflix

0924 CONFLICT 〜最大の抗争〜 第四章 逆襲編@Netflix

0928 ベストキッド@Netflix

1004 クリーピー 偽りの隣人@Netflix

1005 日本沈没(1973)@Netflix

1006 The Witch/魔女@Netflix

1007 闇金ドッグス@Netflix

1008 闇金ドッグス2@Netflix

1010 ハードロマンチッカー@Netflix

1010 狐狼の血@Netflix

1011 グラスホッパーNetflix

1012 極道の妻たちNetflix

1013 止められるか、俺たちをNetflix

1014 闇金ドッグス3@Netflix

1015 生きている@Netflix

1017 陽はまた昇る@Netflix

1020 砂の城Netflix

1028 セル@Netflix

1101 タイタン@Netflix

1104 鬼滅の刃 無限列車編@TOHOシネマズおおたかの森

1106 ヒメアノ~ル@Netflix

1107 リーサル・ウエポン@Netflix

1109 スーパー8@Netflix

1116 斬@Netflix

1125 WOOD JOB!@Netflix

1126 カイジ 人生逆転ゲームNetflix

1126 カイジ2 人生奪回ゲーム@Netflix

1127 CURE@Netflix

1127 GO@Netflix

1128 闇金ドッグス4@Netflix

1129 闇金ドッグス5@Netflix

1201 ティアーズ・オブ・ザ・サンNetflix

1203 遠い空の向こうにNetflix

1208 トレジャーハンタークミコ@Netflix

1212 無頼@池袋シネマロサ

1215 魔女がいっぱい@MOVIX柏の葉

1217 アイ・アム・レジェンドNetflix

1219 ジェミニマン@Netflix

1226 スパイダーマン:スパイダーバース@Netflix

1226 闇金ドッグス6@Netflix

1229 クローズ ZERO@Netflix

1230 関東無宿Netflix

1230 闇金ドッグス7@Netflix

1231 (秘)色情めす市場@DVD

 各作品の感想はとくに書かないが、サブスクで映画を見るようになると、つまんない映画は気軽に視聴を中止できる。だから、ここに上がっているのはどれも最後まで楽しく見られたものと言っていい。なんの参考にもならないでしょうけれど、一応そのことを書き添えておく。

さらば宅八郎

2020年12月3日

 宅八郎の訃報を知った。ご家族の話ではどうやら8月に脳出血で倒れ、そのまま還らぬ人となったらしい。

 彼はミニコミ『東京おとなクラブ』のスタッフだった人で、本名を矢野守啓という。ぼくは同時期に刊行されていた歌謡曲ミニコミ『よい子の歌謡曲』のスタッフだった関係で、『東京おとなクラブ』の編集部にも出入りしていた。時期を考えると彼と知り合ったのは1985年くらいのはずだが、直接会って話をしたような記憶はない。

 やがてぼくはフリーライターになって、下北沢に仕事場用のアパートを借りた。ある日、仕事もなく部屋でゴロゴロしていたら、彼から電話がかかってきた。そのとき彼は「覚えてますか、矢野です」と言ったので、ということはやはり一度は会っているのだろう。

 電話は仕事の依頼だった。その頃の彼は『週刊SPA!』で仕事をしていて、まだ宅八郎にはなっていなかったはず。いまから30年以上も前の話だ。

 矢野くん曰く「今度SPA!で “おたく特集” をやるので、そこに珍レコードおたくとして出て欲しい」との依頼だった。ほとんど無名のフリーライターだったぼくは、メジャー雑誌に顔と名前が出せる機会を逃すまいと、二つ返事で承諾した。そのときに掲載された写真がこれ。

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週刊SPA! 1990年3月7日号「特集『おたく』が日本を動かす」より

 特集タイトル「『おたく』が日本を動かす」とあるように、この記事で矢野守啓はおたく評論家「宅八郎」として華々しくデビューする。いや華々しいかどうかはわからない。おたくのイメージを悪化させたので、人によっては憎々しいと感じたかもしれない。

 「宅八郎」として売り出した彼は、その風貌や言動の奇異さもあいまって、またたく間に時代の寵児となった。良くも悪くもその「仕事」に手を抜かない人間なので、いろいろとトラブルを起こしたし、毀誉褒貶もあったが、最後まで彼なりのスジは貫いていて、ぼくは嫌いになれなかった。近しい場所から出てきた仲間、という意識も少しはあった。

