ゾウの時間、ネズミの時間、うたの時間

学芸大学のブックオフに行くついでに立ち寄った普通の古本屋さんで、こんな本を見つけた。

歌う生物学 必修編

歌う生物学 必修編

「歌う」ってのがどういう意味なのか、最初はよくわかんなかったのだが、本を手に取って表紙をめくろうとしたところですぐにわかった。ソフトカバーなのに妙にごわごわしていて、カバーをめくったら付録にCDが3枚も付いていた。そう、これは「歌って覚える生物学」の本なのだ。
著者の本川達雄先生というひとは、東工大の生物学教授である。世間的にはベストセラーになった『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)の著者としてよく知られていることと思う。だから、本書も生物学のテキストとしては、まあ信頼のおけるものと考えてよいだろう。実際、生物学の基礎となる70の項目が、それぞれ平易な文体で簡潔に解説されており、ボンクラなおれでもぐっと理解が深まっていく(ような気がする)。
だが、この先生は、それでも不十分だと思ったようだ。どんなに易しく書いても、テキストだけでは伝わらない。だから歌って聴かせようとしたのだ。自分で。
自分で?
そうなのだ。本書で採り上げた生物学の基礎項目を、本川先生は自分で作詞して自分で作曲して自分で歌っているのだ。そうして出来た全70曲を、CD3枚に収録して付録にしてあるのだ。いったいなんだろう、この情熱は。学者としての使命感はもちろんあったのだろうけど、おそらくそれだけじゃない。とにかく“歌いたかった”のではあるまいか。Wikipediaで本川先生の項を見てみると、誰が書いたのかは知らないが、肩書きとして「生物学者」の他に「シンガーソングライター」なんて書いてある。
さて、ここでひとつ例を挙げよう。生物の体の基本構成が細胞の集合体であると判明したのは、まず1838年にシュライデン(Matthias Jakob Schleiden)が植物において報告し、翌年、動物でも同様の細胞説が成り立つことをシュワン(Theodor Schwann)が報告した。これらの細胞説が近代生物学の出発点となっているわけだが、このあたりの事情を本川先生はこんなふうに唄う。

いろんな意味で「すげー!」と思うよ、おれは。


ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)