北千住・大はしの肉とうふ

2年半のブランクを経て飲酒を再開した。そこにはいろいろな事情があるのだが、まあ深くはツっこまないでいただきたい。ともあれ、飲酒の再開にともなって、以前、とりつかれていた東京の下町もつ焼き屋めぐりがまたできるようになったのは、本当に悦ばしいことだ。

というわけで、昨日は健康保険の事務手続きへ出かけた帰りに、北千住で途中下車をした。考えてみたら、最近、やたらと北千住に来ている。旧知の編集者がフリーライターとみさわ昭仁の活動再開をいろいろと支援してくれていて、北千住というのはそのひとと打ち合わせがてら一緒に飲むのに都合がいい場所なのだ。で、北千住には4時半の開店と同時に全席埋まってしまうような煮込みの名店「大はし」というのがあって、いつかそこにも飲みに行きましょうね、なーんて言ってたんだけど……。

待ちきれなくてひとりで来ちゃったよ!

 ネットで拾った外観写真。

こういう飲み屋の世界では、おれ程度の年齢ではまだまだ若造なので、初めての店に入るときにはちょっと気後れする。どんな感じか店内を覗いてみようにも、入り口は磨りガラスなのでよく見えない。なんか楽しげな騒音だけは聴こえてくる。あと匂い。煮込みの甘辛げな匂いに背中を押されて、思い切って引き戸を開ける。

ほぼ満席。まだ5時だというのに! 平日の!

店内は異常に長いカウンターといくつかのテーブル席で、50人ぐらいは余裕で座れるはずなのに、噂通りすでに満席なのだった。でも、よく見たら1席だけ空いていて、これまた噂通り異常に元気なオヤジさんに「おひとりさん、こっちおいで!」と呼ばれて、奥の煮込み鍋の前あたりに着席。これはいい場所だ。

串カツとかオムレツとか普通のつまみもあるようだけど、やはりここへ来たら「牛にこみ(具はカシラ肉のみ。汁なし)」か「肉とうふ(カシラ肉ちょっとと煮汁が染み込んだ豆腐)」を食べなきゃ話になんない。なので、肉とうふを注文。すると、こういうのが出てくる。

グルメ的な表現をするのが苦手なので単刀直入に書くが、こんなにうまい肉豆腐は初めてだ。これでたったの320円。そりゃ満席にもなるよな。実は最初、慣れない店だから酒を注文するときに戸惑って黒ビールの小瓶なんてスカしたものを頼んでしまったんだが、まあ、これはこれでうまいし、肉豆腐にもよく合う。でも、あまりにもうまいうえに話し相手もいないから黙々と食べて飲んで、すぐにビールが空になってしまった。そこで、よくまわりを見渡して、客の大半が飲んでいるキンミヤ焼酎のウメ割りを自分も頼んでみた。それからもういっちょ肉とうふを追加。これで1310円也。

酒もつまみも十分うまいけど、この店にはもうひとつ人気の要素があって、それはカウンターの中で忙しそうに働くオヤジさんと、セガレのコンビだ。さっきも書いたけどこの二人が異常に元気で、明るいんだな。だから初心者にもとっても優しい。下町系のもつ焼き屋は基本的に地元の常連さんを中心に動いているので、それぞれの店には独特のルールが生まれていたりすることが多い。そこへ余所者が入っていって場違いな注文の仕方をしたりすると、冷ややかな視線で見られたり、場合によっては怒られたりすることがある。その辺の事情はわからないでもないけど、ちょっと切なくなったりもするよな。でも、この「大はし」はオヤジさん&セガレコンビの人当たりの良さのおかげで、とても居心地がよかった。酒も肴も人もいい。そんで懐にもやさしい。もう言うことなし。また来よう。