 だからといって、宅さんのあの過激な言動を正しいと思っていたわけではない。より正確に言うと、たとえば「週刊プレイボーイ」編集者である小峯隆生さんとの事件では、宅さんに対して小峯さんが「プレイボーイ軍団」の力を背後にチラつかせて恫喝してみせた、そのマチズモっぽさに嫌悪感を抱いた。だからその反動で宅さんにシンパシーを感じたのだろう。

 どちらかというと、趣味的な部分で言えばぼくは小峯さんのミリタリー趣味に共感を持っていたし、逆におたく的な感性を自分の中からは排除するよう努めていた。

 そういえば、ぼくが『スコラ』でファミコン攻略ページを書いていた頃のこと。連載ページの一部に「ファミコン野球帝国からの挑戦状」という囲み記事が載ったことがある。

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スコラ 1986年4月10日号より

 簡単に言うと、当時『月刊PLAYBOY』に掲載された「ファミコン野球日本一」という記事に対して、『スコラ』でのゲーム担当だった我々が「どちらが日本一か『ベースボール』(ファミコンソフト)で戦って決めようじゃないか」と挑戦状を叩きつけたのだ。これに対して、当の記事の主筆だった糸井重里氏は受けて立ち、かくして『月刊PLAYBOY』チームと『スコラ』チームで本当に対抗試合をすることになった。

 この挑戦状は、『スコラ』の担当編集がホンのお遊びで入れたもののように記憶している。ご存知のように、誰かと競ったり争ったりすることを好まない性格のぼくは、そのとき「挑戦状なんて嫌だなあ」と思ったが、学生時代に憧れていた糸井さんに会えるかもしれないと、微かな期待を抱いたりもした。

 試合は、南青山にあった東京糸井重里事務所の会議室で行われた。雑誌対抗のファミコン試合なんて、ものすごく業界っぽい! と浮かれ気分でドアを開けたが、その場の空気は恐ろしくヒリヒリしていた。糸井さん、アシスタントの石井さん、『月刊PLAYBOY』の編集さんらがジロリとこちらを見る。当時、『ベースボール』に本気で取り組んでいた糸井さんはお遊び気分ではなく、自分に挑戦状を叩きつけてきた生意気な奴らを返り討ちにするべく、ぜってぇ殺すモードに突入していたのだ。

 で、なんで宅八郎と関係のないこんな話を書いているかというと、この試合の場に、噂を聞きつけた小峯さんが見物に来たからだ。ぼくが小峯さんと顔を合わせたのはそのとき一回きり。

 結局、我々は惨敗した。試合が終わって空気は殺伐としたままで、「記念写真を撮りましょう」みたいな雰囲気には全然ならず、「そっちが喧嘩売ってきて負けたんだから謝罪記事は出して当然だよね」と冷たく言われる始末。まったくカッコワルイったらありゃしない。

 この出来事は、宅八郎VS小峯隆生のバトルが勃発するより4年も前のことだけど、このときにも『週刊プレイボーイ』および『月刊PLAYBOY』周辺からマチズモの匂いが感じられたという話だ。

 先にも書いたように、ぼくは学生時代は糸井さんに憧れていたし、小峯さんの趣味にも共感していた。そんな人たちからこの試合をきっかけに全力で突っぱねられたような気がして、非常に複雑な気持ちで帰路についたことを覚えている。いまよりずっと若い頃の話だ。

 というわけで、そういうあれやこれやを清算する機会もないままに(清算する必要もないのかもしれないけれど)、宅さんはあの世へ旅立ってしまった。小峯さんのことを本当はどう思っていたのか、いつかちゃんと会って聞いてみたかったけど、叶わないまま終わってしまったな。あの世では変なコスプレして鬼を相手にバトルを挑んでいるかもしれない。そんなことはもういいから、どうぞ安らかに。

 

番号は謎

2020年09月29日

 数字と番号は違う。ぼくは数字を見ると頭痛がしてくるタイプだが、番号だけは昔から大好きだった。初めて買ってもらったミニカーのボンネットに、大きな白い丸と黒い数字で「09」なんて番号が書いてあると、いつまでもそれを指でなぞっていた。このクルマの前に8台あって、このクルマの後には何台あるんだろう。

 ぼくをコレクターにしたのは番号かもしれない。子供の頃から何かを集めるのが好きで、ミニカーだの、映画のチラシだの、カップ麺のフタだのと、手当たり次第にいろんな物を集めてきたが、それで大きなコレクションを築くまでには至らなかった。なんというか、コレクションの全体像がぼんやりしていて、どうにも集めていて興奮しないのだ。

