真鍮はマニアの黄金

かつて、ジッポーを集めてた頃にね、Mさんというコレクター仲間がいたんだ。このひとは、ジッポーが好きなだけじゃなくて、鉄道模型なんかも大好きなひとだったのね。ジッポーというアイテムへの関わり方は、「ミリタリーグッズの一環として」とか、「ハードボイルドへの興味で」とか、「アウトドア的機能美から」とか、いろいろなアプローチがあるわけだけど、このMさんの場合は「金属ガジェットへの興味」だったんだな。その感じはすごくよくわかる。シャキーン(開けて)→シュボッ(着火して)→カチャッ(閉じる)っていうジッポーで煙草に火をつけるときの一連の動作は、たしかに金属フェチでなくても心に訴えかけるものがある。
あるとき、そんなMさんを含むコレクター仲間10数人で、小田原へお泊まりオフに出掛けることになったんだ。
ジッポーコレクターのオフ会って、いったいどんなことをするかというと、まずみんなで電車に乗って目的地へ行き、予約しておいた宿にチェックインする。その後、せーので町に散開して、おのおの事前に下調べしておいた古道具屋とか時計屋とかディスカウントショップとか、そういうジッポーをあつかっていそうな店をまわって、掘り出し物を探してくるわけ。
べつに小田原という土地に意味はないんだ。実際、この宝探しオフ会は大阪でもやったし、小諸でもやっている。ようするに、デッドストックの眠っている店がありそうな地方都市ならば、どこでもいいってことだね。
で、まあ、おれも小田原の町へ出掛けていろいろ店を覗いたりしたんだけど、その日はこれといった出会いに恵まれず、ロクな収穫が得られなかった。仕方ないので、宿へ帰る道をとぼとぼ歩いていると、途中、歩道の端にキラン☆と光る何かが落ちているのに気がついた。
残念ながらジッポーではないよ。
直径4センチ、厚み1センチ程の金属製の丸いキャップだった。綺麗な金色に輝いていた。靴の爪先でつんつんと突いてみると、それなりの手応え(足なのに)が感じられたので、どうやらブリキではなくて、真鍮製だろうということは予想がついた。結局、その件はそれだけのことで、真っ直ぐ宿に帰って風呂に入り、宴会となった。宴会の席では、端から順番にその日の収穫を報告することになっている。おれはジッポーの収穫はなかったけど、どこかの路地で見つけたジッポーライターに似た形の古い自販機か何かを報告したような覚えがある。
それから冒頭で紹介したMさんの順番がきて、おずおずと立ち上がった彼は、ポケットに手を突っ込みながらこういったのだ。
「先程、帰ってくる途中の歩道でこんなものを拾ったんですけどね……」
そう言って彼がひろげた手のひらには、さっきおれが見た真鍮のキャップが乗っていた。

昨日、『アイアンマン』を観ていて、10年ほど前のそんなエピソードを思い出した。Mさん、元気にしてるだろうか。彼が『アイアンマン』観たら失禁しちゃうだろうなあ。