第13湯目「梅の湯/足立区15番」

名古屋レポートの途中ですが、ここらでまた銭湯のことも。

その業種に多い屋号、というのがある。蕎麦屋だったら「更科」や「長寿庵」、中華そば屋なら「来々軒」、酒屋なら「三河屋」。漫画やアニメの影響でそういうイメージが作り上げられているだけで、実際には三河屋なんて酒屋はそう多くないのかもしれないが、それはそれとして、銭湯に多い屋号はなんだろうか?

とくに調べたりはせずに直感で言うと、それは「梅の湯」ではないかと思う。なにしろ、まず銭湯めぐりを始めていちばん最初に入ったのも「梅の湯」だった。これは狙ったわけではなく、神保町の自分の店からもっとも近い銭湯だから、というだけの理由だ。そして、今回行くのもまた「梅の湯」なのだ。場所は北千住。

実は、北千住には西口と東口にそれぞれ「梅の湯」があった。残念ながら西口の梅の湯は2011年の2月28日で閉店したそうだが、東口の梅の湯はまだ営業を続けている。それにしても、同じ土地に同業者が同じ名前で営業していたら何かと面倒だったろうと思うんだが、ま、いまさら気にしてもしょうがないか。

西口の梅の湯が閉店する前に訪れている人のブログを見ると、あちらはいかにも銭湯然とした、い〜い佇まいの店だったらしい。けれど、こちら(東口)だって負けていない。公式サイトによれば昭和2年創業だというから、かなり年季が入ってる。

いや〜、この“町田忍が黙っていないぞ感”は素晴らしいですな!

内部も非常に天井が高くて気持ちがいい。例の文字盤ニョキーン体重計はあるし、マッサージ椅子もある。あと、保健室みたいな木製の身長測るやつと、ぶら下がり健康器まで! なんか脱衣所がレトロアイテム見本市みたいになってておかしかったな。

浴場には、富士山の壁画がドーンとあって、これも最高。あらゆる面で、自分の子供時代の記憶にある銭湯だった。こういういいものを最近の子供たちは体験できずに可哀想だよねえ……とは、まったく思わない。だって、これはおれが子供だった頃の懐かしさだからね。いまの子にはいまの時代の風景や体験が世界のすべてであって、それを大人が哀れむ必要なんてない。やがて彼らが大人になった頃にはさらに世界の景色は一変しているはずだ。そうなったとき、高層ビルやスカイツリーやインターネットが、彼らにとっての“懐かしいもの”として甦ってくる。郷愁ってのはそういうもんだ。

風呂あがり、西口へ出て「かぶらや」にコシを落ち着ける。ここはお茶の水にも支店があるけど、もつ焼きは1本80円と安いうえに、1本ずつ注文できるのがありがたい。入店が遅かったために30分ほどでラストオーダーになってしまったけど、もつ焼き6本に生キャベツで、酎ハイ3杯。いい心持ちで帰路についた。

と、ここまで書いたところでやっぱり正確な数が気になるので、「湯めぐりマップ」を引っ張り出して銭湯の名前を集計してみた。すると……。

1位. 「松の湯」 21軒
2位. 「大黒湯」 13軒
3位. 「竹の湯」 12軒
4位. 「鶴の湯」「日の出湯」 それぞれ11軒ずつ
5位. 「梅の湯」「亀の湯」 それぞれ9軒ずつ

なるほどねー。こうして集計することで、銭湯の名前には目出たい言葉を付ける、という基本法則があらわになったね。松・竹・梅ときたらそりゃ「松」が強いに決まってるよな。あと鶴・亀。これも納得だ。そして意外な伏兵が大黒様(七福神)だった。たしかに「弁天湯」なんてのも見た覚えがあるけど、ベスト5にランクインするほどではなかった。なんかおれ、メチャメチャ銭湯を楽しんでるなー。