 なぜ興奮しないかというと、それらには番号がなかったからだ。

 のちに、トレーディングカードを集めるようになって、番号の重要さを実感した。番号があることによって、自分の手にしているアイテムが、コレクション全体のどの位置にあるかがわかる。それは、とりもなおさず、そのコレクションにおける自分自身の立ち位置を示すことにもなる。

 ぼくにとってのコレクションとは、好きな物を集めることではない。“集めたら楽しそうな物を集める”のが、ぼくのコレクションスタイルだ。だから、集めてゆく途中で楽しさを感じられなくなったら、あっさり集めることを放棄する。優先順位が「愛着」より「楽しさ」のほうが上なので、未練はない。そして、その楽しさを下支えしてくれるのが番号だ。

 『番号は謎』という本を読んだ。電話番号、郵便番号、国道番号、背番号、原子番号など、世の中の様々なものに秩序を与えている番号というものが持つ不思議な側面にスポットを当てた本だ。

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 試しに「郵便番号」の項を開いてみると、「電話の市外局番に比べて、郵便番号はどうにも不可解な順序に並んでいるのだ。郵便番号の上二桁を見ると、00の札幌市から始まり、01が秋田、02が岩手、03が青森だが、04から09は北海道へ戻る。そして10番台は、いきなり東京へと飛ぶ」なんて刺激的な話が展開されている。ぼくは郵趣オタでも鉄オタでもないけれど、こうした話にはやはり興奮を覚えてしまう。

 国民全員に固有の識別番号を付与する考え方、いわゆる「国民総背番号制」というものがある。ぼくだってオーウェルの『1984』くらい読んでいるので、国家が国民を番号で管理する個人監視システムの危険性はよくわかっている。ましてや、その政府が信用のならない人間ばかりで構成されているなら、なおのことだ。

 すでに、日本では年金手帳や健康保険証、住民票、運転免許証など、個人を識別するための番号はいくらでもある。住基カードなんてものもあった。満を持してマイナンバーカードも登場した。「マイ・ナンバー」つまり「わたしの番号」だと愛着を感じさせんとする姑息なネーミングだが、個人監視システムへの第一歩であるのは明白だ。おまけに、それを銀行口座と紐付けようとしてくるのだから、油断も隙もあったもんじゃない。

 だが、その一方で、自分がトレカの1枚のように管理されることへの(コレクター的)憧れもある。我ながら変な感情だ。まったくもって番号は謎である。

川沿いのタイトロープ

2020年08月15日

  ぼくの住む町に、1本の小さな川が流れている。いまはほとんど在宅で仕事をしているが、神保町まで通勤していたときは、毎朝、その川沿いの道を歩いて駅まで向かっていた。

 少し前、その川縁に柵ができた。

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これがその柵

 等間隔に並ぶポールと、それを貫くように貼られたロープ。なんとも頼りなさげな柵である。川沿いの道から下の川へはそれほど高低差があるわけではないので、落ちたところでたいした危険はないから、この程度の柵でも用を成すのだろう。

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柵ができる前の状態

 元はこのようにコンクリの縁があるだけだった。この上に腰掛けて休んでいる人をたびたび見かけていたし、ぼくも疲れた帰り路ではそうすることがあった。

 柵は、このコンクリの土台にドリルで円形の穴を穿ち、そこに硬質プラスチック製のポールを打ち立てて作られた。毎日の通勤でその工作の過程を見ていたぼくは、開けられた穴にはてっきり金属製のガードレールのようなものが取り付けられるのだと思ったが、実際にはプラスチックで、なおかつ柵部分がナイロンのロープだったので拍子抜けした。なんだか頼りない……。

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ウッディなポール

 ポールは、一見すると丸太のように見えるが、これはそのように模して造形されたプラスチック製である。そして、そのプラ丸太を貫通するように開けられている横穴に、ナイロンのロープが通されている。

 これを見たときに、ぼくは嫌な予感がした。事故の予感、ではない。

 絶対、子供がいたずらする! という予感だ。

 金属のガードレールだったら、それに挑戦しようとする子供は普通いない。だが、相手が柔軟性のあるロープとなれば、話は別だ。コンクリの台座部分に乗り、ロープをつかみ、ぐいぐいと引っ張ってみたくなる。どこまで伸びる? ぼくとロープの力試しだ! 坊やダメだよ、そんなことをしたらロープが伸びてしまう。うるせえ、ぐいーんぐいーん。

 実際にそれをしている場面を目撃したことはないが、誰かがロープを引っ張って遊んだことは間違いない。案の定、数ヶ月後にはロープは緩み、たるんできてしまった。もしかしたら犯人は子供ではなく、大人の可能性もあるだろう。この道は街灯が少なく、夜になるとかなり薄暗い。酔っ払いがちょっかいを出すには、この柵はちょうどいい獲物だ。

 

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たるみを解消するための方法

 1本のポールごとにロープが固定されているのなら、被害はそれほど大きくならなかっただろう。だが、ロープはすべてのポールを貫通する長い1本のみ(上下段合わせれば2本)が張られている。

 つまり、ロープにたるみが生ずれば、その被害は柵全体に及ぶ。少しのたるみが出ただけならば、上の写真のようにくるりと1回転させてポールに引っ掛けてやれば、たるみを解消することはできる。これはかなりみっともないことだけれど、ロープ全体を張り替えるコストを考えれば、一時的な解決方法としては、まあ納得できる。

 ところが、この方法は上段のロープだから可能なのだ。もし下段のロープがたるんでしまったら、いったいどうすればいいのか……。

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冗談じゃないよ!

 最初に、この柵の構造を設計した奴、この仕事に向いてないと思う。ここの川でツラを洗って出直してきたほうがいい。

 

 さて、ロープがたるむだけなら、まだ良しとしよう。この構造がさらに問題を含んでいるのは、ロープを通す穴のエッジがシャープな状態になっていることだ。ちゃんと面取りすればいいのに、その工程が省略されている。これもコスト削減の結果だろうか。

 そんな穴を通っているロープを、押したり引いたり繰り返したら、どんなことになってしまうか。シャープな穴の角をロープがぎしぎし通過する。そうなると伸びるだけでは済まないことは、誰にだって想像できることと思う。

 ナイロンのロープというのは、それ1本が太いナイロンで出来ているわけではない。細いナイロンの繊維をより合わせて、太いロープを構成しているのだ。したがって、穴の角でこすれたロープの細い繊維は、簡単に切れてしまう。1本、2本、3本、4本。プツプツプツっと切れた繊維は、やがてロープとしての役目を果たせなくなっていく……。

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ヤバい、ヤバい、ヤバい

 結果、ロープはブチ切れた。この柵を管理しているところ(松戸市役所すぐやる課かな?)は、まだこのロープを張り替えるつもりはないようだ。柵のあちこちでこんな応急処置がされたまま、なんとか柵としての姿を保ち続けている。

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まるでプロレスのコーナーポスト

 

ブックオフ大学ぶらぶら学部

2020年08月08日

ブックオフ大学ぶらぶら学部』(岬書店)を読んだ。ブックオフ好きな8人による偏愛エッセイ、および漫画である。

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表4にある値札のデザインが素晴らしい

 えーっ、おれも呼んでよー! というのは正直あるが、そんなことを言ってるとキリがないので、自分が含まれていなくても別にかまわない。むしろ、自分以外の方々がどのようにブックオフを好きで、どのように接しているかを読めるのはとても楽しい。

 知ってる話もあり、まったく知らなかった話もあり、何しろ大好きなブックオフのことだけで1冊が編まれているので、本を読むのが遅いぼくでも半日ほどで読めてしまった。皆さん楽しそうで、この本に参加された皆さんがつくづく羨ましいと思った。

 トップバッターの武田砂鉄さんはプロなだけあって、さすがの書き出しに爆笑。ぼくが武田さんの書くものに常々感じている「いじわるな視線(悪口ではなくて、評論家に必要なものです)」は、ここでも発揮されていて愉快。あと、武田さん『BURRN!』の愛読者だったのが、意外。

 山下賢二さんの項は、編者・島田潤一郎さんによるインタビュー。ブックオフでの収穫について「古書的価値のいいものではなくて、自分的価値のいいもの」という考えに共感する。すでに価値の知られた宝を狙おうとするとブックオフはつまらなくなるが、自分だけの価値観を持っていれば、ブックオフは宝の山になるのだ。

 で、ブックオフでの宝探しの喜びを見事に描かれているのが、BOOKS青いカバの小国貴司さん。絵本コーナーでのテンションの上がりっぷりなど愉快愉快。

 ……と、全員について触れているとこれまたキリがないので省略するが、いちばん驚いたのは東京野球ブックフェアで何度かご一緒したことのある佐藤晋さんだ。ドジブックスというオンライン古書店をやっていることは知っていたが、とにかく文章がうまい。次々と話題が飛躍していく感じがおもしろくて、ぐいぐい読ませる。熱くなりすぎず、一歩引いた視線のバランスもいい。このレベルのエッセイを量産できたらプロになれる。アナタ、いったい何者なんですか。